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第2話
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やっとザゼルから解放された僕は、また気を取り直してマダムの旦那捜しを再開した。
するとすぐに、僕の携帯が鳴った。
ルシフからのLINEだ。
見ると、浮気している真っ最中の旦那の写真(若い女の肩を抱いたり腰に手を回したりしている写真)が数枚送られてきていた。
それと、メッセージが一言。
『だんなをみつけた(^-^)v』
なんだこの顔文字、ムカつく!!
僕が携帯をぶん投げそうになったそのとき、今度は電話がかかってきた。
「もしもし」
僕がキレ気味で言うと、電話の向こうから聞こえたのはおっさんの声だった。
「魔法屋の仲間か?今すぐ来い」
「え……?」
戸惑っていると、聞こえるのがルシフの声に変わった。
「悪いなベル。旦那にバレて捕まっちまった」
「は?」
「LINEを送ろうとした隙に旦那に背後を取られた。今はトイレの個室に連れて行かれてナイフを突きつけられていてな。どうにもならん」
「なんでだよ!!」
「すまん、としか言いようがない。とりあえず来てくれ」
「このバカ店主!!」
僕は慌ててルシフの元へと駆け出した。
その途中で床に転がっていたルシフの杖を拾った。魔法使いの必需品とも言うべき杖を落とすなんて、間抜けすぎる。
人を押しのけてトイレへと急ぐ僕を、周りの人たちは哀れむような目で見ていた。
僕がお腹を壊したとでも思っているのだろう。余計なお世話だ。
僕は息を切らしてトイレに駆け込んだ。
「ルシフ!」
呼びかけると、個室の扉がキィ……と開いた。
おじさん、つまり旦那がルシフの首にナイフを突きつけた状態で出てきて言った。
「余計な動きをするな。こいつの首が吹っ飛ぶぞ。
携帯に送られてきた写真を今すぐ消せ」
「嫌ですよ。この写真に幾らの報酬が懸かってると思ってるんですか」
「お前……こいつの命が惜しくないのか?」
「いや、あんた如きにやられる訳ないですし。魔法屋をあんまり舐めないでくださいよ」
僕が旦那を睨み付けると、ルシフが僕をなだめるように口を挟んだ。
「おい、ベル……。喧嘩を売るのはやめろ。こいつは恐らく……」
そう言いかけたルシフを遮り旦那は僕に向かって言った。
「お前の仲間は、餓鬼のくせに随分と重い過去を背負っているようだな。暗い感情が渦巻いて見える」
なるほど、こいつ、魔法使いか……。
しかも、心を読むとか、人の心理につけ込むタイプの。
ルシフはそのことを何となく勘付いていたんだな。
こういう魔法は、やましいことなんて何もない人には効かないだろうけど、ルシフみたいな『訳あり』には効果覿面だ。
心が乱された状態じゃ、魔法は上手くいかない。だから、下手には動かないで僕の助けを待ってたのか……。
旦那がルシフの耳元で囁いた。
「罪人が、探偵ごっこなんかして、ヒーローぶってんじゃねーよ」
その言葉に、ルシフが一瞬固まった。
直感的に、まずいと思った。
「人の力に縋っているだけのくせに、何が境界で一番の大魔法使いだ」
「ルシフ、耳を貸すな!」
僕にはわかる。
旦那がルシフを責めているわけじゃない。
旦那はルシフの心の奥にある本音をそのまま読んでいるのだ。
そこまで読み取ってくるなんて、心理攻撃系の魔法使いとしては思っていたより手強い。
「きっと今も、ベルはお前を憎んでるぞ?」
「やめろ!!」
僕は思わず魔法の杖で旦那に殴りかかった。
旦那はそれをギリギリでかわすと、お構いなしに喋り出した。
「今まで沢山の人の心を読んできたが、中でも相当悲観的だな。ああ、面白い。これだからやめられないんだよな、魔法ってやつは。相手の本音がわかれば、ビジネスも恋愛も何だって上手くいくし、最高だね」
「魔法使いとしては最低ですけどね」
魔法を使えるからって人を見下し弄ぶこいつの考えは本当に気にくわない。
「ああ、そうかい。それにしてもお前の心はどす黒いな。憎悪や嫉妬で埋め尽くされている」
「胸糞悪いんで、勝手に読まないでもらえます?……どす黒い?当然でしょう。
僕はもともと性格が悪いんですから。こう見えて根っからのクズなんで」
そこでようやく僕の異変に気がついたらしく、旦那の顔色が変わった。
「なんだお前……、様子がおかしいぞ……?」
いちいち説明するのも面倒だから無視して続けた。
「……同族嫌悪かな……あんたみたいなクズを見ると、無性に腹が立つんです」
僕はルシフの力を借りることで初めて自分の力を全て解き放てる。でも、こんな雑魚相手なら、その必要もないだろう。
「痛めつけてもいいですか?」
旦那の顔がさぁっと青ざめていく。
「な、何なんだ、お前……っ、その化け物みたいな姿は!?まさか……」
「……魔王ですけど」
僕は手から荊棘の蔓を放って、旦那の首を絞めあげた。
棘が刺さってるのか、かなり苦しそうだ。
まあ、自業自得だ。
「あんた、僕のことを何だと思ってたんですか?店主を人質にとられたくらいで僕が怖気付くとでも?考えが温いんだよ」
「……っ、魔王が使い魔だなんて、さすが大魔法使いだな……」
なんだ、こいつまだ喋れたのか。
しぶとい野郎だ。
僕はさらにきつく首を絞めてやった。
旦那が呻き声を上げたのとほぼ同時に、僕の頭に懐かしい記憶がふわっとよぎった。
こいつ、僕に魔法をかけてきてる……!?
自分が死にかけてるっていうのに、まだ粘るのか……!
僕が魔法屋に住み始めたばかりの頃の記憶だった。
楽しくて、幸せだった想い出が次々と思い返される。
つい気を取られて、一瞬手の力を緩めてしまった。
その隙に、旦那はポケットからもう一本ナイフを取り出し、僕の胸めがけて突き刺そうとした。
殺される、と思った。
ザシュッという音がして、辺りに血飛沫が飛び散った。
「気を抜くな、バカ。お前の良くない癖だ」
見ると、僕が持っていたはずの魔法の杖をいつの間にかルシフが握っていた。そして、そこから紅い光が放たれていて、旦那の脇腹を貫いていた。
……良くない癖、か……。
幼い頃、よく魔法の練習試合をしていたお陰で、ルシフは僕の癖や弱点まで知り尽くしている。
ルシフに助けられたのがなんだか癪だったからだろう、口を突いて出たのは感謝ではなく憎まれ口だった。
「ルシフだって、心を読まれて動揺してたじゃないですか」
「いや、あれは戦略だ。魔法に惑わされたフリをして相手の油断を誘うという……」
「デタラメ言わないでください」
「デタラメじゃない」
そうムキになられると、こっちも黙っていられなくなった。
「じゃあ、この際はっきり言っておきますけど」
別に今言う必要はない、という考えが一瞬よぎったけれど、僕は我慢できずに口にした。
「僕は今もあんたを憎んでますよ」
「……知ってる」
ルシフは哀しげな表情を浮かべた。
自覚はあるくせに、面と向かって言われると傷つくらしい。
そのまま放っておくのはさすがにどうかと思って、僕は付け加えた。
「でも、僕は、どれだけ嫌いでも一生ルシフのそばを離れる気はありませんから。僕は『約束』は必ず守る男です。だから、安心して縋ってください」
ルシフはしばらくの沈黙の後、寂しく笑って「ああ」と頷いた。
ルシフのそばにいること。
ルシフと一緒に幸せになること。
それがかつて僕が交わした約束だった。
ルシフのことは昔から、というか実を言うと出会った頃から嫌いだ。そもそも性格がまるで合わない。
だけど、もし今僕がいなくなれば、ルシフは自分の犯した罪に耐えられなくなるだろう。
もし今ルシフがいなくなれば、僕は寂しさに耐えかねて、ザゼルたちのように復讐に手を染めるかもしれない。
そうなったらもう取り返しがつかない。
それを避けるために僕らはお互いに依存して、平和な暮らしを続けていくことにした。
喧嘩は絶えないけれど、やっぱり幼馴染だからか、ルシフとの生活は気楽でもある。ルシフと一緒にいて、憎悪に駆られることは多いけど、幸せだと感じることもある。
まだ希望はある。
だから僕は、約束を果たすために、自分の一生を懸けるつもりだ。
本当は、僕にルシフを責める資格はない。
本来は、僕が背負うはずの罪だったのだ。
だけど、それでも、ルシフを赦すことはどうしても僕にはできない。
……だって、ルシフは僕が最も愛する人を殺してしまったのだから。
マリーゴールド家のお屋敷に、死なない程度にしばいた旦那をそのまま連れて行ったら、
「そんなことまで頼んでいないざます!これじゃあ、うちの夫はろくに仕事もできないざます!慰謝料は報酬から差し引くざます!」
と言われて報酬は十分の一になってしまった。
それでも金欠の僕らには嬉しい収入だったので、その日の帰りは2人で焼肉を食べに行った。
するとすぐに、僕の携帯が鳴った。
ルシフからのLINEだ。
見ると、浮気している真っ最中の旦那の写真(若い女の肩を抱いたり腰に手を回したりしている写真)が数枚送られてきていた。
それと、メッセージが一言。
『だんなをみつけた(^-^)v』
なんだこの顔文字、ムカつく!!
僕が携帯をぶん投げそうになったそのとき、今度は電話がかかってきた。
「もしもし」
僕がキレ気味で言うと、電話の向こうから聞こえたのはおっさんの声だった。
「魔法屋の仲間か?今すぐ来い」
「え……?」
戸惑っていると、聞こえるのがルシフの声に変わった。
「悪いなベル。旦那にバレて捕まっちまった」
「は?」
「LINEを送ろうとした隙に旦那に背後を取られた。今はトイレの個室に連れて行かれてナイフを突きつけられていてな。どうにもならん」
「なんでだよ!!」
「すまん、としか言いようがない。とりあえず来てくれ」
「このバカ店主!!」
僕は慌ててルシフの元へと駆け出した。
その途中で床に転がっていたルシフの杖を拾った。魔法使いの必需品とも言うべき杖を落とすなんて、間抜けすぎる。
人を押しのけてトイレへと急ぐ僕を、周りの人たちは哀れむような目で見ていた。
僕がお腹を壊したとでも思っているのだろう。余計なお世話だ。
僕は息を切らしてトイレに駆け込んだ。
「ルシフ!」
呼びかけると、個室の扉がキィ……と開いた。
おじさん、つまり旦那がルシフの首にナイフを突きつけた状態で出てきて言った。
「余計な動きをするな。こいつの首が吹っ飛ぶぞ。
携帯に送られてきた写真を今すぐ消せ」
「嫌ですよ。この写真に幾らの報酬が懸かってると思ってるんですか」
「お前……こいつの命が惜しくないのか?」
「いや、あんた如きにやられる訳ないですし。魔法屋をあんまり舐めないでくださいよ」
僕が旦那を睨み付けると、ルシフが僕をなだめるように口を挟んだ。
「おい、ベル……。喧嘩を売るのはやめろ。こいつは恐らく……」
そう言いかけたルシフを遮り旦那は僕に向かって言った。
「お前の仲間は、餓鬼のくせに随分と重い過去を背負っているようだな。暗い感情が渦巻いて見える」
なるほど、こいつ、魔法使いか……。
しかも、心を読むとか、人の心理につけ込むタイプの。
ルシフはそのことを何となく勘付いていたんだな。
こういう魔法は、やましいことなんて何もない人には効かないだろうけど、ルシフみたいな『訳あり』には効果覿面だ。
心が乱された状態じゃ、魔法は上手くいかない。だから、下手には動かないで僕の助けを待ってたのか……。
旦那がルシフの耳元で囁いた。
「罪人が、探偵ごっこなんかして、ヒーローぶってんじゃねーよ」
その言葉に、ルシフが一瞬固まった。
直感的に、まずいと思った。
「人の力に縋っているだけのくせに、何が境界で一番の大魔法使いだ」
「ルシフ、耳を貸すな!」
僕にはわかる。
旦那がルシフを責めているわけじゃない。
旦那はルシフの心の奥にある本音をそのまま読んでいるのだ。
そこまで読み取ってくるなんて、心理攻撃系の魔法使いとしては思っていたより手強い。
「きっと今も、ベルはお前を憎んでるぞ?」
「やめろ!!」
僕は思わず魔法の杖で旦那に殴りかかった。
旦那はそれをギリギリでかわすと、お構いなしに喋り出した。
「今まで沢山の人の心を読んできたが、中でも相当悲観的だな。ああ、面白い。これだからやめられないんだよな、魔法ってやつは。相手の本音がわかれば、ビジネスも恋愛も何だって上手くいくし、最高だね」
「魔法使いとしては最低ですけどね」
魔法を使えるからって人を見下し弄ぶこいつの考えは本当に気にくわない。
「ああ、そうかい。それにしてもお前の心はどす黒いな。憎悪や嫉妬で埋め尽くされている」
「胸糞悪いんで、勝手に読まないでもらえます?……どす黒い?当然でしょう。
僕はもともと性格が悪いんですから。こう見えて根っからのクズなんで」
そこでようやく僕の異変に気がついたらしく、旦那の顔色が変わった。
「なんだお前……、様子がおかしいぞ……?」
いちいち説明するのも面倒だから無視して続けた。
「……同族嫌悪かな……あんたみたいなクズを見ると、無性に腹が立つんです」
僕はルシフの力を借りることで初めて自分の力を全て解き放てる。でも、こんな雑魚相手なら、その必要もないだろう。
「痛めつけてもいいですか?」
旦那の顔がさぁっと青ざめていく。
「な、何なんだ、お前……っ、その化け物みたいな姿は!?まさか……」
「……魔王ですけど」
僕は手から荊棘の蔓を放って、旦那の首を絞めあげた。
棘が刺さってるのか、かなり苦しそうだ。
まあ、自業自得だ。
「あんた、僕のことを何だと思ってたんですか?店主を人質にとられたくらいで僕が怖気付くとでも?考えが温いんだよ」
「……っ、魔王が使い魔だなんて、さすが大魔法使いだな……」
なんだ、こいつまだ喋れたのか。
しぶとい野郎だ。
僕はさらにきつく首を絞めてやった。
旦那が呻き声を上げたのとほぼ同時に、僕の頭に懐かしい記憶がふわっとよぎった。
こいつ、僕に魔法をかけてきてる……!?
自分が死にかけてるっていうのに、まだ粘るのか……!
僕が魔法屋に住み始めたばかりの頃の記憶だった。
楽しくて、幸せだった想い出が次々と思い返される。
つい気を取られて、一瞬手の力を緩めてしまった。
その隙に、旦那はポケットからもう一本ナイフを取り出し、僕の胸めがけて突き刺そうとした。
殺される、と思った。
ザシュッという音がして、辺りに血飛沫が飛び散った。
「気を抜くな、バカ。お前の良くない癖だ」
見ると、僕が持っていたはずの魔法の杖をいつの間にかルシフが握っていた。そして、そこから紅い光が放たれていて、旦那の脇腹を貫いていた。
……良くない癖、か……。
幼い頃、よく魔法の練習試合をしていたお陰で、ルシフは僕の癖や弱点まで知り尽くしている。
ルシフに助けられたのがなんだか癪だったからだろう、口を突いて出たのは感謝ではなく憎まれ口だった。
「ルシフだって、心を読まれて動揺してたじゃないですか」
「いや、あれは戦略だ。魔法に惑わされたフリをして相手の油断を誘うという……」
「デタラメ言わないでください」
「デタラメじゃない」
そうムキになられると、こっちも黙っていられなくなった。
「じゃあ、この際はっきり言っておきますけど」
別に今言う必要はない、という考えが一瞬よぎったけれど、僕は我慢できずに口にした。
「僕は今もあんたを憎んでますよ」
「……知ってる」
ルシフは哀しげな表情を浮かべた。
自覚はあるくせに、面と向かって言われると傷つくらしい。
そのまま放っておくのはさすがにどうかと思って、僕は付け加えた。
「でも、僕は、どれだけ嫌いでも一生ルシフのそばを離れる気はありませんから。僕は『約束』は必ず守る男です。だから、安心して縋ってください」
ルシフはしばらくの沈黙の後、寂しく笑って「ああ」と頷いた。
ルシフのそばにいること。
ルシフと一緒に幸せになること。
それがかつて僕が交わした約束だった。
ルシフのことは昔から、というか実を言うと出会った頃から嫌いだ。そもそも性格がまるで合わない。
だけど、もし今僕がいなくなれば、ルシフは自分の犯した罪に耐えられなくなるだろう。
もし今ルシフがいなくなれば、僕は寂しさに耐えかねて、ザゼルたちのように復讐に手を染めるかもしれない。
そうなったらもう取り返しがつかない。
それを避けるために僕らはお互いに依存して、平和な暮らしを続けていくことにした。
喧嘩は絶えないけれど、やっぱり幼馴染だからか、ルシフとの生活は気楽でもある。ルシフと一緒にいて、憎悪に駆られることは多いけど、幸せだと感じることもある。
まだ希望はある。
だから僕は、約束を果たすために、自分の一生を懸けるつもりだ。
本当は、僕にルシフを責める資格はない。
本来は、僕が背負うはずの罪だったのだ。
だけど、それでも、ルシフを赦すことはどうしても僕にはできない。
……だって、ルシフは僕が最も愛する人を殺してしまったのだから。
マリーゴールド家のお屋敷に、死なない程度にしばいた旦那をそのまま連れて行ったら、
「そんなことまで頼んでいないざます!これじゃあ、うちの夫はろくに仕事もできないざます!慰謝料は報酬から差し引くざます!」
と言われて報酬は十分の一になってしまった。
それでも金欠の僕らには嬉しい収入だったので、その日の帰りは2人で焼肉を食べに行った。
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