105 / 175
三章 入学旅行三日目
3-04a 入学旅行3日目の朝
しおりを挟む
1階部分の広いリビングには、海側の庭に出るための掃き出し窓がある。そこからアデルが顔をのぞかせると、庭にいるリリエンヌが笑いながら声を上げた。
「アデル、見てちょうだい! 遂に念願のラフィノースと出会って、契約できたの!」
リリエンヌはその腕の中に、琥珀色をした可愛らしい言獣を抱いている。コロンとした丸いボディに小さな足と手が生え、頭から豊かな葉に包まれた黄色い花が咲いている。つぶらな瞳と笑っているような口元が、かなり愛らしい。この言獣は遭遇確率がとても低いので、稀少言獣の括りに入っている。アデルは子供の頃図鑑で見た、「可愛い言獣ベスト10」のページのラフィノースを思い出しながら、リリエンヌの元に駆け寄った。
「わ、すごいじゃない、リリエンヌ! ラフィノースの現物なんて、初めて見たわ、私」
「わたくしもよ! ああ、嬉しい! なんて素晴らしい日なのかしら! リューエストとキリのおかげよ!」
「僕の知識が役に立ってよかったよ。『言魂界』への道が開いているこのルルシャンリニアン島なら、きっと呼び寄せることができると思ったんだ。キリもいるしね」
リューエストのその言葉を聞き、アデルはドキッとしてキリに視線を向けた。昨晩の辛そうな様子が嘘のように、今朝のキリはすっかりいつもの調子で奇声を上げている。
「うきゃああぁ、ほんときゃわいいぃお~! ラフィちゃん、最高っス! こっち向いて、むきゃぁあああ、もほぉうぅぉ! ……ん、どした、アデル? あ、あたしうるさい? キモい? ですよね、ごめん」
「いや、えっと……。もう慣れたわよ、キリの奇人変人ぶりには。……なるほど、キリの『辞典』は桁外れに強力だから、言獣ホイホイに使ったのね、リューエスト?」
「ご明察。言獣は強い『辞典』が大好きだからね。言獣の気配が濃厚なこの地で、オリゴ系を呼び寄せる特殊な技を使えば、高確率でキリの『辞典』に惹かれてやってくるだろうと思ったんだ」
アデルは頷きながら、辺りに転がっている無害で可愛い、ありふれたオリゴ系の言獣を見ながら言った。
「はあ、なるほどね。それでこの子たちも惹かれてやってきたというわけね。可哀相に、すがるような瞳でキリを見てるじゃない、この子たち。キリと契約したくてたまらないって感じ」
「そうなんだけど、この子たち、あたしのそばまで来たらなんか弾かれるんだよね」
キリがそう言った瞬間も、足元にすり寄ってきたオリゴ系の白いふわふわの言獣が、弾かれてポーンと3メートルぐらい先に飛ばされた。それを見ながらリューエストが口を開く。
「キリの『辞典』には、この子たちと同じ種類の個体がすでに契約済みで宿ってるんだと思う。言獣は同種類の別個体と、主を共有するのを嫌うからね」
「こんな可愛い子、もうこのりゅ……、いや、あたしの『辞典』にいるのか!」
嬉しそうにそう言ったキリに、リリエンヌがびっくりして声をかけた。
「あら、覚えていないんですの、キリ? 契約したことを?」
その質問に答えたのは、リューエストだった。
「キリが目覚めた直後、いっぱい言獣が群がってきて、キリってば手当たり次第に契約してしまったらしいんだよね。ほとんど無意識に。きっと『嘆きの雨雲』も、そのとき契約したんだろうね。他にもきっと、稀少種や固有種がいるんだろうな。今度、一緒に言獣チェックしようよ、キリ。お兄ちゃんが色々教えてあげる」
リューエストがそう言うのを聞きながら、キリは何やらブツブツ言っている。
「あっ……そうなんだ……へぇ……そういう、ことに、なってるのか……ふぅん……そっかぁ……あたし、手当たり次第に……ほほう……」
他人事のように呟くキリに、アデルは呆れた表情で小さく叫んだ。
「そういうこと……って……、無意識って、そんなこと、ある?! いくらキリが規格外だからってそこまで馬鹿なこと……いや、キリならあり得る、のかな、驚異の非常識ぶりだもんね……」
「馬鹿で非常識でごめんなしゃい……ほぼその通りかと思いましゅ……」
幼児みたいな発音でシュン、と縮こまるキリの様子に、アデルはハッとして口をつぐんだ。「ごめ、言い過ぎた……」と素直に謝ってきたアデルに、キリはにこーっと笑って「いやいや、正直にズバッと言ってくれた方がアデルらしくてあたしは好きだ! 前も言ったような気がするけど、何回でも言う!」と叫ぶ。
その二人のやり取りを微笑みながら見ていたリューエストが、静かな声でアデルに話しかけた。
「キリは目覚めてから半年間、ずっとぼんやりしていてね、僕やリール叔母さんが話しかけたら反応はするものの、いつも心ここにあらずって感じだったんだ。だからその間の色んなことを覚えていないのも、無理はない。僕たちとこんな風に長い会話ができるようになったのも、最近のことなんだよ。あのときは嬉しかったなぁ……キリが僕に向かって言った、初めてのお願い事……」
「なんて言ったの?」
興味津々という感じで、アデルが食いつく。
「アデル、見てちょうだい! 遂に念願のラフィノースと出会って、契約できたの!」
リリエンヌはその腕の中に、琥珀色をした可愛らしい言獣を抱いている。コロンとした丸いボディに小さな足と手が生え、頭から豊かな葉に包まれた黄色い花が咲いている。つぶらな瞳と笑っているような口元が、かなり愛らしい。この言獣は遭遇確率がとても低いので、稀少言獣の括りに入っている。アデルは子供の頃図鑑で見た、「可愛い言獣ベスト10」のページのラフィノースを思い出しながら、リリエンヌの元に駆け寄った。
「わ、すごいじゃない、リリエンヌ! ラフィノースの現物なんて、初めて見たわ、私」
「わたくしもよ! ああ、嬉しい! なんて素晴らしい日なのかしら! リューエストとキリのおかげよ!」
「僕の知識が役に立ってよかったよ。『言魂界』への道が開いているこのルルシャンリニアン島なら、きっと呼び寄せることができると思ったんだ。キリもいるしね」
リューエストのその言葉を聞き、アデルはドキッとしてキリに視線を向けた。昨晩の辛そうな様子が嘘のように、今朝のキリはすっかりいつもの調子で奇声を上げている。
「うきゃああぁ、ほんときゃわいいぃお~! ラフィちゃん、最高っス! こっち向いて、むきゃぁあああ、もほぉうぅぉ! ……ん、どした、アデル? あ、あたしうるさい? キモい? ですよね、ごめん」
「いや、えっと……。もう慣れたわよ、キリの奇人変人ぶりには。……なるほど、キリの『辞典』は桁外れに強力だから、言獣ホイホイに使ったのね、リューエスト?」
「ご明察。言獣は強い『辞典』が大好きだからね。言獣の気配が濃厚なこの地で、オリゴ系を呼び寄せる特殊な技を使えば、高確率でキリの『辞典』に惹かれてやってくるだろうと思ったんだ」
アデルは頷きながら、辺りに転がっている無害で可愛い、ありふれたオリゴ系の言獣を見ながら言った。
「はあ、なるほどね。それでこの子たちも惹かれてやってきたというわけね。可哀相に、すがるような瞳でキリを見てるじゃない、この子たち。キリと契約したくてたまらないって感じ」
「そうなんだけど、この子たち、あたしのそばまで来たらなんか弾かれるんだよね」
キリがそう言った瞬間も、足元にすり寄ってきたオリゴ系の白いふわふわの言獣が、弾かれてポーンと3メートルぐらい先に飛ばされた。それを見ながらリューエストが口を開く。
「キリの『辞典』には、この子たちと同じ種類の個体がすでに契約済みで宿ってるんだと思う。言獣は同種類の別個体と、主を共有するのを嫌うからね」
「こんな可愛い子、もうこのりゅ……、いや、あたしの『辞典』にいるのか!」
嬉しそうにそう言ったキリに、リリエンヌがびっくりして声をかけた。
「あら、覚えていないんですの、キリ? 契約したことを?」
その質問に答えたのは、リューエストだった。
「キリが目覚めた直後、いっぱい言獣が群がってきて、キリってば手当たり次第に契約してしまったらしいんだよね。ほとんど無意識に。きっと『嘆きの雨雲』も、そのとき契約したんだろうね。他にもきっと、稀少種や固有種がいるんだろうな。今度、一緒に言獣チェックしようよ、キリ。お兄ちゃんが色々教えてあげる」
リューエストがそう言うのを聞きながら、キリは何やらブツブツ言っている。
「あっ……そうなんだ……へぇ……そういう、ことに、なってるのか……ふぅん……そっかぁ……あたし、手当たり次第に……ほほう……」
他人事のように呟くキリに、アデルは呆れた表情で小さく叫んだ。
「そういうこと……って……、無意識って、そんなこと、ある?! いくらキリが規格外だからってそこまで馬鹿なこと……いや、キリならあり得る、のかな、驚異の非常識ぶりだもんね……」
「馬鹿で非常識でごめんなしゃい……ほぼその通りかと思いましゅ……」
幼児みたいな発音でシュン、と縮こまるキリの様子に、アデルはハッとして口をつぐんだ。「ごめ、言い過ぎた……」と素直に謝ってきたアデルに、キリはにこーっと笑って「いやいや、正直にズバッと言ってくれた方がアデルらしくてあたしは好きだ! 前も言ったような気がするけど、何回でも言う!」と叫ぶ。
その二人のやり取りを微笑みながら見ていたリューエストが、静かな声でアデルに話しかけた。
「キリは目覚めてから半年間、ずっとぼんやりしていてね、僕やリール叔母さんが話しかけたら反応はするものの、いつも心ここにあらずって感じだったんだ。だからその間の色んなことを覚えていないのも、無理はない。僕たちとこんな風に長い会話ができるようになったのも、最近のことなんだよ。あのときは嬉しかったなぁ……キリが僕に向かって言った、初めてのお願い事……」
「なんて言ったの?」
興味津々という感じで、アデルが食いつく。
0
あなたにおすすめの小説
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様
あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。
死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。
「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」
だが、その世界はダークファンタジーばりばり。
人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。
こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。
あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。
ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。
死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ!
タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。
様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。
世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。
地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件
フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。
だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!?
体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる