上 下
83 / 112
サムライ校での学園生活

再会と別れ

しおりを挟む

小西「なんで、あいつばっか・・あいつばかり・・・」

小西は、そう呟きながら必死に港のコンクリートの道を走っていた。


なぜ、彼は監禁されていた倉庫から、1人だけ逃げ出すことができたのか?

実は、小西はだいぶ前から、自分を拘束していた太い縄を、近くに落ちていたガラスの破片で膨大な時間をかけて地道に摩擦することで、切っていたのだ・・・

そして、友愛たち3人が、ポイズンや部下たちと闘っていた騒ぎのドサクサに紛れ、逃げ出したわけだ。



小西「ちくしょう!捕まってたまるかよ! 捕まってたまるかよ!」


いずれ、警察が調べれば、自分が行ったことが明るみになる!

そうなれば、せっかく親元から離れ、自由になれたのに・・・また不自由な生活に逆戻りだ。

いやそれよりもっと酷い少年院送りだ!

逃げて、どこへ行くかなんて考えてないけど

やっと、親元から離れられ、外の世界に出れたんだ! このまま逃げてやる!逃げ延びてやる!




ふと、小西の頭に友愛の顔が思い浮かぶ。

なんで、あいつには・・・なんで、あいつには・・・あんなに集まる仲間がいるんだよ・・・

なんで、僕の元には誰も来てくれないんだよ!


信じていた【0】にも裏切られ、もう誰も信用できない!

僕は・・・1人だ・・・・





その時だった! 小西が行く先に立ちふさがる4人の影・・・


小西「き、君らは・・・・」


小西の震える声・・・



野球部の松友

バスケ部の千林

柔道部の城嶋

陸上部の櫻木


小西と同じ小学校だった4人の不良中学生たちが、鉄パイプを持って、ニヤニヤと笑っていた・・・






その頃、友愛たちは警察に保護されながら、救急車が来るのを待っていた・・・

もちろん、救急車は大怪我をした友愛と麗太のためのものだ。


友愛は、今とても身体がだるかった・・・

ポイズンとの戦闘での疲れもあるだろうが、それ以上の何かが自分の身体をむしばんでいるような気がした・・・

身体中が凄く重たくて辛い・・・全身の筋肉が妙に疲労している・・・



だが、その疲労もリリの笑顔で癒された。


リリ「2人とも本当にありがとう! そして、色々ごめんね・・・」


リリの涙は乾き、今はまともに話せる状況になっていた。


友愛「君も、僕らが同じように危険な状況にあったら、きっと助けてくれるよ。」


リリは、笑顔で首を横に振った。


リリ「私には、2人みたいな勇気はないわ。 結局、私は私の身を一番大事に考える人間だもん。」

友愛「それを、ハッキリ言えるだけの勇気があるじゃん。それで、もう十分だよ。」


リリは友愛に笑顔で微笑み返すと、次は麗太の方に向いた。



リリ「両家の代理戦争は私の負けよ、麗太・・・私には危険な状況に身一つでぶつかる勇気はないもの・・・・」

リリのその言葉を聞き、麗太は寂しそうに笑った。


麗太「リリは負けてないよ・・・・僕にはリリみたいに難しいことをすぐ理解できる力もないし、勉強もスポーツも常に人並み以下だった人間だもん・・

それに、もう家同士の都合で、勝ち負けとか気にするの止めようぜ。

両家の親たちのくだらない争いで、子供の僕らがその犠牲になる必要はないと思うんだ・・・

君が負けず嫌いの優等生なのは、わかるけど・・・

僕は、もう昔の幼馴染でいたいんだ・・・ただの仲間として、君と・・・・」


麗太は、顔を赤らめて、その次の言葉が言えなかった・・・

リリは、麗太のその本音を聞くと、また涙が溢れてきた・・・



リリ「うん、ごめん・・・ごめん、ごめんね・・・・」


幼馴染の少年の目の前で、少女は、鼻をすするただの泣き虫の幼馴染に戻っていた・・・




バン!バン!ガン!ガン!


その頃、小西は4人の不良たちに袋叩きにされていた・・・

身体と顔を鉄パイプで滅多打ちにされ、小西の全身は血まみれで、無惨に変形していた・・・

もはや、痛い!とわめく声も出ない小西・・・

死は目の前だった・・・


4人は、完全に狂っていた!


「犯罪者に協力しちまった俺たちの人生は、もう終わりなんだよ!どうせ終わるぐらいなら何やったって同じだろうが!人殺したって同じだろうが!なあ、小西!」

「そもそも、お前がどこの馬の骨とも知れない奴とチャットで会話なんかしなきゃ、俺らが駆り出されることもなかっただんだよ」

「未来の見えない先を心配して生きるぐらいなら、今ぐらい狂わせてくれよ!ガハハハッ!」


それは、まさにこの世に絶望した子供たちの狂気の喚きだった。





リンチに苦しみながら、小西の脳内では走馬灯のように、思い出が蘇っていた・・・

小西「と、父さん・・か、母さん・・・」


優しかった頃の父さんと母さんの顔が、頭の中で思い浮かぶ・・・

貧乏でも、楽しかったな・・・あの時・・・

今は離れ離れになって、僕のことなんかちっとも見てくれなくなった・・・


テストでどれだけ良い点数をとろうが

塾で先生に褒められようが・・・


2人とも、見向きもしてくれなかった・・

僕はただ・・・ただ・・・・構って欲しかった・・・ただ、それだけだったのに・・・

なんで、こんなことに・・・・


誰か、僕と一緒にいてくれ・・・

誰か、僕の手を握って・・・・




冴鶴「死なせはしねえよ・・・・」


ガン!ドコ!バキ!

冴鶴が、まるで疾風のようにやってきたかと思うと、たちまち4人の不良どもを
制圧してしまった・・・

そして、小西の前に駆け寄って・・・


冴鶴「てめえが犯した罪は、てめえで償え・・・だから、こんなところで死ぬな・・・死んだら許さなねえぞ・・・」





救急車のサイレンが鳴る・・・それと共に一台の車も後方からやってきた・・・

担任の浅見先生が、警察からの連絡を受けて、友愛たちの元へやってきたのだ!


浅見先生「みんな!!」


浅見先生は、まずリリの元に駆け寄り、無事かどうかを確認すると、次に友愛と麗太のもとへ


浅見先生「全くあなたたちは何てバカなの!子供が犯罪組織のアジトへ乗り込むなど、前代未聞です!
助かったのは奇跡的なんですよ、ホントに! さあ、早く救急車へ!罰則の反省文はそれからです!」

麗太「あれ?退学じゃないんですか?反省文ですむならよかった~」

のんきな声でそう言う麗太・・・

友愛「先生、待ってください! 実は冴鶴が戻ってなくて、後、小西が見つかってなくて・・・」




冴鶴「一番、最初に救急車が必要なのは、こいつだ!」


冴鶴が、血まみれの小西を背負ってやってきた・・・



友愛「小西君!!」


もう、息も弱々しい・・・

みんなが小西のもとへ駆け寄った・・・



浅見先生「は、早く応急処置をして!」

救急隊員「ハ、ハイ!!」


救急隊員は、すぐに小西を車内にのせる・・・そして応急処置を施そうとするが・・・


だが、もう全ては遅いようだ・・・

今、息をしているのが、不思議なくらい・・・



友愛「小西!」 麗太「小西!」 リリ「小西君!」



ぼやける視界で、自分を呼びかけるクラスメイトを見ながら、小西は思った・・・


そうか・・・

なんで、こいつは・・・こんなに集まる仲間がいるのか・・・

それが、死ぬ前になってやっとわかった気がする・・・


小西「ね、ねえ・・・」


小西は最後の力を振り絞って、かすれた声で、友愛を呼びかけた・・・

友愛は、涙でぼやけた視界で探るように小西の手を握る・・・


小西「な・・・んで・・君は友達がいるの・・?」

友愛は、その問いに、戸惑いつつも笑顔で微笑み・・・


友愛「僕だって少し前までは友達がいなかった・・・・でも、大丈夫・・・君はもう僕らの仲間だ。」


友愛の優しく包み込むようなその言葉に・・・

小西「な・・か・・ま・・・」

最後にそう言い残して、ホッとしたように安らかに目を閉じる小西・・・

辺りに静寂が漂う・・・しかし、今の小西は一人じゃなかった・・・

最後の最後に、多くの仲間に看取られ、その一生を終えた・・・




ガン!

冴鶴は、誰も見ていない倉庫裏の壁で、4人の不良たちをボコボコにしていた・・・

冴鶴「お前らにも、あいつと同じ苦しみを味じあわせてやるよ。」

無表情で、涙1つこぼしていない冴鶴だったが、凄まじい怒りと憎悪が拳にこもっていた・・


「ま、待ってくれよ!!ほら、よくあるだろ?若気の至りってやつ!」


冴鶴「は?」


「そうそう!!盗んだバイクで走り出す的なノリだよ!」

「そうだよ!だからしょうがねえだろ!許してくれよ!」

「ほら、お、俺たちの若くて尖ったエネルギーが暴走しちまったんだよ!」

「俺らだって、たまにボランティアとか良いことしてるんだから許してくれよ!」


4人のその腐った言葉のせいで、冴鶴の拳にますます力が込められていく。


冴鶴「お前ら、突然、自分の日常が奪われ崩壊したら、どう思う・・・」

4人は、冴鶴の迫力に震え上がる・・・

冴鶴「あんま、なめたこと抜かしてんじゃねえぞ・・いいか?俺たち不良は基本的に悪なんだよ。若さと、不良という看板に身を任せて、自分の立場を正当化してんじゃねえぞ・・真面目に生きてる普通の奴らの邪魔をしてんじゃねえよ・・・

それにお前らは不良でもない・・・ただの外道だ。」



冴鶴は、目を光らせ、鉄パイプを握る・・・


4人「ひいいいいい!!」

冴鶴「悪いけど良いやつなんてのは、この世にいねえんだよ・・・悪い奴は悪い奴のまま、死んでけ!」


思いきり、鉄パイプを振り下ろす!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


だが、鉄パイプは、4人には当たらなかった・・・


冴鶴は、飽きたように鉄パイプを横に放り投げ、疲れたような声で・・・


冴鶴「そうか・・・こんな奴ら、殺す価値もなかったよな・・・ばあちゃん・・・」


冴鶴は、誰かの声で止まったかのように、そのまま攻撃を止めた・・・





友愛たちの活躍により、一連の人身売買事件は、警察の目のとまる所になり、それと同時にマスコミによって、社会に明るみとなった。

表沙汰になったこの状況は、犯罪シンジケート【黒丸】に大きなダメージを与えた。

子供たちを商品として、売買する・・・そんな前時代的なことが、現代の日本社会で行われていたという事実は、社会に大きな波紋を呼びネット上でも怒りと非難の声が飛んだ!

だが、黒丸と国が深く繋がっていたことは、流石に明らかにされなかった・・・

警察もその闇に関わることはしなかったからだ・・・当たり前だ、そんなことをすれば警察が潰される危険性があるからだ。


こうして一連の人身売買事件は、ひとまず、これで終わった・・・

そう、思われていた・・・・




ここは、東京の刑務所・・・・

その牢屋の一室にポイズンは閉じ込められていた・・・


ポイズン「クソ!!あんなガキにやられるなんて・・・」

ポイズンは、刑務所に入れられてから、まるでおかしくなったように、ずっとブツブツとそれだけを
呟いていた・・・


その時・・・コツコツという足音が彼の耳に入る・・・

警備の看守か・・・そう思って振り向く・・・


ポイズン「は!!」

ポイズンが、足音の正体を見たとき・・彼の顔は恐怖で凍り付いた・・・


ぎゃああああああああああ!!!


翌朝、ポイズンは、刑務所の冷たい床の上で、血まみれの遺体となって発見された・・・









しおりを挟む

処理中です...