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第4章/冥界 : それぞれの選択肢

第30話/不可

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「ヒーローはやっぱり、剣が使えないと
 カッコ悪いよ!
 
 魔力50%”アラレ”」

「王様なら、絶対杖が欲しいよね!

 魔力50%”アラレ”」

ライメルとリリー。
同時に同じ魔術を発動させる。

アラレは、氷を操って、それを剣や盾、杖、
その他にも、様々な物に変化させることが
可能な魔術だ。

ライメルは、ヒーローには欠かせない存在で
ある、剣を作り、リリーは杖を作った。

もちろん、これらの武器を作って攻撃をする
よりも、普通に攻撃した方が強い。
でも、2人はこの魔術を使っている。

2人は今、この状況を楽しんでいる。
アムネジア帝国の襲撃、混乱する人々、
炎が広がる野原、倒壊する家々。

それら全てを忘れて、この戦いを、心の底
から楽しんでいるのだろう。

でも、この戦いは、唐突に終わりを告げる。

「世界を救える可能性を秘める力を有して
 いながら、その”英雄”がこんなにも
 子供みたいな奴だとはな…
 まあいいか…ガキに助けを求める事自体
 間違いだろう…
 この2人、英雄ライメルと、魔王軍幹部
 リリーの戦いは意味がない。
 仕方ないな…こいつらを止めるか…

 魔力解放520%”リンドヴルム “」

*   *   *

気がつくと、すでに戦闘は終わっていて、
空の色は青く戻っていた。
流石に、焼けた野原はそのままだったが、
帝国の人の状態は、意外にも安定している
様に見えた。

「僕は確かに、リリーと戦っていたはず…」

すると、僕の横には1人の男性が居た。

「…ん、やっと起きたのか…
 お前のお仲間は、復興作業を手伝ってる
 ところだ。幸いあいつらの傷は、そこまで
 深刻なのじゃ無いからな。」

いきなり、何を話しているんだ。
なぜ2人の事を知っているのだろうか…

2人はこの男性と知り合い…いいや、それは
考えにくいな。
そもそも、2人は隣国だとは言え、住んでいた国が全く別なのだから。

と言う事は、やっぱりこの戦いで知り合ったと考えるのが無難だろう。

そして、この男性に敵意は感じられない…
ここは普通に話をしてみよう。

「あの、ありがとうございます。
 僕、あの戦いで何があったのか、よく
 分からなくて…」

「それもそうだろうな。なんせ、俺がお前
 とリリーって奴に、一撃だけヤバい攻撃
 したんだからな。
 お前が無傷でいられるはずもないし、
 俺がお前を傷つけたんだから、その責任
 は最後まで俺が取る。」

ひとまず、悪い人では無いらしい。
それにこの人は、僕の事を助けてくれる
と言う事らしいんだ。
せっかくなら、この人を頼ってみようと
考えている。

「責任は、別に大丈夫ですけど。
 せっかくなら、貴方を頼っても良いで
 しょうか。」

「…頼ると言うのは、俺と一緒に旅をする
 と言う事か?」

「はい、そうなりますね。
 頼んでも、よろしいですか…?」

流石に、一緒に旅をするのは無理だと思った
が、思いもよらない答えが返ってきた。

「…一緒に旅をする。
 その事については問題ない。
 だが、1つだけ条件を飲んでくれ。

 旅をするのなら、俺と2人でだ。」



*   *   *



「じゃあ、セレネ。
 元気でね。いいや、そんな長い時間は
 過ごしてないけどさ…
 僕、結構気に入ってたからさ。
 セレネとの生活が。」

「気にしないで、っては言えない。 
 私だって、別れるのは寂しい。
 しかも、ライメル勝手に話進めちゃうん
 だからさ…
 でも、こう言う時は、笑顔でさよなら。
 ほーらっ!ライメルも顔上げて!」

僕は知らぬ間に、セレネの顔を見る事が
出来なくなっていた。
そして、目元が赤くなった。

セレネが強引に、僕の顔を上げた。
初めて触れられた、セレネの手に。

思ったより小さくて、まだ子供の様な手を
していたけど、初めて会った時よりも、彼女
は大人な顔をしていた。

「うん、ごめん。
 笑顔か…そうだね、笑顔が1番だよね。」

セレネのお陰で、すぐに気持ちを切り替える
事が出来た。
セレネやゼノンとは、もう長い間、会えなく
なってしまうんだなと思うと、なんだか、
大切な物を無くしてしまった様な感覚に
襲われた。

でも、それ以外に、マイナスな考えは全く
頭に浮かんではこなかった。

「じゃ、今度こそ、じゃあね。」

「…うん、ゼノンにも、言っとくから。
 彼の事は、私に任せてよ!
 コミュ力も最近ついたからさ!」

その一言が、彼女の最後の言葉だった。

*   *   *

「別れは、済んだのか?」

「はい、名残惜しいですが、仕方ないです。
 これは、2人の為だから。
 自分の力について、もう少し考えるべき
 でしたね。」

この男性が言うには、僕は、魔王と同等か、それ以上の威力の攻撃すら放てる、世界でも有数の魔術師らしい。

確かに、今まであまり意識はしてこなかった
のだが、よく考えると、魔王同等の力と言う
のは、相当なものらしい。

その力は、自分が意識せずとも、必ず周りに
影響を及ぼしている。
セレネも、僕の魔術を学びたくて、一緒に
パーティを組んだわけだしな…

万が一、僕と一緒に冒険をして、魔王軍など
が僕を狙って襲撃してきた場合、仲間を巻き込む事になってしまう。
それを起こしてはいけないと、この男性は
言ったのだ。

「…そうか。
 それじゃ、せっかく一緒に冒険する事が
 決まったんだ、俺の名前を言う。
 俺はアステラ。
 世界で唯一の、マナソフィアだ。」

マナソフィア。それはただの魔術師ではなく
神と同等の力を有する人物にのみ与えられる
世界最強の称号。

この、マナソフィアは、冒険者の中には、
世界で1人しか存在しない。

「…って事は、貴方が、世界で唯一の、
 マナソフィア…?」

「そうだ。」

世界で唯一のマナソフィア。
だから、僕と一緒に冒険をしても平気なの
だろうか…
おそらく、僕を狙って行われる、魔王軍からの襲撃は、まだまだ続くだろう。
でも、アステラほどの実力者なら、その程度
余裕で切り抜けられるだろう。

仲間を失った悲しみが大きかったが、
アステラの圧倒的な実力による安心感が、
僕の悲しみを、少しだけ緩和した。

*   *   *

「あの、僕たちは今、どこに向かって
 歩いているんですか?」

「少し、調査したい事があってな。
 すまないが、お前を利用させてもらう。
 場所は”ファンタジア”。
 安心しろ、死なせはしない。」

少し怪しいとも思ったが、今はこの人の言葉を信じるしかない。

「分かりました…やりますよ。」

何が始まるかは分からないが、今はただ、
強さを求めて、戦うまでだ。

第30話/不可









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みんなの感想(2件)

伏見祐介
2024.03.21 伏見祐介

wwwwwwwwwwwww
まだ胃から消化酵素を出して刃物でアミラーゼとペプシンに分別する方が面白い

混沌世界終焉
2024.03.21 混沌世界終焉

俺の顔ペプシンで出来てるよ

解除
カエルの王様

好きです😊

混沌世界終焉
2023.08.31 混沌世界終焉

俺も❤️

解除

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