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二章 入学旅行二日目
2-07a 収納魔法とウサ耳妖精 1
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「ちょっと、もうあと30分で9時よ! 撤収の準備! 各自部屋に戻って忘れ物が無いか確認、15分後に部屋前の廊下に集合よ!」
みんながサアッと部屋から出て行くと同時に、霧もまた慌てながら準備を始めた。身だしなみを整え、トイレに行き、私物をバッグの中に回収し、大切な文庫本がしまわれていることを確認する。
「『クク・アキ』8巻……。続きを読みたいけど……また今度だな」
そう呟くと、霧は名残惜し気に豪華な部屋を見回し、最後にバルコニーに出てナイスビューを眺めた。競技場周辺ではすでにたくさんの人が出回っていて、今日という日を楽しもうと浮足立っているのが見える。
霧は深呼吸すると、「おはよう、ククリコ・アーキペラゴ、今日もよろしくね」と世界に向かって声をかけた。
旅立つ準備が整い部屋の外に出ると、リューエストが待っていた。彼は霧が手に持っている布製のバッグを見て、驚いたように声をかけてくる。
「あれ、キリ、どうしたのその荷物」
「え? ホラ、審判妖精柄の可愛いアメニティ、持って帰っていいってホテルスタッフさんが言ってたから、もらったの。リューエストはもらわなかったの?」
霧は常時持ち歩いている買い物用のマイバッグを広げ、その中にアメニティやお菓子、競技場で昨日もらったTシャツなどを入れていた。入学旅行中、荷物になるなぁと思ったけど、置いていくなんて選択肢は、霧には存在していなかった。
それを説明していると、アデルが二人に合流してくる。彼女は昨日と同じ軽装で、霧の荷物を見て言った。
「収納魔法、使えばいいのに。手に持っていると、邪魔でしょ」
「しゅ……収納……まほー……? 何、それ?」
『クク・アキ』にそんなの出てきたかな……と霧が首を傾げていると、リューエストが言った。
「あれ? リール叔母さんがキリに教えてなかったっけ? ああ、いいんだよキリ、もう一度僕が教えてあげるからね。『辞典』にはね、異空間の収納機能も付いているんだ。『辞典妖精』を呼び出して、『辞典』に収納してって頼めば、『辞典』内の収納空間にしまってくれる。だけど、何でもしまえるわけじゃない。生命体や危険物はダメだ。液体もそのままはダメだけど、密閉容器に入っていればOK。大きな物も無理。まあ、自分の手で持てる範囲の物なら大抵、収納できる。自分専用だし、スペースは無限にあるから気にせず使うといいよ。取り出すときも、『辞典妖精』に言えばあっという間に出してくれるからね」
(そんな便利なものが!!)
衝撃のあまり霧の脳内にピシャーン!と雷が落ちる。
間抜けな表情の霧を見て、アデルが真顔で言った。
「でもキリ、多用は禁物よ。収納された物は自分の目で確認できないから、長時間放置してると何をしまったか忘れてしまうこともある。――で、鈍くさい子は自分で『辞典』に収納したくせにそれをすっかり忘れ、紛失したと勘違いして、同じものを新たに購入しちゃったりするのよ。キリってば、いかにもやりそう」
「確かに。いかにもあたし、やりそう。買ったの忘れて同じ本、買ったことあるし。うん。多用は控える。忠告ありがと、アデル」
そこへリリエンヌが部屋から出てきて言った。
「皆さん、お待たせしました。あら、キリ、可愛い手提げかばんね」
霧のマイバッグには、だらんとリラックスしてる可愛い子熊が描かれている。日本で人気のファンシーなキャラクターだ。霧は廊下で待ち合わせていた面々が揃ったのを見て、慌てて言った。
「歩きながら収納魔法使ってみるから、みんな、行こう。9時にホテルエントランスに集合でしょ、ここ最上階だから、急がないと。きっともうトリフォンとアルビレオくんが待ってるよ」
「大丈夫、移動チューブに入ったらあっという間に着くよ」
リューエストがそう言うのを聞いて、霧はそうだった、と思い出した。
この『クク・アキ』の世界は、西洋ファンタジーと未来社会が融合したような世界なのだ。昨日、セセラム競技場のあちこちで見かけた移動用のチューブ――全方向エレベーターのようなハイテク設備は、このホテルにも備わっていて、それに乗ればあっという間に目的地に着く。しかも移動中は、重力など感じさせない快適設計になっている。
霧はみんなと移動用チューブに入ると、さっそく『辞典妖精』を呼び出してみた。
「うさぎ耳の妖精ちゃ~ん……、出てきておくれぇ……」
みんながサアッと部屋から出て行くと同時に、霧もまた慌てながら準備を始めた。身だしなみを整え、トイレに行き、私物をバッグの中に回収し、大切な文庫本がしまわれていることを確認する。
「『クク・アキ』8巻……。続きを読みたいけど……また今度だな」
そう呟くと、霧は名残惜し気に豪華な部屋を見回し、最後にバルコニーに出てナイスビューを眺めた。競技場周辺ではすでにたくさんの人が出回っていて、今日という日を楽しもうと浮足立っているのが見える。
霧は深呼吸すると、「おはよう、ククリコ・アーキペラゴ、今日もよろしくね」と世界に向かって声をかけた。
旅立つ準備が整い部屋の外に出ると、リューエストが待っていた。彼は霧が手に持っている布製のバッグを見て、驚いたように声をかけてくる。
「あれ、キリ、どうしたのその荷物」
「え? ホラ、審判妖精柄の可愛いアメニティ、持って帰っていいってホテルスタッフさんが言ってたから、もらったの。リューエストはもらわなかったの?」
霧は常時持ち歩いている買い物用のマイバッグを広げ、その中にアメニティやお菓子、競技場で昨日もらったTシャツなどを入れていた。入学旅行中、荷物になるなぁと思ったけど、置いていくなんて選択肢は、霧には存在していなかった。
それを説明していると、アデルが二人に合流してくる。彼女は昨日と同じ軽装で、霧の荷物を見て言った。
「収納魔法、使えばいいのに。手に持っていると、邪魔でしょ」
「しゅ……収納……まほー……? 何、それ?」
『クク・アキ』にそんなの出てきたかな……と霧が首を傾げていると、リューエストが言った。
「あれ? リール叔母さんがキリに教えてなかったっけ? ああ、いいんだよキリ、もう一度僕が教えてあげるからね。『辞典』にはね、異空間の収納機能も付いているんだ。『辞典妖精』を呼び出して、『辞典』に収納してって頼めば、『辞典』内の収納空間にしまってくれる。だけど、何でもしまえるわけじゃない。生命体や危険物はダメだ。液体もそのままはダメだけど、密閉容器に入っていればOK。大きな物も無理。まあ、自分の手で持てる範囲の物なら大抵、収納できる。自分専用だし、スペースは無限にあるから気にせず使うといいよ。取り出すときも、『辞典妖精』に言えばあっという間に出してくれるからね」
(そんな便利なものが!!)
衝撃のあまり霧の脳内にピシャーン!と雷が落ちる。
間抜けな表情の霧を見て、アデルが真顔で言った。
「でもキリ、多用は禁物よ。収納された物は自分の目で確認できないから、長時間放置してると何をしまったか忘れてしまうこともある。――で、鈍くさい子は自分で『辞典』に収納したくせにそれをすっかり忘れ、紛失したと勘違いして、同じものを新たに購入しちゃったりするのよ。キリってば、いかにもやりそう」
「確かに。いかにもあたし、やりそう。買ったの忘れて同じ本、買ったことあるし。うん。多用は控える。忠告ありがと、アデル」
そこへリリエンヌが部屋から出てきて言った。
「皆さん、お待たせしました。あら、キリ、可愛い手提げかばんね」
霧のマイバッグには、だらんとリラックスしてる可愛い子熊が描かれている。日本で人気のファンシーなキャラクターだ。霧は廊下で待ち合わせていた面々が揃ったのを見て、慌てて言った。
「歩きながら収納魔法使ってみるから、みんな、行こう。9時にホテルエントランスに集合でしょ、ここ最上階だから、急がないと。きっともうトリフォンとアルビレオくんが待ってるよ」
「大丈夫、移動チューブに入ったらあっという間に着くよ」
リューエストがそう言うのを聞いて、霧はそうだった、と思い出した。
この『クク・アキ』の世界は、西洋ファンタジーと未来社会が融合したような世界なのだ。昨日、セセラム競技場のあちこちで見かけた移動用のチューブ――全方向エレベーターのようなハイテク設備は、このホテルにも備わっていて、それに乗ればあっという間に目的地に着く。しかも移動中は、重力など感じさせない快適設計になっている。
霧はみんなと移動用チューブに入ると、さっそく『辞典妖精』を呼び出してみた。
「うさぎ耳の妖精ちゃ~ん……、出てきておくれぇ……」
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