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第六章 遊猟区域
97.最強伝説の幕開け
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話が一区切り付いたところで、ベルトリウスの元へ”城まで顔を見せろ”とのエカノダからの連絡が入った。
気まずそうに押し黙ったまま後を付いてくるケランダットを連れて城内の広間へ向かうと、玉座に腰掛けた状態で出迎えたエカノダは、二人を交互に見やってから疲れたようにこめかみに手を当てて溜息を吐いた。
「ベルトリウス……あまり追い込むなと言ったでしょう……」
「盗み聞きですか? 嫌らしいなぁ……俺達は団結を強めただけです。当分は目立った仲違いも起こさないでしょうし、エカノダ様も気が楽になってよかったじゃないですか」
「そういうことではなくて――」
「ンナしょーもない指摘、今はどうでもエエねん! もっと大事なオハナシがあって呼び出したハズやろ?」
最早定位置となった玉座の隣に立つオイパーゴスが喝を入れられると、エカノダは深呼吸をしてから、二人に召集をかけた目的を伝えた。
「あのユー・ボーローとかいう魔物、仲間に引き入れたいわ。どうにかして勧誘してきてちょうだい」
「はぁ~~~~っ!? 無理に決まってんだろっ!? 戦いを覗いてたんなら分かりますよね、話の通じる相手じゃないって!?」
「それでも配下に欲しいの。大量の魂を消費して弱い魔物を育てていくよりも、最初から強い魔物を強化していった方が遥かに効率的だもの」
「何より貴重やで。地獄の中でも辺鄙なこの土地じゃ、”中央”級に打たれ強い魔物はまァ見つからん。仲間にしておけば、あの子一匹おつかいに出しとくだけで、地域一帯の管理者を知らン間に根絶やしにしてくれるカモ分からん」
初めこそ思いつきによる命令だと激しく拒否したベルトリウスであったが、意外にもエカノダとオイパーゴスがもっともらしい意見を用意していたので、早々に受け入れて黙然と思案を始めた。
「そうは言っても……いくら俺でも、言葉の通じねぇ獣と交渉なんて無理だぜ」
「心配センでも手なら考えとる。ウシくんに人間の魂を注入してみるンや」
「魂を注入?」
何故だかカンテラを片手に提げていたオイパーゴスは、丸っこい体を揺らして一歩前へ出て説明を始めた。
「前に言うたやろ、魔物っちゅーんは色んな生物の魂が混ざり合っとって、その中の種族から主格が決まるって。現時点でのユーなんちゃらくんの主格は獰猛な獣の一点のみやが、外部から人間の魂を注入してそっちの要素を増幅させてあげれば、主格に昇華してワシらとお喋りできるようになるンとちゃうかな?」
「うーん……けど、そう上手くいくか? だいたい注入つったって、どうやって打ち込めばいいんだよ?」
「そういう事情も織り込み済ミや。嬢ちゃんが魂を持ち運びできるよう調整してくれたから、コレをそンままウシくんの体内へ叩き込んだって」
そう言うと、オイパーゴスは手にしていたカンテラをベルトリウスの顔先へと突き出した。
受け取ったカンテラの中には青い炎が揺らめいていた。それは城内の廊下や室内を照らす、壁掛けのカンテラと同じものだった。
一つ気になるのは、中の青い炎がいつもより勢いを増して燃えている点だ。
「もしかして、廊下や部屋の明かりに使われてる炎って……」
「今頃気付いたの? あれは今までに獲得してきた魂の煌めきよ。綺麗でしょう?」
「いつも獄徒の復活に費やす魂が勿体ないと嘆いている割に、装飾に使う分には気にしないんですね……」
ベルトリウスがカンテラの炎を覗きながら呟くと、エカノダはムッと顔をしかめて異論を唱えにかかった。
また話がそれかけていることをオイパーゴスが咳払いで知らせてくれたお陰で軌道は修正されたが、ベルトリウスは晴れない表情のまま、先程の注入の件について頭をひねった。
「にしても、こいつをあの暴れん坊にねぇ……簡単に言ってくれるけどよぉ……」
「物に混ぜて食べさせるでも、目ン玉に直接叩き付けるでも何でもエエねん。もし効果が表れんかった場合は、そん時また別の方法を考えマショ」
「……ということで、何が何でもユー・ボーローを勧誘してくるのよ。話は以上よ」
こうして半ば強引に締めくくられると、ベルトリウスも諦めをつけ、ケランダットと共にボーロー森へ戻ることにした。
地上へ降り立った二人は前回同様、森の外で待機するケランダットと、中を進行するベルトリウスの二手に分かれて行動することにした。
殺すまでに至らなくとも、浄化の術はユー・ボーローの足止めに充分役立ってくれる。もしもの時は前と同じように森の入口で合流して、光に飲まれたユー・ボーローが悶えている間に投擲の届かない場所まで逃げ去ればいい。そこからまた新たな作戦を考えるのだ。
ベルトリウスは魂入りのカンテラを手に提げ、再度禁忌の森へと足を踏み入れた。
オイパーゴスは食べさせても効果があると話していたが、大昔から人間を食らっているユー・ボーローが今も尚、言語を理解できていないということは、腹に収めるだけでは効果が薄いのだろう。
なので、ベルトリウスは眼球に直接叩き込む方法を採用した。
気を張りながら暗闇を進めば、ものの数分で木々がなぎ倒される音が聞こえてきた。
ベルトリウスは近くに生えた最も背の高い木の天辺まで駆け登ると、こちらを捕捉して吠える真下のユー・ボーローに向かって、高所から落ちる勢いを利用して疾風の如く木の表面を駆け下りていった。
そして突き出た黒い鼻に飛び乗り、ギョロリと向けられた赤い瞳の中心に、カンテラを持った腕を叩き付けた――。
大抵の生き物にとって目玉は急所部分であるが、魔物……それも上位種に位置するユー・ボーローにとっては、この程度は目にゴミが入ったくらいの攻撃にも満たない一撃であった。
だが、狙いは果たされた。
ベルトリウスは側面から伸びてきた丸太のように太い毛むくじゃらの手を見事にかわして、近くの木々へと跳び移った。
こちらの決死の行動を”ちょっかい”と見なしたのか、ユー・ボーローは例の如く怒りに身を任せて、ベルトリウスが逃げる方へと突進して追いかけてきた。
「おいっ、俺の言葉が分かるかっ!!?? 一旦止まれっ!!!! 俺はお前と話がしてぇんだっ!!!!」
「ブガァ”ア”ッ”ッ”!!!!!!!! ブル”ル”ッ”ッ”―― !!!!!!!!」
ベルトリウスは逃走しながらも呼び掛けを続けた。
正直言うと、この作戦は失敗するものだと思っていた。しかし領地で預けられたカンテラの中身は、エカノダが特別に圧縮して固めた数百分の魂の集合体であった。
今まではユー・ボーローの強靭な肉体に釣り合うだけの”刺激”が足りなかったのだ。
ベルトリウスが目に埋め込んだ濃厚な魂の集合体は、ユー・ボーローの全身を駆け巡り、彼の中で眠っていた人間の要素を増幅させた――。
「……オメ……ナニ、イッテル……?」
「おっ―― !? マジで話せるようになったのか……!? おいっ、俺の言ってることが理解できるか!?」
走行から歩みへと、足の動きを緩やかに切り替えたユー・ボーローに、ベルトリウスも思わず木の上で立ち止まった。
二人……いや一人と一匹は、共に首を傾げて向き合った。
「ブル”ル”ッ”…………ン”ーーーーッ”……? ナン、カァ……オレ、サマ……ナンカ、ヘン?」
「ユー・ボーロー、今までの攻撃については謝るよ。俺はあんたと話がしたかっただけなんだ」
「ユー……ボーロー……? オレサマ、ノコトカ?」
「そう、”オレサマ”のことだ……あんたさ、俺の仲間になっちゃくれねぇか? うちのご主人に仕えてくれるっていうなら、この森からどうにかして解放してやるぜ」
「カイホー……出ル……俺サマ、外ヘ出ラレルノか?」
ユー・ボーローの発音は驚くべき早さで、なめらかなものに変化していった。
”驚くべき”と称したのは、何も発音だけが優れていたからではない。この猛進しか頭になかった獣に、ベルトリウスの発言の内容を即座に理解して、即座に返答するだけの知能が宿ったことが驚きなのだ。
だからこそというべきか……ベルトリウスは”ブルルッ”と鼻を噴かせて唸るユー・ボーローを前に、次にどんな言葉を投げ掛けてやればいいか悩んだ。
人間の頃にどうしようもなく考え足らずな荒くれ者共をまとめていたから分かるのだ。暴力で全てを解決しようという輩は、他人から何を言われようが変わらないものだ。
知能が上がったと言えど、それは三歳児が六歳児のやるようなことを覚えたから感動したというだけで、結局は本人が幼子の枠から抜け出たわけではないのだ……。
「ソイツ……強イか? オ前より強ェのか?」
「そうだな……俺より強いよ。他にも俺より強い仲間がいっぱいいる。どうだ、一緒に来て力比べでもしてみないか? 誰にも縛られることなく、好きに暴れ回られるなんて魅力的だろう?」
「強い……でも……お前は俺サマより、弱ェよな? 俺サマより弱ェヤツが強いって言っても、きっとソイツも俺サマより弱ェってコトだ」
ベルトリウスはいつでも動き出せるように足に力を込めた。
初めて見るユー・ボーローの笑顔は、おぞましいほどに口角がつり上げられていた。牛も人間と変わらぬ笑みを作ることができるのだなと思うと同時に、ベルトリウスはケランダットとの合流地点を目指して走り出していた。
「ブル”ァッハッハッハッハッ!!!! 仲間だってェ? 嫌だねッ!! 俺サマァ、だーーーーれの下にもツかねェ!!!! 俺サマがイチバンだッ!!!! 俺サマに勝てる奴ァいねェ!!!! 弱ェーーーー肉ドモの言うコトなんて聞いてヤルつもりァねェよッ”―― !!!!」
高らかに笑い声を上げたユー・ボーローも駆け出した。ベルトリウスを追いながら、道中へし折った手頃な大木を投げたり振るったりして走行を邪魔してくる。
当初の”交渉”という目的を果たしたまではよかったのだが、この流れは一番引き起こってはいけないものだった。知能を付けた上に敵対する……何という骨折り損だろうか。
森の外へ出たベルトリウスは、そのまま足を止めることなく待機していたケランダットを腹から掬って担ぎ、背後からの投擲を避けながら街道へと一目散に逃げていった。
「テメェ戻ってこい弱肉がァ”ッ”!!!!!! 俺サマをココから出しやがれェ”ッ”!!!!!! 俺サマは外へ出てェぞォ”ッ”!!!!!! こんなトコに閉じこめやがった肉ドモを皆殺しにしてヤるッ”ッ”!!!!!! ブル”ル”ッ”……―― ブモ”ォ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”ーーーーーーーーーーッ”ッ”!!!!!!!!!!!!!!!!」
瞬く間に小さくなる獲物の影にわなわなと巨体を震わせると、自然の牢獄に囚われし魔牛は激憤を込めた雄叫びを天に向かって轟かせた。
気まずそうに押し黙ったまま後を付いてくるケランダットを連れて城内の広間へ向かうと、玉座に腰掛けた状態で出迎えたエカノダは、二人を交互に見やってから疲れたようにこめかみに手を当てて溜息を吐いた。
「ベルトリウス……あまり追い込むなと言ったでしょう……」
「盗み聞きですか? 嫌らしいなぁ……俺達は団結を強めただけです。当分は目立った仲違いも起こさないでしょうし、エカノダ様も気が楽になってよかったじゃないですか」
「そういうことではなくて――」
「ンナしょーもない指摘、今はどうでもエエねん! もっと大事なオハナシがあって呼び出したハズやろ?」
最早定位置となった玉座の隣に立つオイパーゴスが喝を入れられると、エカノダは深呼吸をしてから、二人に召集をかけた目的を伝えた。
「あのユー・ボーローとかいう魔物、仲間に引き入れたいわ。どうにかして勧誘してきてちょうだい」
「はぁ~~~~っ!? 無理に決まってんだろっ!? 戦いを覗いてたんなら分かりますよね、話の通じる相手じゃないって!?」
「それでも配下に欲しいの。大量の魂を消費して弱い魔物を育てていくよりも、最初から強い魔物を強化していった方が遥かに効率的だもの」
「何より貴重やで。地獄の中でも辺鄙なこの土地じゃ、”中央”級に打たれ強い魔物はまァ見つからん。仲間にしておけば、あの子一匹おつかいに出しとくだけで、地域一帯の管理者を知らン間に根絶やしにしてくれるカモ分からん」
初めこそ思いつきによる命令だと激しく拒否したベルトリウスであったが、意外にもエカノダとオイパーゴスがもっともらしい意見を用意していたので、早々に受け入れて黙然と思案を始めた。
「そうは言っても……いくら俺でも、言葉の通じねぇ獣と交渉なんて無理だぜ」
「心配センでも手なら考えとる。ウシくんに人間の魂を注入してみるンや」
「魂を注入?」
何故だかカンテラを片手に提げていたオイパーゴスは、丸っこい体を揺らして一歩前へ出て説明を始めた。
「前に言うたやろ、魔物っちゅーんは色んな生物の魂が混ざり合っとって、その中の種族から主格が決まるって。現時点でのユーなんちゃらくんの主格は獰猛な獣の一点のみやが、外部から人間の魂を注入してそっちの要素を増幅させてあげれば、主格に昇華してワシらとお喋りできるようになるンとちゃうかな?」
「うーん……けど、そう上手くいくか? だいたい注入つったって、どうやって打ち込めばいいんだよ?」
「そういう事情も織り込み済ミや。嬢ちゃんが魂を持ち運びできるよう調整してくれたから、コレをそンままウシくんの体内へ叩き込んだって」
そう言うと、オイパーゴスは手にしていたカンテラをベルトリウスの顔先へと突き出した。
受け取ったカンテラの中には青い炎が揺らめいていた。それは城内の廊下や室内を照らす、壁掛けのカンテラと同じものだった。
一つ気になるのは、中の青い炎がいつもより勢いを増して燃えている点だ。
「もしかして、廊下や部屋の明かりに使われてる炎って……」
「今頃気付いたの? あれは今までに獲得してきた魂の煌めきよ。綺麗でしょう?」
「いつも獄徒の復活に費やす魂が勿体ないと嘆いている割に、装飾に使う分には気にしないんですね……」
ベルトリウスがカンテラの炎を覗きながら呟くと、エカノダはムッと顔をしかめて異論を唱えにかかった。
また話がそれかけていることをオイパーゴスが咳払いで知らせてくれたお陰で軌道は修正されたが、ベルトリウスは晴れない表情のまま、先程の注入の件について頭をひねった。
「にしても、こいつをあの暴れん坊にねぇ……簡単に言ってくれるけどよぉ……」
「物に混ぜて食べさせるでも、目ン玉に直接叩き付けるでも何でもエエねん。もし効果が表れんかった場合は、そん時また別の方法を考えマショ」
「……ということで、何が何でもユー・ボーローを勧誘してくるのよ。話は以上よ」
こうして半ば強引に締めくくられると、ベルトリウスも諦めをつけ、ケランダットと共にボーロー森へ戻ることにした。
地上へ降り立った二人は前回同様、森の外で待機するケランダットと、中を進行するベルトリウスの二手に分かれて行動することにした。
殺すまでに至らなくとも、浄化の術はユー・ボーローの足止めに充分役立ってくれる。もしもの時は前と同じように森の入口で合流して、光に飲まれたユー・ボーローが悶えている間に投擲の届かない場所まで逃げ去ればいい。そこからまた新たな作戦を考えるのだ。
ベルトリウスは魂入りのカンテラを手に提げ、再度禁忌の森へと足を踏み入れた。
オイパーゴスは食べさせても効果があると話していたが、大昔から人間を食らっているユー・ボーローが今も尚、言語を理解できていないということは、腹に収めるだけでは効果が薄いのだろう。
なので、ベルトリウスは眼球に直接叩き込む方法を採用した。
気を張りながら暗闇を進めば、ものの数分で木々がなぎ倒される音が聞こえてきた。
ベルトリウスは近くに生えた最も背の高い木の天辺まで駆け登ると、こちらを捕捉して吠える真下のユー・ボーローに向かって、高所から落ちる勢いを利用して疾風の如く木の表面を駆け下りていった。
そして突き出た黒い鼻に飛び乗り、ギョロリと向けられた赤い瞳の中心に、カンテラを持った腕を叩き付けた――。
大抵の生き物にとって目玉は急所部分であるが、魔物……それも上位種に位置するユー・ボーローにとっては、この程度は目にゴミが入ったくらいの攻撃にも満たない一撃であった。
だが、狙いは果たされた。
ベルトリウスは側面から伸びてきた丸太のように太い毛むくじゃらの手を見事にかわして、近くの木々へと跳び移った。
こちらの決死の行動を”ちょっかい”と見なしたのか、ユー・ボーローは例の如く怒りに身を任せて、ベルトリウスが逃げる方へと突進して追いかけてきた。
「おいっ、俺の言葉が分かるかっ!!?? 一旦止まれっ!!!! 俺はお前と話がしてぇんだっ!!!!」
「ブガァ”ア”ッ”ッ”!!!!!!!! ブル”ル”ッ”ッ”―― !!!!!!!!」
ベルトリウスは逃走しながらも呼び掛けを続けた。
正直言うと、この作戦は失敗するものだと思っていた。しかし領地で預けられたカンテラの中身は、エカノダが特別に圧縮して固めた数百分の魂の集合体であった。
今まではユー・ボーローの強靭な肉体に釣り合うだけの”刺激”が足りなかったのだ。
ベルトリウスが目に埋め込んだ濃厚な魂の集合体は、ユー・ボーローの全身を駆け巡り、彼の中で眠っていた人間の要素を増幅させた――。
「……オメ……ナニ、イッテル……?」
「おっ―― !? マジで話せるようになったのか……!? おいっ、俺の言ってることが理解できるか!?」
走行から歩みへと、足の動きを緩やかに切り替えたユー・ボーローに、ベルトリウスも思わず木の上で立ち止まった。
二人……いや一人と一匹は、共に首を傾げて向き合った。
「ブル”ル”ッ”…………ン”ーーーーッ”……? ナン、カァ……オレ、サマ……ナンカ、ヘン?」
「ユー・ボーロー、今までの攻撃については謝るよ。俺はあんたと話がしたかっただけなんだ」
「ユー……ボーロー……? オレサマ、ノコトカ?」
「そう、”オレサマ”のことだ……あんたさ、俺の仲間になっちゃくれねぇか? うちのご主人に仕えてくれるっていうなら、この森からどうにかして解放してやるぜ」
「カイホー……出ル……俺サマ、外ヘ出ラレルノか?」
ユー・ボーローの発音は驚くべき早さで、なめらかなものに変化していった。
”驚くべき”と称したのは、何も発音だけが優れていたからではない。この猛進しか頭になかった獣に、ベルトリウスの発言の内容を即座に理解して、即座に返答するだけの知能が宿ったことが驚きなのだ。
だからこそというべきか……ベルトリウスは”ブルルッ”と鼻を噴かせて唸るユー・ボーローを前に、次にどんな言葉を投げ掛けてやればいいか悩んだ。
人間の頃にどうしようもなく考え足らずな荒くれ者共をまとめていたから分かるのだ。暴力で全てを解決しようという輩は、他人から何を言われようが変わらないものだ。
知能が上がったと言えど、それは三歳児が六歳児のやるようなことを覚えたから感動したというだけで、結局は本人が幼子の枠から抜け出たわけではないのだ……。
「ソイツ……強イか? オ前より強ェのか?」
「そうだな……俺より強いよ。他にも俺より強い仲間がいっぱいいる。どうだ、一緒に来て力比べでもしてみないか? 誰にも縛られることなく、好きに暴れ回られるなんて魅力的だろう?」
「強い……でも……お前は俺サマより、弱ェよな? 俺サマより弱ェヤツが強いって言っても、きっとソイツも俺サマより弱ェってコトだ」
ベルトリウスはいつでも動き出せるように足に力を込めた。
初めて見るユー・ボーローの笑顔は、おぞましいほどに口角がつり上げられていた。牛も人間と変わらぬ笑みを作ることができるのだなと思うと同時に、ベルトリウスはケランダットとの合流地点を目指して走り出していた。
「ブル”ァッハッハッハッハッ!!!! 仲間だってェ? 嫌だねッ!! 俺サマァ、だーーーーれの下にもツかねェ!!!! 俺サマがイチバンだッ!!!! 俺サマに勝てる奴ァいねェ!!!! 弱ェーーーー肉ドモの言うコトなんて聞いてヤルつもりァねェよッ”―― !!!!」
高らかに笑い声を上げたユー・ボーローも駆け出した。ベルトリウスを追いながら、道中へし折った手頃な大木を投げたり振るったりして走行を邪魔してくる。
当初の”交渉”という目的を果たしたまではよかったのだが、この流れは一番引き起こってはいけないものだった。知能を付けた上に敵対する……何という骨折り損だろうか。
森の外へ出たベルトリウスは、そのまま足を止めることなく待機していたケランダットを腹から掬って担ぎ、背後からの投擲を避けながら街道へと一目散に逃げていった。
「テメェ戻ってこい弱肉がァ”ッ”!!!!!! 俺サマをココから出しやがれェ”ッ”!!!!!! 俺サマは外へ出てェぞォ”ッ”!!!!!! こんなトコに閉じこめやがった肉ドモを皆殺しにしてヤるッ”ッ”!!!!!! ブル”ル”ッ”……―― ブモ”ォ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”ーーーーーーーーーーッ”ッ”!!!!!!!!!!!!!!!!」
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