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第2話
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というわけで、後日。
僕らは豪華なお屋敷に招待された。
依頼人は、マリーゴールド家の夫人。
旦那の浮気の証拠を見つけてほしいという。
僕たちは情報屋に店番を任せてはるばる高級住宅街までやってきた。
僕たちがお屋敷の門の前でその豪華さに圧倒されていると、使用人みたいな人が中に案内してくれた。
「ルシフ、これ、絶対僕らみたいな庶民が来るのは場違いですよ……。ああ、緊張してきた……。くれぐれも夫人に失礼な態度取らないでくださいね」
「大丈夫だ。敬語で話す練習はしてきた……」
僕とルシフはガチガチになりながら、お屋敷の中に足を踏み入れた。
「あら、あなたたちが魔法屋ざますか?」
入ってすぐに、マダムが出迎えてくれた。
マダムは、化粧がどぎつくて、宝石のネックレスや指輪をジャラジャラつけていて、香水の匂いがきつくて、ぽっちゃりの体に似合わない派手で露出の多いドレスを纏っていて、ちょっと僕は生理的に受け付けられない感じの人だった。
「おい、ベル。語尾に『ざます』ってつける人、実在するんだな」
ルシフがマダムに聞こえないように僕の耳元で囁く。
「余計なこと喋らないでください」
と僕はマダムに見えないようにルシフの手をつねった。
ルシフは手を痛そうに押さえながらマダムに向き合った。
「はい。この度は魔法屋に依頼してくださり、ありがとうございます」
普段偉そうな話し方しかしないルシフが「この度は」なんて言葉を使うのは初めて聞いた。なんだか滑稽に見える。
「あなたが店主ざますか?」
「はい」
マダムはルシフを見下してふん、と笑った。
「あら、境界で一番の魔法使いと聞いていたから、もっとダンディーな殿方を想像しておりましたわ。こんな汚らわしい餓鬼だとは。まあ、せいぜいお手並み拝見させていただきますわ」
「……あ?」
ルシフがマダムに眼を飛ばし出したので僕は慌ててなだめた。
「ルシフ落ち着いて……!!ここは報酬の為と思って耐えてください……!」
マダムはそのまま馬鹿にした態度で僕たちを応接間に通した。
そこのソファーには既に美人な娘が2人座っていた。
娘の1人が口を開く。
「そいつらがママの依頼した探偵?ガキじゃん」
もうひとりの娘も口を揃えて言う。
「なんか胡散臭っ。どうせこいつらマリーゴールド家の金目当てで来た可哀想なビンボー人でしょ」
はぁ?何なんだこの家族、すげー腹立つ!全く僕たちを歓迎する気ないじゃん!
ルシフも僕と同じような憤りを感じているようだった。
「封印されし偉大なる魔導師の……」
「ちょっとルシフ落ち着いて!!頭にくる気持ちはわかりますけど……!!こんな奴らのために大魔導師の力を使っちゃダメです……!」
「ベル、もう帰ろう。やってられるかこんな依頼」
「ダメですって……。相手は財閥のトップですよ?怒りを買ったら魔法屋を潰されかねません。なんとか乗り切りましょう」
僕は気持ちを抑えて、マダムに尋ねた。
「それで、今回のご依頼ですが、旦那様の浮気調査ということですので、旦那様についてお話を聞いてもよろしいでしょうか?」
「ええ。うちの旦那は最近、毎日帰りが遅くて、帰ってくると、いつも私のものではない香水の香りがするんざます。これは浮気で間違いないざます」
「確かにそれは怪しいですね……」
「旦那は仕事柄、たくさんパーティーに出席するから、きっとそこで知り合った女ざます」
「パーティー、ですか……」
「今夜も大企業の社長が集まるパーティーに参加すると言っていたざます」
それを聞いて、ルシフが言う。
「なるほど……。じゃあ早速、今夜のパーティーに潜入して、旦那様の様子を探ってみましょう」
ルシフは、計画的な調査とか、推理とか、そんなことより先に行動してしまう。僕はもう少し後先考えて慎重に動くべきだと思うんだけど、それがルシフのやり方だから僕にはどうしようもない。
ルシフはマダムからパーティーについての詳しい情報を聞き出すと、僕を外に連れ出して近くを通ったタクシーに乗り込んだ。
「まさか、もうパーティー会場に行くんですか?」
「さっさとこんな依頼終わらせたいんだよ」
「それは僕も同感ですけど……そんな簡単にパーティーに潜入とかできますかね……?」
「できるさ。俺たちは境界で一番の魔法使いなんだからな」
「また僕の力を使う気ですか……?嫌ですよ」
「いや、その必要はない」
「何か策があるんですか?」
「境界での魔法屋の知名度は高い。招待客のフリをすれば堂々と正面突破できるだろ」
「できませんよ。これは大企業の社長が集まるパーティー、つまりビジネスの為のパーティーなんですよ。有名人なら誰でも入れるって訳じゃないんです。なんでイケると思ったんですか、バカなんですか」
「ちげーよ。もしかしたら魔法グッズビジネスに着手したがってる企業があるかもしれねーだろ。俺たちはそんな企業をサポートする専門家、魔法アドバイザーとして潜入するんだ」
「魔法アドバイザーってなんだよ。聞いたことねーよそんな職種。やっぱり正面突破は無理ありますって……」
「そんなのやってみないとわかんねーだろ」
しばらくタクシーに揺られ、僕らは郊外にあるパーティー会場に到着した。
パーティー会場はおとぎ話に出てくる古城のような場所だった。
境界ではこんな建物は珍しい。
タクシー代がやたら高かったけど、どうせこの依頼が終わったら報酬をいっぱい貰えるから問題ない。
ルシフが正門から突入しようとすると、案の定、警備員に止められた。
「ダメだよ勝手に入っちゃ!」
「誰だお前?」
「警備員だよ。見ればわかるでしょ」
「俺たちを中に入れろ」
「君たち、もしかして社長のお子さん?お父さんを捜しに来たのかい?」
「子ども扱いするんじゃねぇ。俺は魔法屋の店主だ。つまりこれでも一応社長みたいなもんなんだよ」
「従業員は僕しかいませんけどね」
「ベルは黙ってろ」
「魔法屋って……大魔法使いがやってるお店だって噂の……?随分若いんだね……」
「まあな。今日は俺たち魔法屋が魔法アドバイザーとして来てやったんだ。中に入れろ」
「いやいやダメだよ。招待客以外入れるなって言われてるし」
「そうかよ。じゃあ……仕方ない」
「うんうん、諦めて帰ってくれ」
「強行突破だ」
「……え?」
ルシフは警備員に向けて杖を振った。
警備員は一瞬で意識を失ってバタンと倒れた。
「よし、行くぞベル」
ルシフはなぜか満足げな笑顔で言って、倒れた警備員をまたいで会場に入っていった。
僕らは豪華なお屋敷に招待された。
依頼人は、マリーゴールド家の夫人。
旦那の浮気の証拠を見つけてほしいという。
僕たちは情報屋に店番を任せてはるばる高級住宅街までやってきた。
僕たちがお屋敷の門の前でその豪華さに圧倒されていると、使用人みたいな人が中に案内してくれた。
「ルシフ、これ、絶対僕らみたいな庶民が来るのは場違いですよ……。ああ、緊張してきた……。くれぐれも夫人に失礼な態度取らないでくださいね」
「大丈夫だ。敬語で話す練習はしてきた……」
僕とルシフはガチガチになりながら、お屋敷の中に足を踏み入れた。
「あら、あなたたちが魔法屋ざますか?」
入ってすぐに、マダムが出迎えてくれた。
マダムは、化粧がどぎつくて、宝石のネックレスや指輪をジャラジャラつけていて、香水の匂いがきつくて、ぽっちゃりの体に似合わない派手で露出の多いドレスを纏っていて、ちょっと僕は生理的に受け付けられない感じの人だった。
「おい、ベル。語尾に『ざます』ってつける人、実在するんだな」
ルシフがマダムに聞こえないように僕の耳元で囁く。
「余計なこと喋らないでください」
と僕はマダムに見えないようにルシフの手をつねった。
ルシフは手を痛そうに押さえながらマダムに向き合った。
「はい。この度は魔法屋に依頼してくださり、ありがとうございます」
普段偉そうな話し方しかしないルシフが「この度は」なんて言葉を使うのは初めて聞いた。なんだか滑稽に見える。
「あなたが店主ざますか?」
「はい」
マダムはルシフを見下してふん、と笑った。
「あら、境界で一番の魔法使いと聞いていたから、もっとダンディーな殿方を想像しておりましたわ。こんな汚らわしい餓鬼だとは。まあ、せいぜいお手並み拝見させていただきますわ」
「……あ?」
ルシフがマダムに眼を飛ばし出したので僕は慌ててなだめた。
「ルシフ落ち着いて……!!ここは報酬の為と思って耐えてください……!」
マダムはそのまま馬鹿にした態度で僕たちを応接間に通した。
そこのソファーには既に美人な娘が2人座っていた。
娘の1人が口を開く。
「そいつらがママの依頼した探偵?ガキじゃん」
もうひとりの娘も口を揃えて言う。
「なんか胡散臭っ。どうせこいつらマリーゴールド家の金目当てで来た可哀想なビンボー人でしょ」
はぁ?何なんだこの家族、すげー腹立つ!全く僕たちを歓迎する気ないじゃん!
ルシフも僕と同じような憤りを感じているようだった。
「封印されし偉大なる魔導師の……」
「ちょっとルシフ落ち着いて!!頭にくる気持ちはわかりますけど……!!こんな奴らのために大魔導師の力を使っちゃダメです……!」
「ベル、もう帰ろう。やってられるかこんな依頼」
「ダメですって……。相手は財閥のトップですよ?怒りを買ったら魔法屋を潰されかねません。なんとか乗り切りましょう」
僕は気持ちを抑えて、マダムに尋ねた。
「それで、今回のご依頼ですが、旦那様の浮気調査ということですので、旦那様についてお話を聞いてもよろしいでしょうか?」
「ええ。うちの旦那は最近、毎日帰りが遅くて、帰ってくると、いつも私のものではない香水の香りがするんざます。これは浮気で間違いないざます」
「確かにそれは怪しいですね……」
「旦那は仕事柄、たくさんパーティーに出席するから、きっとそこで知り合った女ざます」
「パーティー、ですか……」
「今夜も大企業の社長が集まるパーティーに参加すると言っていたざます」
それを聞いて、ルシフが言う。
「なるほど……。じゃあ早速、今夜のパーティーに潜入して、旦那様の様子を探ってみましょう」
ルシフは、計画的な調査とか、推理とか、そんなことより先に行動してしまう。僕はもう少し後先考えて慎重に動くべきだと思うんだけど、それがルシフのやり方だから僕にはどうしようもない。
ルシフはマダムからパーティーについての詳しい情報を聞き出すと、僕を外に連れ出して近くを通ったタクシーに乗り込んだ。
「まさか、もうパーティー会場に行くんですか?」
「さっさとこんな依頼終わらせたいんだよ」
「それは僕も同感ですけど……そんな簡単にパーティーに潜入とかできますかね……?」
「できるさ。俺たちは境界で一番の魔法使いなんだからな」
「また僕の力を使う気ですか……?嫌ですよ」
「いや、その必要はない」
「何か策があるんですか?」
「境界での魔法屋の知名度は高い。招待客のフリをすれば堂々と正面突破できるだろ」
「できませんよ。これは大企業の社長が集まるパーティー、つまりビジネスの為のパーティーなんですよ。有名人なら誰でも入れるって訳じゃないんです。なんでイケると思ったんですか、バカなんですか」
「ちげーよ。もしかしたら魔法グッズビジネスに着手したがってる企業があるかもしれねーだろ。俺たちはそんな企業をサポートする専門家、魔法アドバイザーとして潜入するんだ」
「魔法アドバイザーってなんだよ。聞いたことねーよそんな職種。やっぱり正面突破は無理ありますって……」
「そんなのやってみないとわかんねーだろ」
しばらくタクシーに揺られ、僕らは郊外にあるパーティー会場に到着した。
パーティー会場はおとぎ話に出てくる古城のような場所だった。
境界ではこんな建物は珍しい。
タクシー代がやたら高かったけど、どうせこの依頼が終わったら報酬をいっぱい貰えるから問題ない。
ルシフが正門から突入しようとすると、案の定、警備員に止められた。
「ダメだよ勝手に入っちゃ!」
「誰だお前?」
「警備員だよ。見ればわかるでしょ」
「俺たちを中に入れろ」
「君たち、もしかして社長のお子さん?お父さんを捜しに来たのかい?」
「子ども扱いするんじゃねぇ。俺は魔法屋の店主だ。つまりこれでも一応社長みたいなもんなんだよ」
「従業員は僕しかいませんけどね」
「ベルは黙ってろ」
「魔法屋って……大魔法使いがやってるお店だって噂の……?随分若いんだね……」
「まあな。今日は俺たち魔法屋が魔法アドバイザーとして来てやったんだ。中に入れろ」
「いやいやダメだよ。招待客以外入れるなって言われてるし」
「そうかよ。じゃあ……仕方ない」
「うんうん、諦めて帰ってくれ」
「強行突破だ」
「……え?」
ルシフは警備員に向けて杖を振った。
警備員は一瞬で意識を失ってバタンと倒れた。
「よし、行くぞベル」
ルシフはなぜか満足げな笑顔で言って、倒れた警備員をまたいで会場に入っていった。
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