そして、腐蝕は地獄に――

ヰ島シマ

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第五章 滅亡、または繁栄を祝う輪舞

84.金煌爛々こそ、影は深まれり

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「うぅ”っ……!! せ、聖女さま”っ、はやくお助けくださいぃ”っ……!! 家畜の世話の途中で腕を噛まれちゃって……!! 傷口をふさぐために夫が熱々の火かき棒を押し当てたらっ、も”っど痛ぐなっぢゃっでぇっ……!!」
「大丈夫、すぐ楽にしてさしあげますわ」


 ランカガの押し掛けを食らってから数日は気が気でない時間を過ごしたものの、次なる騒動も起こらぬお陰で、エイレン達はすっかり元の生活に戻っていた。
 いつものようにうたい文句に引き寄せられた訪問客に会っては体を乗っ取り、人形と化した個体を解き放ち……この手の甲に酷い火傷を負った女性は本日三人目の治療希望者。彼女もそうなる運命だった。

 少し知恵を働かせれば火かき棒を押し当てた後の展開など読めるだろうに、無知な人間というのは実に突拍子のない行動を取るものだと呆れる気持ちを隠しながら、エイレンは痛ましく溶けて歪んだ彼女の傷跡に自身の手のひらを重ねた。
 そして……そう、いつものように――。


「ゔッ”―― ブェ”ッ”!? ゴブッ”、ぐっ、ィッ”、ィ”ヒッ”!! ィ”ギッ”、イ”ヒィ”ィ”ィ”ィ”ィ”ッ”―― !!」
「……ッ”!? ァ”ッ”――!?」
「お嬢様っ、どうしました!?」


 女の体内に流し込んだ分裂体が肉体の内側を作り変えようと働きだした時、エイレンの身に異変が起きた。

 ベルトリウスは短い悲鳴を上げて硬直してしまったエイレンを抱きかかえた。まるで本物の人形のように、形の良い目を恐ろしいほどにかっ開いて動きを止めている少女を見て、ベルトリウスは嫌な予感というものに背中をゾワリと撫でられた気がした。

 足元に転がる女に目をやると、苦しみにのたうち回る女の顔には、どういうわけか笑みが浮かべられていた。結局、内蔵を破壊されていたことが原因で女はしばらくの後に死亡したのだが、エイレンは依然として停止したままだった。


 ベルトリウスは少女を抱えたまま治療部屋を飛び出し、廊下を駆けながら私室にこもるイヴリーチへと連絡を取った。移動と会話を並行しながら、道すがら、すれ違う人形の全てがエイレンと同じく動きを止めていたことに気が付いた。
 窓の上部を拭くために布巾を片手に背伸びして固まっている使用人。書類を眺めながら歩いていたであろう役人。二人並んで会話に花を咲かせていた、見回りの兵士達など……ベルトリウスはすぐに、ある男の姿が脳裏によぎった。

「西手の仕業か……!」

 ベルトリウスはこらえきれず舌打ちした。そう、考えられるのは先程の女だ。彼女は西手……ランカガの手先で、その身を犠牲にして、エイレンに何らかの傷害を与えたのだ。そして、エイレンが使役する全ての人形達が機能を停止してしまった……己が付いていながら何たる不覚と、ベルトリウスは敵に出し抜かれたことに苛立ちを募らせた。
 私室を目指して勢いよく階段を上っていると、同様に部屋を飛び出してきたイヴリーチと踊り場で合流した。イヴリーチは目を見開いたままピクリとも動かない親友を前に、青ざめた顔で身を震わせた。

「エイレンっ、エイレンっ!? あぁぁっ、どうしようっ、エッ、エイレンがっ、エイレンがっ!! あぁっ、どうしようっ!?」
「取り乱すな。お前はこのガキを連れて城を出ろ。クリーパーは呼んである。あいつが到着するまでの間、どこへでもいいから逃げるんだ。恐らく敵は街の近くまで迫ってる……外も包囲されてると踏んでいいだろうな。俺が暴れて注意を引き付けるから、イヴリーチは熱探知で人のいない場所を探せ。時間は稼ぐつもりだが、もしそっちに手ごわい相手が行っちまった場合はお前がエイレンを殺すんだ。その後で自決しろ」

 前回のランカガの襲撃を彷彿ほうふつとさせるようにスラスラと命令を下すベルトリウスに対し、思考が追いつかないイヴリーチは、何とか頭に浮かんだ言葉を口にした。

「じ……じけつ、ってなに……?」
「”自殺しろ”ってことだ。死にさえすりゃあ強制的にエカノダ様の元まで帰ることができるからな、最も避けるべきは”生け捕り”だ。ああいった連中は珍しい生き物をすぐ解剖したがる……エカノダ様はお前を特に気に掛けてるみたいだからな。捕まればきっと俺に連れ戻すよう指示するだろう。でも、俺だってわざわざ危険な場所に飛び込みたくはねぇ。だから面倒になる前に、潔く死んでくれ」


 心底鬱陶そうな表情を向けられ、イヴリーチはどうしてこんな酷いことを言えるのだろうと胸を痛ませた。今までだって残酷な人だとは思っていたが、今回は、ずば抜けて心のない宣言だと思った。
 だが同時に、確かに仲間に余計な面倒を掛けさせてはいけないと感じてしまった、早熟の少女の自己責任の念が、その細い首を縦に頷かせた。

 かくして、二組に分かれた魔物達はそれぞれ背を向けて走り出した。ベルトリウスは城外へ、イヴリーチはエイレンを抱いて離れの双塔へ……その選択が正しかったのかどうかは、神のみぞ知る―― と、いったところか。



◇◇◇



「す、スタウツーデュ殿っ、本当によいのだろうかっ? 後で無実の領民を殺害したと北手に糾弾されれば、言い訳のしようもないぞっ!?」
「そう怯えるなアナビーニホ。言っただろう、大義は我らにあると。ガガラは密かに敵国の手に落ちていたのだ。背反はいはんの罪人から母なる祖国を守護する……これは名誉の戦いだ。それとも、この俺の言葉が信用できないと?」
「エッ!? いやっ、そんなことはっ……!! ……グヌヌッ! わかりましたっ……ここまで兵を挙げたのですっ!! 我らも覚悟を決めます!! さぁっ、先導してください西手殿っ!! 共に逆賊の北手を討ち果たしましょうっ!!」
「いやいや、先駆けの功名は貴公に譲ろう! ぜひ一皮むけた若者の勇姿を、老いたる俺に見せてくれ!」
「ア”ェッ!? ェ”ッ……、ハ、ハハッ……あのぉ……ハイ……承リマシタトモ……」
「うむ!! 頼んだぞ!!」

 フォエルマが連れてきた南部の騎士達は、うだつの上がらない主人とその背中を遠慮なしにバシバシと叩く西手を見比べ、何とも言えない気持ちになった。
 せせら笑いを浮かべる西部の騎士達に見送られながら、フォエルマ率いる南部の部隊は各通りに分かれて進行していった。

 笑顔を繕う必要がなくなったランカガは、すぐに暑苦しく振る舞っていたよそ向けの面をいだ。冷めた金の瞳が、坂の上にそびえ立つ馴染みの城を捉える。
 ずっと昔、パジオとカーネスターの結婚式に参列した日のことを思い出す。空には花が舞かれ、若き日の二人が権力のいざこざも忘れて幸せそうに微笑み、手を取り合っていた。まさか二十数年経った今、こうして懐かしの場所で破壊行為をすることになろうとは……。


「旧友の家を荒らすのは気が引けますか?」


 懐古かいこに浸りながら城を眺めていたランカガの横顔に、嫡男のヤブラギィが、からかいを含んだ声色で言葉を投げ掛けた。
 髪色や目元など、容姿に関しては母方の血を強く継いでいたヤブラギィだが、亡き三男のローカンよりも遥かにたくましい体格といけ好かない内面は、ランカガ譲りだった。


「俺がそんなしおらしい男に見えるか」
「いいえ? ただ珍しく感慨深そうなお顔をしてらしたので、例外もあるのだなぁーと……おっと! こりゃ失言でしたね。そんな恐ろしい目を向けんといてくださいよ……誰かさんみたいに首を飛ばされるんじゃないかとヒヤヒヤしちまいます」
「……いい加減にその危ない橋を渡る癖を正せ。品位に欠ける砕けた口調もな。この地を治めたあかつきにはお前に統治を任せてやるつもりだが、あまりに酷い態度を取り続ける場合は考え直さねばならん」
「ハハッ、そりゃ困りましたなぁ……では、俺も南のおぼっちゃんの後に続いて武功を立てるとしましょうか。貴方の花道を整えに……ね」

 自身の顎髭を指先で撫でながらクツクツと喉を鳴らしたヤブラギィは、部下を連れて正面の大通りを練り歩いた。
 時間を止められたようにピタリと静止した人形達の首を、屈強な男達が躊躇ちゅうちょなく斬り落としていく。ある者は木こりのような構えで剣を振りかぶり、人形の頸椎けいついに体重の乗った重い一振りを加えて首を打ち飛ばした。またある者はのこぎり歯のような剣身をした肉裂き用の短剣を使い、腕を押して引いて、生を奪う感触を味わいながら作業にいそしんだ。


 一つの悲鳴も上がらない風景は異様だった。
 騎士達の動作によって立てられる音だけが街中にむなしく響き、赤い花弁の絨毯じゅうたんが敷かれるが如く、鮮やかな染みが獅子の行路を彩った。だがランカガは息子がお膳立ぜんだてした通路を行かず、あえて別部隊が進む道を選んだ。きっと開幕時の皮肉にへそを曲げたのだと、ヤブラギィは口の端をおどけたように上げてみせ、苦笑いする自身の部下と一緒に肩をすくめ合った。

 気を取り直し、首をる作業に戻ろうとしたヤブラギィ部隊の元にとつとして舞い込んだのは、街の高台方面から聞こえる大勢の野太い悲鳴と、”ザバザバ”という大量の水の流れる音だった。
 いきなり湧いて出た喧騒に、ヤブラギィ達は一斉に上り坂の先へと目をやった。
 市場の奥の曲がり角より現れたのは、茶色く濁った、建物の二階部分まで達した”大波”だった。

 ガガラは街自体が高所に築かれているため、下方を流れる自然の河川を市場へ引くには魔術で流水方向を操作する必要があった。こうして術をかけられた水路を氾濫はんらんさせるには、新たな命令の書き換えを行えばよいのだ。恐らくやけになった北部側の術師が、多少街を汚してでも西南部隊を追い払おうとしているのだとヤブラギィは判断した。

 ヤブラギィの部隊はすぐにそれぞれの最寄りの脇道へと駆け込み、正面から大波を受け止めることだけは回避した。
 本来ならばこのような狭路せばじに隠れるのは、水が溢れた際に不利になるため愚策とされるが、咄嗟のことに他に手がなかった部隊は状況を受け入れるしかなかった。
 しかし後悔の具合に対して、各路に侵入してきた汚水は騎士達の足元を濡らす程度に留まった。人間の背丈を優に超える高さの波は、ほんの十数メートル分だけだったのだ。そこが通り過ぎてしまえば、あとの水量は腰の下ほどで一定している。

 動作に制限が生まれたものの、この程度の足止めならば残りの波が過ぎ去るのを待てばいい。術師を探して殺せば、こんな小細工もなくなるだろう。
 一番最後に脇道へ入ったヤブラギィは本道から飛び散る水しぶきに顔の前に腕をかざしながら、勢いよく過ぎてゆく水流を眺めてふと、先陣を切ったフォエルマのことを思い出した。

「うぉいコレぇっ、もしかしなくとも南手殿ぁ流されちまったかぁーー!?」
「隊長ッ、ですッ!!」
「あ”ぁ―― っ!?」

 背後にいた側近の叫びに、ヤブラギィは肉体を硬化させる術を一瞬で展開し、手にしていた剣を本道に向けて突き刺した。すると、すでに腰の辺りまで水位の下がった本道の濁った汚水の中から、奇妙にも伸びてきた暗い肌色の腕が剣身を強く掴んで握り締めた。
 次いでヤブラギィ自身をも捕らえようと、もう一方の手が目前へと迫り……と、誰が見ても絶体絶命とおぼしき状況のヤブラギィであったが、本人は慌てた様子を見せず、背後の部下達がただちに放った突風で、正体不明の敵は脇道から本道へと押し返されてしまった。

 ヤブラギィから奪った剣を汚水に投げ捨て、受け身を取った何者かがすぐに立ち上がろうとするので、西部の騎士達は脇道から火球や風の刃を放ち、相手に集中的に浴びせた。
 しかし、元より広くない両道での攻防……自身らを巻き込む危険性があったため、騎士達は威力をしぼった術しか使わなかった。普通の人間ならば避けようもない猛攻なのだが、敵は獣のような反射神経でかわし続け、ついには跳躍だけで三階建ての家屋の屋根に上り、頭上から騎士達を見下ろして不思議そうに呟いた。

「おかしいな、鎧くらいは壊れてもいいはずなんだが……」
「蛮族にお似合いの汚らしいワザだな。ユージャムルではこんもんが流行ってるのか? ちょいと俺にも教えてくれよ、絶対使わねぇーけど」
「貴族のくせに品のねぇ喋り方だ。母親は行きずりの売女ばいたか?」

 先に挑発したことも棚に上げ、ヤブラギィはこめかみにくっきりと青筋を浮かべた。
 髪から水をしたたらせ、穴の空いた装備をボトボトと地面へ落としてゆくほぼ裸の男―― ベルトリウスの返しを受け、ヤブラギィは締まりのない笑みを消し、ある”言葉”を発した。


「”タェニス”」


 直後、ベルトリウスの冴え渡る聴力が、”バリバリバリッ”という空気を裂く音を拾った。
 ベルトリウスは咄嗟に二建隣の家屋の屋根へと跳び移った。そして次の瞬間、ベルトリウスが立っていた場所には、青白く輝く直径一メートルほどの光の柱が、鼓膜を突き破るようなたけりを上げて通過していった。

 ―― ”タェニス”……その言葉は、”いかずち”を意味していた。

 雷は通りざまに触れたあらゆる物をちりに変えて突き進んだ。空から降る落雷と同様、轟音と震動を携えてベルトリウスが乗っていた家屋の上部分を全て飲み込み、衝撃と熱で隣接する建物の壁まで弾き壊した。
 燃える家屋……延焼の熱を背に感じながら、ベルトリウスは下から続けざまに繰り出される二発目、三発目の光の柱を、音を頼りに避けていた。

 落雷というのは古くから様々な地域で、”神の怒り”であると信じられている災厄さいやくだ。ともすれば、ヤブラギィが気前よく放ってくるこの雷にも、浄化の光と同じ効果があるのではとベルトリウスは考えた。実際には”雷よタェニス”には神聖性はなく、聖魔術に分類されることもないのだが、たとえ光の枝先であろうと一度触れてしまえば建物を崩壊させるほどの凄まじい衝撃が体内へ流れ込んでくるという点では、聖魔術と変わらず完璧な回避し続けなければならなかった。

 軽いだけの男かと思ったが、今まで会ったどの魔術師よりも強力な相手だ……ベルトリウスはヤブラギィへの認識を改めた。
 このままでは防戦一方だと考えたベルトリウスは、跳び移っていた屋根から跳び下り、ヤブラギィ達のいる場所から少し離れた裏路地へと姿をくらませた。

「かくれんぼか? 何発目で当てられるか楽しみだぜ……―― ”雷よタェニス”!! ”雷よタェニス”!! ”雷よタェニス”!! ”雷よタェニス”!! ”雷よタェニス”!! ”雷よタェニス”!! ”雷よタェニス”!! ”雷よタェニス”!! ”雷よタェニス”ッ!!」


 本道へ出たヤブラギィは、ベルトリウスが身を潜めたと思われる方面へ見境なしに雷を撃ち飛ばした。轟音の連鎖が続き、中心をくり抜かれた家屋が次々と倒壊してゆく。
 同じく本道へ出てきていた騎士達は、術を連発する主を囲むように立ち構えながら、土煙の奥に目を凝らした。死角から襲ってくることも考慮して全方位に注意を向けていたが、反撃は上空から行われた。

「――ッ、”風よラヴシュ”ッ!!」

 突如視界に映る小さな丸い影に気が付いた部下の一人が、考えるよりも先に頭の上に向かって突風を飛ばした。すると、ぜた茶色の液体が”ビシャッ!!”と音を立てて、円陣から外れた地面へと落下し、散り散りになって地を濡らした。

「チッ、っとに妙なワザを使いやがる……! こうなりゃ全員で仕留めるぞ!! 奥の部隊を巻き込もうがっ、気にせず術を放て!!」
「はっ!」
「承知!」

 そして再開される雷の連射は、ベルトリウスを苦しめた。ヤブラギィの号令により攻撃に加わった部下達が発生させる火球や火柱が、倍の速度で隠れる場所を減らしていく。物陰が段々となくなり、瓦礫の下にもぐったところで火の手が回り、材木を燃やしてしまう。立ち上がった黒煙は突風で吹き飛ばされて視界は良好になり、そこにまた雷が通り抜ける。息の合った連携はたまったものではなかった。
 一度だけ、狙いを定めて円陣の内側で濃縮した毒の塊を弾けさせ、全員に命中させることに成功したのベルトリウスだったが、どうしてか彼らは痛がる素振りを見せず、こちらへの攻撃の手も緩むことはなかった。

 実は西部の部隊は自領を出発する前に、一人一人に”保護魔術”をかけていたのだ。
 目に見えない空気のまく……極薄の空気の壁が体の線に沿って貼り付いていたお陰で、毒は人体に触れる前に弾かれていた。最早接近戦で直接肉体を砕くしかベルトリウスに残された方法はないのだが、魔術師というのは簡単に近寄らせてはくれないらしい。
 結局、ベルトリウスは絶え間なく動き続け、ヤブラギィらに無駄撃ちをさせる作戦に賭けた。以前ケランダットが交戦中に魔力切れになって倒れてしまったのを思い出し、西部部隊を同じ状況に導こうとしたのだ。

 どちらが先に力尽きるか……轟音が交差する市場で駆け引きをする両者の意識の外で、、天から降り注いだ――。


 それはまさしく、”神の怒り”だった。

 二つある幽閉塔のうちの一つに、ヤブラギィが放つ雷とは比べ物にならないほどの極大円の光の柱が落とされたのだ。丸々飲み込まれた尖塔は、一瞬にして姿を消した。
 ”倒壊”ではない。”消滅”だ。


 体を萎縮させる破裂音、破壊音、肌を震わせる空気の振動。
 あらゆる衝撃が、外野にいる全ての人間の視線を奪った。


 ベルトリウスは、イヴリーチとエイレンが死亡したものと判断した。その上で、当面のうちの最大の強敵になるであろう”男”の元へと駆け出した。
 己の命を犠牲にしてでも、その実力を測っておかねばならない。


「おいおい尻向けて逃げちまうのかよぉーーっ!? みっともねぇーーなぁーーっ!?」
「後で殺しに戻ってやるよっ!!」

 ベルトリウスは苛立ったように声を荒らげ、人間離れした速さで坂道を駆け上っていった。
 残されたヤブラギィは達成感のなさに口から小さく息を漏らすと、初めての揉み合いの際に奪われていた自身の愛剣が、見るも無惨に溶け落ちているのを発見し、眉をひそめた。

「隊長っ、我らも応援にっ!」
「いや……今日の父上は特に機嫌が悪い。巻き込まれんのヤだし、俺らは城下に留まって雑草刈りでもしてようぜ」
「はっ……!? 承知、いたしました……」

 ヤブラギィはたかぶり冷めやらない部下達の様子を一瞥すると、父がいるであろう坂の上の城をじっと見つめた。
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