93 / 175
二章 入学旅行二日目
2-22 親ガチャ、大ハズレ――日本での暮らしはリアルクソゲー
しおりを挟む
日本――霧の生まれた世界。
霧の両親を生んだ世界。
残酷な世界。
「自助」を叫ぶ日本という国は、苦しむ霧に手を差し伸べてはくれなかった。
苦境に立っているのははあなたの努力が足りないせい――世間は、霧にそんな言葉を投げつけてくる。
何も持たずに生まれてきたどころか、マイナスから始まった霧にとって、生きることは苦行でしかない。ハズレくじを引いた人間にとって、この世はリアルクソゲーなのだ。
日本での霧の暮らしは、ひどいものだった。
親ガチャ大ハズレのクズ両親の元に生まれた霧は、両親のネグレクトと父親からの性的搾取を経て児童養護施設に入所し、社会に出るために必要なあらゆる資源――学歴や経済的基盤などを持たずに働き始めた。
18歳で自立することを求められ、何とか一人暮らしを始めた霧だったが、最初の正規雇用先は一年も経たず倒産、再就職先はなかなか見つからず、アルバイトを掛け持ちする毎日となった。何とか正規雇用の職を見つけたら、そこは従業員を使い捨ての奴隷としか思っていないようなブラック企業。心も体もズタボロになり、辞めなければ自殺か過労死の二択、という状況で退職。またもやアルバイト掛け持ちに逆戻り。
霧と同じような生育環境を経た女性の中には、苦境に立たされた挙句、風俗の道に入る者もいる。彼女たちは霧が貧乏のどん底にいるのを知ると、仕事を紹介すると誘ってきた。けれど霧にとって、その選択肢は無いも同然。なぜなら霧は、性交渉への嫌悪感が強すぎて、そういう気持ちで男性に触れられるだけで気分が悪くなり、実際に吐いてしまうのだ。しかしもし仮にそのような症状が出なくても、霧はそちらへは行かなかっただろう。金銭と引き換えに男たちの慰み者になるぐらいなら、死んだ方がマシだという思いが、常にあったのだから。だから霧は歯を食いしばって、低賃金のアルバイトで食いつないだ。
そうやって、無為な労働に時間を費やす日々がむなしく過ぎてゆき。
やがて掛け持ちに体力的・精神的な限界を感じるようになった霧は、アルバイト先を一本に絞った。しかしその職場も人件費を削って常に人手不足の状態で、労働環境は最悪。既存のスタッフは最低賃金の長時間労働に追われ、体調が悪くても事実上休めない。その上雀の涙のような給金からごっそり税金や社会保険料その他を持っていかれ、日々の生活費ですら困窮する始末。
その挙句――霧はつい最近、クビになった。雇用側の身勝手な理由で。
(……でも、今思えば、クビになって良かった)
霧はしみじみと、そう振り返った。
『竜辞典』に選ばれた今、失職していたのは好都合だったと。出勤してこない霧のせいで、バイト仲間が穴埋めに追われて困ることも無い。
日本での胸糞悪い出来事の数々を思い出してしまった霧は、自分の心に暗い影を落とすそれらを払拭するように首を振ると、最新刊の続きに立ち返った。
(やめよやめよ。あんなクソな社会のことなど、思い出したくもない。さあさあ、続き続き。いったいチェカに、何があったんだ?)
霧の両親を生んだ世界。
残酷な世界。
「自助」を叫ぶ日本という国は、苦しむ霧に手を差し伸べてはくれなかった。
苦境に立っているのははあなたの努力が足りないせい――世間は、霧にそんな言葉を投げつけてくる。
何も持たずに生まれてきたどころか、マイナスから始まった霧にとって、生きることは苦行でしかない。ハズレくじを引いた人間にとって、この世はリアルクソゲーなのだ。
日本での霧の暮らしは、ひどいものだった。
親ガチャ大ハズレのクズ両親の元に生まれた霧は、両親のネグレクトと父親からの性的搾取を経て児童養護施設に入所し、社会に出るために必要なあらゆる資源――学歴や経済的基盤などを持たずに働き始めた。
18歳で自立することを求められ、何とか一人暮らしを始めた霧だったが、最初の正規雇用先は一年も経たず倒産、再就職先はなかなか見つからず、アルバイトを掛け持ちする毎日となった。何とか正規雇用の職を見つけたら、そこは従業員を使い捨ての奴隷としか思っていないようなブラック企業。心も体もズタボロになり、辞めなければ自殺か過労死の二択、という状況で退職。またもやアルバイト掛け持ちに逆戻り。
霧と同じような生育環境を経た女性の中には、苦境に立たされた挙句、風俗の道に入る者もいる。彼女たちは霧が貧乏のどん底にいるのを知ると、仕事を紹介すると誘ってきた。けれど霧にとって、その選択肢は無いも同然。なぜなら霧は、性交渉への嫌悪感が強すぎて、そういう気持ちで男性に触れられるだけで気分が悪くなり、実際に吐いてしまうのだ。しかしもし仮にそのような症状が出なくても、霧はそちらへは行かなかっただろう。金銭と引き換えに男たちの慰み者になるぐらいなら、死んだ方がマシだという思いが、常にあったのだから。だから霧は歯を食いしばって、低賃金のアルバイトで食いつないだ。
そうやって、無為な労働に時間を費やす日々がむなしく過ぎてゆき。
やがて掛け持ちに体力的・精神的な限界を感じるようになった霧は、アルバイト先を一本に絞った。しかしその職場も人件費を削って常に人手不足の状態で、労働環境は最悪。既存のスタッフは最低賃金の長時間労働に追われ、体調が悪くても事実上休めない。その上雀の涙のような給金からごっそり税金や社会保険料その他を持っていかれ、日々の生活費ですら困窮する始末。
その挙句――霧はつい最近、クビになった。雇用側の身勝手な理由で。
(……でも、今思えば、クビになって良かった)
霧はしみじみと、そう振り返った。
『竜辞典』に選ばれた今、失職していたのは好都合だったと。出勤してこない霧のせいで、バイト仲間が穴埋めに追われて困ることも無い。
日本での胸糞悪い出来事の数々を思い出してしまった霧は、自分の心に暗い影を落とすそれらを払拭するように首を振ると、最新刊の続きに立ち返った。
(やめよやめよ。あんなクソな社会のことなど、思い出したくもない。さあさあ、続き続き。いったいチェカに、何があったんだ?)
0
あなたにおすすめの小説
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件
フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。
だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!?
体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる