そして、腐蝕は地獄に――

ヰ島シマ

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第六章 遊猟区域

102.愛の荒野

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 晴れて霊具の呪縛じゅばくから解き放たれたユー・ボーローであったが、ここでまた一つ新たな問題が発生した。

 この森は盗賊団の隠れ家として使用するために目を付けていたのだ。結果的に駆除ではなく勧誘という形で解決したわけだが、よくよく考えてみると、ユー・ボーローがいなくなると、鳴き声がやんだ森に異変を感じた人々が集まりだすのではないか……?

 というわけで、ベルトリウスはエカノダに相談して、ユー・ボーローの代わりに魔物を生み出して送ってもらうことにした。


 やって来た首の太い体長五十センチほどの鳥型の魔物は、名を“ダンキャー”と言った。
 早速ダンキャーにユー・ボーローの鳴き声を聞かせてやると、ダンキャーは首を上下左右に気味悪く振ってから、本物とまったく同じ声質で鳴き始めた。

『ブモ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ーーーーーーーー!!!!!! どうだァッ、俺サマの初仕事ッ!! 留守は俺サマに任せろッ!! 俺サマ、マネっこウメェだろォ~~!?』
「マァ、すごい! 本物のボーローサマと変わりナイ声!」
「ブルルッ……俺サマこんな弱っちそうな声してねェーぞ……? 声だってもっとイカしてんのに……オメェー、さてはマネっこヘタだな? もっと俺サマっぽく鳴きやがれッ!! こうだこうッ!! ブル”ル”ッ……ブモ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ーーーーーーーー―― !!!!!!」
『変わらねェーじゃねェーかァッ!! オメェーのダミ声マネっこさせられる俺サマの身にもなれッ!! もっと知性を感じさせる声を出せねェーのかァッ!?』
「ブルガ”ァ”ァ”ァ”ァ”ーーーーーーッ!!!! なんだァーーーーコイツゥーーーーッ!!?? 俺サマに逆らいやがってッ、ヤロウぶっ殺してヤるッ!!!!」
『キャアッ、じぶんごろしィッ!?』

 パタパタと上空へ飛んで逃げるダンキャーに向かって、近くの木を引っこ抜いたユー・ボーローが投擲して撃ち落とそうとする……。


 人外の魔物達が騒ぎ立てる横で、ベルトリウスは地面にポッカリと空いた歯の生えた大穴……クリーパーに、あれこれと指示を出していた。

「俺らはこのまま地上で活動を続ける。向こうに着いたらエカノダ様の命令に従え」
「グビビ……ビビャン……」
「何だその悲しげな鳴き方は……もしかして、図体のデケぇ二匹を運ぶのがしんどいって言いたいのか?」
「ビッ!! グビビッ!!」
「んなもん気合いで運べ。歯ぁ折られねぇように気ぃ付けろよ」
「ピビャアッ!? ……ビッ……ビャッ……!」

 穴を小さくしたり大きくしたりして何かを訴えかけてくるクリーパーにベルトリウスが突き放すように答えると、クリーパーは絶望したように声を漏らした……。


 そうして地上にベルトリウスとケランダットの二人……あと真似っこ怪鳥のダンキャーを残して、クリーパーは新入りのユー・ボーローとルルチを女王に引き合わせるべく、地獄への空間みちを昇っていった――。



◇◇◇



「―― ーーーーァァアアアアアアッ!!?? ―― グベッ!!!! ……急に吐き出すなテメェーーーーゴラァ”ァ”ァ”ッ”ーーーーー!!!!!!」
「フゥ~……こんな乗り物ミたいな魔物もいるンですネ。穴があるなラ、マぐわえマスネ……」

 “ペッ!”と領地の荒野に吐き出され、受け身を取れなかったユー・ボーローと受け身を取ったルルチで、それぞれ思い思いの文句を吐いて地中を去るクリーパーを見送る……。


 そこへ満を持して登場したエカノダが、紅い目を怪しくきらめかせて二匹の前に立ちはだかった――。

「よく来たわね、ユー・ボーロー、ルルチ。私はエカノダ……この領地を統べる管理――」
「すげェーーーーーーーーッ!!!! ひれェーーーーーーーーッ!!!! ココなーーーーんもねえェーーーーーーーーッ!!!! ブルァッハッハーーーーーーッ!!!! 走ってこよォーーーーっとォーーーーッ!!!!」
「あっ、ちょっと待って、どこへ行くのっ!? 戻ってきなさいユー・ボーローッ!! 戻って―― !!」

 何やらキョロキョロと辺りを見渡しているなと思えば……突然エカノダの台詞を遮って興奮したように叫びだしたユー・ボーローは、全速力で地平線を目指し駆けていってしまった。

 咄嗟に手を伸ばして引き止めようとしたエカノダに、さらに手を伸ばして絡み付いたのがルルチだ。
 彼女はグリグリと鼻先をエカノダの頭のつむじに押し付けてニオイを嗅ぐと、愛しそうに満面の笑みで挨拶をした。

「初めましてェ、カワイイ人間サンの女王サマッ♡ ルルチちゃんにお近づきのチュウをしてくだサイッ!  ン~~マッ♡ ン~~マッ♡」
「ヒィッ―― !? なっ、何をするのお前っ!? やめなさいっ、私はお前達の上司なのよっ!? ちょっ……やめなさいってばぁっ!!」
「―― ……ッハッハッハッハッーーーーーーッ!!!! なァーーーーんか捕まえたァーーーーーーッ!!!!」
「グギィーーーーッ!? アギッ、フギッ!!」
「ギィーーーーリリリリリリッ!!!!」

 エカノダがルルチから熱烈なを受けている間に帰ってきたユー・ボーローは、こちらも満面の笑みで、両手に掴んでいる魔物を見せつけるように高らかと掲げた。

 管理者というのは、直感で相手が“管理者”か“非管理者”か区別できる特性を持っている。
 なので……エカノダは即座に、ユー・ボーローに拘束されている二匹の虫型の魔物が、それぞれどこかの土地を取り仕切る管理者であることを察した。

「それ別の土地の管理者じゃないのっ!? 早く捨てなさいっ!! いやっ、殺しなさいっ!! そのまま潰すのよっ!!」
「カンリシャ……? ンーーーー…… ―― ン”ッ!!」
「アビュ”ッ―― !?」
「イ”ッ―― !?」

 ユー・ボーローがギュッ!! と拳に力を入れると、握られていた魔物達は勢いよく臓物を飛び散らせ、辺りに緑色の血溜まりを作った。

 こんなにも早く領地の拡大に役立ってくれるとは、期待していた以上の労働力だ……―― と、考えていたエカノダだったが、何やら様子がおかしいことに気が付いた。
 のである。

 何故だと焦ったエカノダだが、大事な儀式を忘れていた。
 “隷属れいぞくの契り”だ。

 地獄が定めたを果たさないことには、いくらユー・ボーローが戦果を上げたところで、それがエカノダに継承されることはない……。


 エカノダは慌てて、手にしていた残骸を地面へ叩き付けて遊んでいるユー・ボーローに注意を呼び掛けた。

「ユー・ボーローッ、ひとまず落ち着きなさいっ!! 先に契約を終わらせてから殺しにいって!! お願いだからっ!! このままでは領地が管理者のいない“空き”の状態になるだけで――」
「ブルァッハッハッ!!!! 弱ェーーーーッ!! カンリシャ弱ェーーーーッ!! 俺サマサイキョーーーーッ!! もっかい走ってこよォーーっと!!」
「待ちなさいってばぁーーーーっ!!?? ~~~~っ、ルルチぃっ!! お前もいい加減離しなさいっ!! 早く追いかけなければっ、また領地が無駄に……!!」

 手触りの良い羊毛を押しのけて脱出を試みるエカノダだったが、ルルチは恍惚こうこつの表情でつやのある声を出して喜んでいた。

「アッ♡ アッ♡ 管理者サンってチカラがお強いンですネッ♡ ルルチちゃん初めて人間サンに抵抗されて痛みを感じていマスッ♡ 過激ッ、なーンて過激ッ♡ アッ♡ アッ♡ アァ~~ンッ♡♡」
「ぐぅぅぅぅっ……!! なんなのよぉっ、この変態ぃっ!? 早く離して――」
「見ィーーーーろォーーーーッ!! まァーーた捕まえたァーーーーッ!! ブルァッハッハ!! 握り潰そォーーっと!!」
「ギュバァッ――!?」
「……あ”あ”っ……あ”あ”あ”あ”っ……!? …………ベッ…………ベルトリウスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーッ!!!!!!!!!!」


 エカノダはルルチの毛に埋もれながら、天に向かって太い叫び声を上げた――。





 ……初回の顔合わせのためにガガラから呼び集められていたイヴリーチとエイレンは、同じく顔合わせのために城から出てきたオイパーゴスと並んで、新入りに揉まれるエカノダを遠くから眺めていた。

「呼ばれたから来たけど……なんだかすごい人達が仲間になっちゃったね……」
「人っていうより、牛と羊だけどね……危ないから近付いちゃダメだよイヴ? 野生臭さが移っちゃう!」
「にぎやかなんはエエことやけど、限度っちゅうーもんがねェ……」

 各々好きに話していると、崩れ落ちるエカノダに追い払われたルルチが、スキップをしながら三匹の方へと向かってきた。

「コンニチワッ♡ ルルチと申しマスッ♡ サァサァ、皆サンもお近づきのチュウをシてくだサイネェ~♡」
「うわぁ―― !? なっ、なっ、なにぃっ!?」

 ルルチは大きな体を活かし、ちょうど一列に並んでいる三匹を瞬く間に抱き寄せると、逃げないように胸に押し付けて閉じ込め、強く抱擁したまま順に額にキスしていった……。

「ゔぅぅっ……!! 近いっ……目が怖いっ……!!」
「嫌ぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!!!???? イヴに触らないでこの色ボケ変態羊ッ、イヴから離れろ離れろ離れろ離れろぉッ!!!!!!」
「グェェ……オッちゃんのお腹が潰れチャウ……」


 その後……走りに夢中になっていたユー・ボーローが城に激突して、運悪く命中したオイパーゴスの研究室を半壊させ、領地中に部屋主の悲鳴がこだまするなど……顔合わせは実にを見せた……。



◇◇◇



「くっ……―― ぐははははぁーーーーっ!!!! はぁ~~~~っ、笑えるぅっ!! ざまぁみやがれってんだぁ、俺のやり方に文句ばっか飛ばしやがってあの腰の重たい管理者どもがっ!! いやぁ~~、女王様とジジイの喚き声聞けただけで、あの色ボケ共を仲間にした甲斐があったってもんだなぁ? ユー・ボーロー万歳だっ! あっはっはっはっはっ!!」

 ……コバエを使い、地上から地獄の騒ぎを覗いていたベルトリウスは、指に止まっていた小さな虫を振り払って通信を切った。

 共に手の甲にコバエを乗せて、同じ地獄絵図を観察していたケランダットは、上機嫌な相棒を見て“今だ”と思い、ユー・ボーローのとっておきの間抜け話を披露した。

「ユー・ボーロー……あいつずっと霊具の真上を寝床ねどこにしてたみたいだぞ。気付かずに百年以上もケツに敷いて暮らしてたんだ」
「マジ? ウケるねそれ! 日向ぼっことか言ってさぁ……ひひっ! だっせぇ~~~~!! やっぱあいつメチャクチャ馬鹿だなぁ~~?」
「だよな? ……ふっ……くくっ……!」
「ひひっ!! くははははっ!!」

 腹を抱え、涙を浮かべてこちらの肩を叩き笑う隣のベルトリウスに、ケランダットは会話の成功による達成感に酔いしれて、仲間の不幸に感謝した。
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