11 / 175
一章 入学旅行一日目
1-06a 歩くような速度で下降しながら、浮遊する
しおりを挟む
『クク・アキ』のファンなら、誰もが試みたであろう、辞典魔法遊び。頭の中で言葉を組み合わせ、どんな魔法が発動させられるか想像して遊ぶのだ。もちろん霧も、色々と言葉を組み合わせては何度も「エアー辞典魔法」遊びを楽しんだことがある。
アニメ化された際には、そのためのオモチャも発売されたほどで、この言葉遊びは知育にも役立っている。
その遊びの体験がこんな風に生かされるなんて思いもよらず、霧は完成した魔法のホログラムを見つめて感動の溜息をついた。
(初めての、あたしの辞典魔法。ホログラムがキラキラしてる。アニメで再現されていた絵より、美しい。尊い。エモい。泣ける)
霧は空中に身を投じる前に、古城学園の階段の上で浮遊感に身を浸しながら感慨にふけっていた。
魔法発動のために選んだ言葉の一つ、「アンダンテ」は音楽用語で、「歩くような速さで」という意味だ。短い言葉でダイレクトな表現のできる音楽用語は、とても使い勝手が良い。「アンダンテ」はもちろん日本語ではないが、この『クク・アキ』では、日本で使われている外来語も有効で、それがまた面白いところなのだ。
その「アンダンテ」という言葉を「下降」とセットにし、『核語』である「浮遊」と繋げたことにより、この魔法は「歩くような速度で下降しながら、浮遊する」という魔法になったのだ。もちろん、『核語』の「浮遊」と繋げた「自分」という文字も欠かせない。『核語』の対象となる単語が選ばれていない場合は、不完全な魔法として不発となるだろう。
地上に降り立つために、どんな魔法を発動させるかは、個人の自由だ。
他の生徒たちは、おのおの最も適していると思われる、別の言葉を選択して魔法を発動させたことだろう。派手な言葉を使い、意気揚々と急下降して、誰よりも一番に地上へ降り立った者もいるに違いない。言葉の選び方次第では、この天空学園を旅立つための、どんな魔法も発生しうる。
しかし霧は、空の旅を楽しみたかった。
もちろん、初めての魔法だから、慎重にしたいという思いもあったが、一気に下りるよりはゆっくり景色を眺めながら辞典魔法という奇跡を楽しみたかった。だから、浮遊とアンダンテ、下降という言葉を選んだのだ。
霧は開いたままの辞典を手に持ち、試しに一番下の階段を目指して、ピョンと飛び降りてみた。ふわっと体が浮く感覚と共に足が階段から離れ、体が緩やかに下降し、目的の段へと運ばれる。トン、と足が階段につくと、浮遊は止まった。この魔法は「浮遊しながら歩くような速度で下降する――対象は、自分」という辞典魔法なのだから、足の下に何らかの物体があるときはそれ以上、下降しない。指示がない部分は、基本、自然法則にのっとって実行されるのだ。だから自分の体が階段を突き破って下降することはない。選び出した最小限の単語で、思った通りの結果となり、霧は満足げに微笑んだ。
「よし、そんじゃ、行きますか」
霧は、エイッとばかりに足をけり、階段の最後の段から、何もない空間へとジャンプした。途端に、支えの無い空気中に体が浮き、ゆるやかに下降してゆく。
「わ、わ、わ、飛んでる、浮かんでる、……あはははは、あは、あはははははは!!」
非日常的な体験に興奮して、思わず笑い声が口から飛び出る。体ひとつで空中に浮かんでいる奇異な状況、そして初めての辞典魔法を成功させた喜びに、体中の血液が沸騰しているかのような錯覚すら覚えた。
強い風が時折霧の体を押し流したが、地上に広がる草原は果てしなく続いていて、多少風に飛ばされても問題なかった。まあ、着地点に何か不都合があったとしても、辞典魔法で対応できるだろう。霧はそう思いながら、空中でうつ伏せになったり仰向けになったり座ってみたりして、存分に空飛ぶ快感に身を任せた。
アニメ化された際には、そのためのオモチャも発売されたほどで、この言葉遊びは知育にも役立っている。
その遊びの体験がこんな風に生かされるなんて思いもよらず、霧は完成した魔法のホログラムを見つめて感動の溜息をついた。
(初めての、あたしの辞典魔法。ホログラムがキラキラしてる。アニメで再現されていた絵より、美しい。尊い。エモい。泣ける)
霧は空中に身を投じる前に、古城学園の階段の上で浮遊感に身を浸しながら感慨にふけっていた。
魔法発動のために選んだ言葉の一つ、「アンダンテ」は音楽用語で、「歩くような速さで」という意味だ。短い言葉でダイレクトな表現のできる音楽用語は、とても使い勝手が良い。「アンダンテ」はもちろん日本語ではないが、この『クク・アキ』では、日本で使われている外来語も有効で、それがまた面白いところなのだ。
その「アンダンテ」という言葉を「下降」とセットにし、『核語』である「浮遊」と繋げたことにより、この魔法は「歩くような速度で下降しながら、浮遊する」という魔法になったのだ。もちろん、『核語』の「浮遊」と繋げた「自分」という文字も欠かせない。『核語』の対象となる単語が選ばれていない場合は、不完全な魔法として不発となるだろう。
地上に降り立つために、どんな魔法を発動させるかは、個人の自由だ。
他の生徒たちは、おのおの最も適していると思われる、別の言葉を選択して魔法を発動させたことだろう。派手な言葉を使い、意気揚々と急下降して、誰よりも一番に地上へ降り立った者もいるに違いない。言葉の選び方次第では、この天空学園を旅立つための、どんな魔法も発生しうる。
しかし霧は、空の旅を楽しみたかった。
もちろん、初めての魔法だから、慎重にしたいという思いもあったが、一気に下りるよりはゆっくり景色を眺めながら辞典魔法という奇跡を楽しみたかった。だから、浮遊とアンダンテ、下降という言葉を選んだのだ。
霧は開いたままの辞典を手に持ち、試しに一番下の階段を目指して、ピョンと飛び降りてみた。ふわっと体が浮く感覚と共に足が階段から離れ、体が緩やかに下降し、目的の段へと運ばれる。トン、と足が階段につくと、浮遊は止まった。この魔法は「浮遊しながら歩くような速度で下降する――対象は、自分」という辞典魔法なのだから、足の下に何らかの物体があるときはそれ以上、下降しない。指示がない部分は、基本、自然法則にのっとって実行されるのだ。だから自分の体が階段を突き破って下降することはない。選び出した最小限の単語で、思った通りの結果となり、霧は満足げに微笑んだ。
「よし、そんじゃ、行きますか」
霧は、エイッとばかりに足をけり、階段の最後の段から、何もない空間へとジャンプした。途端に、支えの無い空気中に体が浮き、ゆるやかに下降してゆく。
「わ、わ、わ、飛んでる、浮かんでる、……あはははは、あは、あはははははは!!」
非日常的な体験に興奮して、思わず笑い声が口から飛び出る。体ひとつで空中に浮かんでいる奇異な状況、そして初めての辞典魔法を成功させた喜びに、体中の血液が沸騰しているかのような錯覚すら覚えた。
強い風が時折霧の体を押し流したが、地上に広がる草原は果てしなく続いていて、多少風に飛ばされても問題なかった。まあ、着地点に何か不都合があったとしても、辞典魔法で対応できるだろう。霧はそう思いながら、空中でうつ伏せになったり仰向けになったり座ってみたりして、存分に空飛ぶ快感に身を任せた。
2
あなたにおすすめの小説
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる