浜辺のスローライフ~カニさんたちとの異世界生活日誌~

かにすごくうまい

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126話:食文化の広がり

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異世界生活三百五十五日目(続々)



うどん屋台は大盛況だった。注文はひっきりなしに来て、大忙しだ。



「メグミ!天ぷらうどん二つ!」



手伝ってくれているカンナ船長の声が響く。



「はーい!あ!もう天ぷらの材料がない!」



わたしはコメちゃんズ冷蔵庫を開けて、魚や山菜が無くなってしまったことを伝える。



「わるいねえ!天ぷらうどんは品切れだよ!」



「めんとつゆはあるんだろ?かけうどんでいいから喰わせてくれよ!」



お客さんからの声が聞こえる。



「メグミ!うどん自体はまだあるのかい?」



「うん。かけうどんなら、まだいくらか出せるよ」



「じゃあ、かけうどん二つでいいね?お客さん」



「おう!天ぷらも気になったけど、やっぱうどん自体が食えねえとな!」



ほどなくして、うどんの麺もつゆもなくなり、味噌煮込みも作れなくなってしまった。完売だ。



「完売でーす!」



ザワザワ



「売り切れかよ、喰いたかったなあ」



「明日も売りに出してくれねえかなあ」



わたしが完売を宣言すると、まだ並んでいた人たちが、惜しみながらばらけていった。



「はあ……メグミやっと終わったね、嵐の航海だって、こんなに忙しかったことないよ」



海刃丸かいじんまるは嵐にめっぽう強いですからね」



「そういうことじゃないよ!ヒュウガ!この馬鹿っ!」



ポカッ



カンナ船長が、ヒュウガさんの頭をはたいた。勢いがない。本当に疲れたのだろう。



「それにしても本当に売れましたね!これなら港湾長も、大満足なんじゃないですかね」



「いや、不満だ」



「不満なんですか……って港湾長!?」



「いつも、神出鬼没なの止めておくれよ港湾長……」



「俺の気配に気づけない、お前たちが未熟なだけだ、屋台のカニたちは、ハサミを振ってくれていたぞ」



「ちいこいのに凄いんだねメグミの所のコメちゃんズは……ってところで何が不満なんだい?余計なこと言って、メグミを困らせるんじゃないだろうね?」



「困らせるかもしれん。だがこれは西山港せいざんこうにとって大切なことだ。店主メグミよ、うどんの秘密を、西山港のうどん屋に教えてくれないか?」



「な、なに言ってんだよ港湾長!メグミのうどんの秘密を聞き出そうなんて!」



「いいですよ!」



「っていいんかい!メグミ!」



「はい、別に秘密でも何でもないですし、本職のうどん屋さんなら、すぐできると思いますよ」



「いや、できん、俺にはどんなものを使って、この味を出しているかわからなかった」



いつの間にか、うどん屋の親父さんがやってきていた。



「えーっとですね、とりあえずこの鰹節と、昆布で出汁を取ってですね、いい感じに混ぜて、醤油を適量混ぜるだけですよ」



「その鰹節!あんたが持ってきていたのか!半年前に少しだけ流通した以上にうまい鰹節、見間違えるはずがない!」



うどん屋の親父さんは鰹節に釘付けになっていた。



「えっと、たしかに、半年前、鰹節を売りましたけど、そんなに違ったんですか?」



「俺の知りうる限り、最高の旨味を出せていた。そしてその昆布とやら、それも西山港では見ないものだ、東方の首都、淵平城えんぺいじょうではそう言ったものから、出汁を取ることもあるとは聞いたことがあるが、あまりにも高級で、実物は初めて見るな」



「そうなんですね、じゃあ西山港に鰹節と昆布を提供すれば、天ぷらうどんも作れそうですか?」



「いや、それだけじゃ無理だろう。あんたの醤油を一口くれないか?」



わたしは醤油瓶を取り出して、味見用の皿にたらして渡した。



ペロリ。



「やはりこれもか、西山港の醤油と品質が違い過ぎる。これなら少量でもしっかりとした旨味がでてなおかつ塩味を抑えれる」



その後、うどん屋の親父さんに、調味料を全部味見してもらったが、どれも易々と手に入る質じゃないみたいだった。



「これは無理だ、職人としての腕では埋められない素材の質に差がある。淵平城から金に糸目をつけずに買い付ければ再現できるだろうが、それじゃ店はやってけねえよ」



「そこまでなのか、彼女の屋台に積まれていた物は……」



港湾長も深く考え込んでしまっているようだった。



「あの、調味料とかは多めに仕込めば、西山港にも分けれると思いますよ?」



「いや、店主メグミよそれではだめだ、こちらからも何か出して交易にならなければ、市場が破壊されてしまう」



「えーっと、そうですね、わたしの浜辺だと、中々手に入れれないものを、買うためのお金で、普通に取引できればいいですよ!」



「でも、メグミちゃんに、お金必要そうに見えないけどねえ……」



「カンナ船長たちが、西大陸に来るための運賃にするとかで、なんとか」



「え!?俺たちが西大陸に交易に行くんですか!?カニのパラダイスに!?」



「そりゃそうだろうよ、海刃丸より早い船は東方どころか世界のどこにもないし、メグミちゃんとも知り合いで、スムーズに取引できるんだから。ヒュウガ!諦めな!」



「こ、港湾長~! (もう、だめだ……おしまいだ……)」



ヒュウガさんは情けない声を上げた。



「カンナ!よくわかってるじゃねえか!じゃあ値付けもお前に任せるから、西山港の発展のために、西大陸との交易路を頼んだぞ!」



港湾長はそう言い切るとうどん屋の親父さんと一緒に、街中へと帰っていった。



「はあ、とんでもない仕事を受けちまったねえ……西大陸への航路なんて確立してないのにさ」



「ほら、船長危ないからやめときましょう!俺たちは港湾長の部下じゃないんだから!」



「勝さんなら安全な海路がわかると思いますよ。一緒にゆっくり帰りましょう!」



「ゆっくりって、海刃丸でも相当かかる距離ってことだよねぇ……」



「あ、勝さんは意味不明に速いので、数時間でここまで来れるんですけど、船だといくら早くても流石にそこまで速くないかなって……」



「スケールがおかしすぎないかい……」



「化け蟹様に付いてくってことですか?船長!俺は船を降ります!」



「降りれるわけないだろ!あんたに選択肢はない!!覚悟を決めて西大陸に行くよ!!」



「イヤダーーーー!!」



ヒュウガさんの絶叫が、夕暮れの自由商業区画に、空しく響いた。



こうしてわたしは、カンナ船長たちを伴い西大陸へと帰るのであった。
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