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第15話(最終話)
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こうして私たちは事件現場へと出発した……んだけど。
「なんで電車移動なんですか?」
右隣に店主のルシフ、左隣に相棒の青年ベルが座った状態で、私はガタンゴトンと電車に揺られていた。
「ルシフさんって魔法使いなんですよね?空飛ぶホウキ使うとか、魔法陣使ってワープとか、そういうことしないんですか?」
私が問いただすとルシフは「はぁ……」と溜め息を吐いた。
「あのな……。お前みたいに、この街が境界の一部だって知ってるやつは珍しい。俺がそんな目立つ魔法を使ってたらあっという間に世間の注目の的だ。つまりは無駄に魔法を使いたくないの。俺たちは『知る人ぞ知る』程度の知名度でいいんだよ」
「でも、知名度が上がった方が、お客さんが来てくれるんじゃ……」
「客が増えりゃ良いってもんでもないんだよ。俺たちには世間に知られちゃならねー事情がある」
「それならどうして客商売してるんですか?もっと人目につかない仕事すればいいのに」
「ルシフが魔法グッズ作ることしかできないポンコツだからですよ」
「あ?」
ルシフがベルを睨みつける。
「まあまあ、落ち着いてくださいお2人とも!ほら、もうすぐ駅に着きますよ」
ここで2人に喧嘩されて仕事を放棄されたら困る。私はなんとか2人をなだめて電車を降りた。
駅から歩いて10分ほどの閑静な街に友人の家はある。
「ここが友人の家です」
「ふーん、小せぇ家だな」
「失礼なこと言わないでくださいよ!」
という私のツッコミはスルーして、
「なるほどな」
と言いながら、ルシフは道にしゃがんで現場を観察し始めた。
しばらく道路をうろうろしたりしゃがんだりするのを繰り返し、ルシフは不意に
「おい、ベル」
とアシスタントを呼び寄せた。
「これを見ろ」
「……これ、ユートピア魔法軍の物ですよね。どうして、こんなところに奴らが……?」
「何ですか?何か見つけたんですか?」
私が後ろから覗き込むと、ルシフは神妙な顔で頷いた。
ルシフが手にしていたのはひとつのバッジだった。弁護士のバッジと変わらないほどの大きさだ。
「何ですかそれ?」
「これは、異世界にある『ユートピア』と呼ばれる国の魔法軍がつけるバッジだ。奴らは普段、現実世界に近い街に来ることはほとんどない。だから、このバッジがここに落ちてるのはおかしいってことだ」
「ルシフ。もし、ご友人がユートピア魔法軍の者に誘拐されたんだとすると厄介ですよ。奴らなら事件の証拠を隠滅するのも朝飯前ですからね」
「それもそうだが、何よりも、奴らに俺たちの居場所が知れたらまずい」
「はい、確実に殺されますね」
「え?どういうことですか?ルシフさんとベルさん、そのユートピア魔法軍……?っていうのに狙われてるんですか?」
「ああ……。ちょっと訳あってな」
この2人、そんなに悪い人たちに見えないし、命を狙われてるなんてちょっと信じ難いんだけど……。
「とりあえず、このバッジに残された記憶を読み取ってみましょう。このバッジの持ち主がわかるかもしれません」
「ああ」
残された記憶を読み取るって……?
ルシフは地面にバッジを置き、杖を握りしめて立ち上がった。
そして、3歩下がって杖の先をバッジに向け、大きく呼吸をして目を閉じた。
そのまま杖にぐっと力を込める。
その瞬間。
杖が空に向けてピカッと蒼い光を放った。
ぶわっとルシフの長い髪がなびく。
杖から、空に、大きく、映像が映し出された。
すごい……ちゃんと魔法使えるんだ……!
映像に映っていたのは、友人が黒い車に乗り込む姿だった。
「これは……やっぱり誘拐の線が濃厚だな」
「この車の持ち主がおそらくバッジの持ち主だと思われます。この車に見覚えは?」
ベルに尋ねられ、私は慌てて記憶を辿った。
「うーん……私には分かりません……」
私が考え込んでいると、映像がふっと消えた。
「ダメだ……。読み取れる記憶はこれが限界だ。この男が何らかの手がかりを握っていそうなんだがな……。仕方ない。あとは聞き込みと張り込みで捜してみるか……」
「えー……聞き込みと張り込みって、もはや魔法関係ないじゃないですか。『どんな難事件でも魔法で解決してやるよ』って言ってくれたのに」
「うるせぇ。時には地道な努力も必要なんだよ。よし、ベル、コンビニであんぱん買ってこい」
「またですか?たまには自分で買いに行ってくださいよ」
「めんどくせえ。釣りはやるからお前が行け」
ルシフが千円札を渡すと、
「分かりましたよ。お釣り全部僕が貰いますからね」
とベルは道路を渡った先にあるコンビニに早足で入っていった。
しかし、ベルはすぐに猛ダッシュでこっちに戻ってきた。
「ベル、もうあんぱん買ってきたのか?異様に早いな」
「買ってきてません」
「は?お前何しにコンビニに行ったんだよ」
「違うんですよ。僕たち、とても重要なことを聞き忘れてるってことを思い出したんです」
「重要なこと?」
「ご友人の名前です!」
私はハッとして彼らに告げた。
「そういえば!彼女、最近、苗字が変わったんです!外国人の養子になったとかで……」
「その名前を聞いてもいいですか?」
ベルに聞かれ、私は「はい」と答えた。
「彼女は、ミコト・アルストロメリアです」
それを聞いた2人は、目を丸くしていた。
「『当たり』だ、イザナ」
とルシフが低い声で言った。
「え?」
「アルストロメリアは、ユートピアの王族の姓だ」
「えっ!?」
ミコトが、異世界の王族の養子に……!?
「でも、そのことと、ミコトが行方不明になることと何の関係が……」
「異世界の国の王族だぞ?命を狙って誘拐する者がいてもおかしくない」
「そんな……。だとすると、犯人はこのバッジの持ち主なんでしょうか?」
「それはまだ分からない」
「他にも手がかりが必要ですね……」
「とりあえず、あんぱんだ。あんぱん食ったら何か良いアイデアが思いつくはずだ。ベル、さっさと買ってこい」
「はいはい。あんぱんですね。こしあんで良いですか?」
「違う。俺はつぶあん派だって言ってるだろ。アンパンマンの顔に詰まってるあんこもつぶあんなんだぞ。つぶあんは正義だ」
「だけど、僕はこしあん派です」
「誰もお前の好みなんて聞いてねーよ」
「私もこしあん派です」
「本当ですか?イザナさんとは気が合いますね。ルシフとは違って」
「はあ?お前もこしあん派かよ!」
「ルシフ、ざまあみろです」
「うるせーぞ、ベル!」
不機嫌そうなルシフに対して、ベルは満足そうにコンビニにパンを買いに行った。
「なんで電車移動なんですか?」
右隣に店主のルシフ、左隣に相棒の青年ベルが座った状態で、私はガタンゴトンと電車に揺られていた。
「ルシフさんって魔法使いなんですよね?空飛ぶホウキ使うとか、魔法陣使ってワープとか、そういうことしないんですか?」
私が問いただすとルシフは「はぁ……」と溜め息を吐いた。
「あのな……。お前みたいに、この街が境界の一部だって知ってるやつは珍しい。俺がそんな目立つ魔法を使ってたらあっという間に世間の注目の的だ。つまりは無駄に魔法を使いたくないの。俺たちは『知る人ぞ知る』程度の知名度でいいんだよ」
「でも、知名度が上がった方が、お客さんが来てくれるんじゃ……」
「客が増えりゃ良いってもんでもないんだよ。俺たちには世間に知られちゃならねー事情がある」
「それならどうして客商売してるんですか?もっと人目につかない仕事すればいいのに」
「ルシフが魔法グッズ作ることしかできないポンコツだからですよ」
「あ?」
ルシフがベルを睨みつける。
「まあまあ、落ち着いてくださいお2人とも!ほら、もうすぐ駅に着きますよ」
ここで2人に喧嘩されて仕事を放棄されたら困る。私はなんとか2人をなだめて電車を降りた。
駅から歩いて10分ほどの閑静な街に友人の家はある。
「ここが友人の家です」
「ふーん、小せぇ家だな」
「失礼なこと言わないでくださいよ!」
という私のツッコミはスルーして、
「なるほどな」
と言いながら、ルシフは道にしゃがんで現場を観察し始めた。
しばらく道路をうろうろしたりしゃがんだりするのを繰り返し、ルシフは不意に
「おい、ベル」
とアシスタントを呼び寄せた。
「これを見ろ」
「……これ、ユートピア魔法軍の物ですよね。どうして、こんなところに奴らが……?」
「何ですか?何か見つけたんですか?」
私が後ろから覗き込むと、ルシフは神妙な顔で頷いた。
ルシフが手にしていたのはひとつのバッジだった。弁護士のバッジと変わらないほどの大きさだ。
「何ですかそれ?」
「これは、異世界にある『ユートピア』と呼ばれる国の魔法軍がつけるバッジだ。奴らは普段、現実世界に近い街に来ることはほとんどない。だから、このバッジがここに落ちてるのはおかしいってことだ」
「ルシフ。もし、ご友人がユートピア魔法軍の者に誘拐されたんだとすると厄介ですよ。奴らなら事件の証拠を隠滅するのも朝飯前ですからね」
「それもそうだが、何よりも、奴らに俺たちの居場所が知れたらまずい」
「はい、確実に殺されますね」
「え?どういうことですか?ルシフさんとベルさん、そのユートピア魔法軍……?っていうのに狙われてるんですか?」
「ああ……。ちょっと訳あってな」
この2人、そんなに悪い人たちに見えないし、命を狙われてるなんてちょっと信じ難いんだけど……。
「とりあえず、このバッジに残された記憶を読み取ってみましょう。このバッジの持ち主がわかるかもしれません」
「ああ」
残された記憶を読み取るって……?
ルシフは地面にバッジを置き、杖を握りしめて立ち上がった。
そして、3歩下がって杖の先をバッジに向け、大きく呼吸をして目を閉じた。
そのまま杖にぐっと力を込める。
その瞬間。
杖が空に向けてピカッと蒼い光を放った。
ぶわっとルシフの長い髪がなびく。
杖から、空に、大きく、映像が映し出された。
すごい……ちゃんと魔法使えるんだ……!
映像に映っていたのは、友人が黒い車に乗り込む姿だった。
「これは……やっぱり誘拐の線が濃厚だな」
「この車の持ち主がおそらくバッジの持ち主だと思われます。この車に見覚えは?」
ベルに尋ねられ、私は慌てて記憶を辿った。
「うーん……私には分かりません……」
私が考え込んでいると、映像がふっと消えた。
「ダメだ……。読み取れる記憶はこれが限界だ。この男が何らかの手がかりを握っていそうなんだがな……。仕方ない。あとは聞き込みと張り込みで捜してみるか……」
「えー……聞き込みと張り込みって、もはや魔法関係ないじゃないですか。『どんな難事件でも魔法で解決してやるよ』って言ってくれたのに」
「うるせぇ。時には地道な努力も必要なんだよ。よし、ベル、コンビニであんぱん買ってこい」
「またですか?たまには自分で買いに行ってくださいよ」
「めんどくせえ。釣りはやるからお前が行け」
ルシフが千円札を渡すと、
「分かりましたよ。お釣り全部僕が貰いますからね」
とベルは道路を渡った先にあるコンビニに早足で入っていった。
しかし、ベルはすぐに猛ダッシュでこっちに戻ってきた。
「ベル、もうあんぱん買ってきたのか?異様に早いな」
「買ってきてません」
「は?お前何しにコンビニに行ったんだよ」
「違うんですよ。僕たち、とても重要なことを聞き忘れてるってことを思い出したんです」
「重要なこと?」
「ご友人の名前です!」
私はハッとして彼らに告げた。
「そういえば!彼女、最近、苗字が変わったんです!外国人の養子になったとかで……」
「その名前を聞いてもいいですか?」
ベルに聞かれ、私は「はい」と答えた。
「彼女は、ミコト・アルストロメリアです」
それを聞いた2人は、目を丸くしていた。
「『当たり』だ、イザナ」
とルシフが低い声で言った。
「え?」
「アルストロメリアは、ユートピアの王族の姓だ」
「えっ!?」
ミコトが、異世界の王族の養子に……!?
「でも、そのことと、ミコトが行方不明になることと何の関係が……」
「異世界の国の王族だぞ?命を狙って誘拐する者がいてもおかしくない」
「そんな……。だとすると、犯人はこのバッジの持ち主なんでしょうか?」
「それはまだ分からない」
「他にも手がかりが必要ですね……」
「とりあえず、あんぱんだ。あんぱん食ったら何か良いアイデアが思いつくはずだ。ベル、さっさと買ってこい」
「はいはい。あんぱんですね。こしあんで良いですか?」
「違う。俺はつぶあん派だって言ってるだろ。アンパンマンの顔に詰まってるあんこもつぶあんなんだぞ。つぶあんは正義だ」
「だけど、僕はこしあん派です」
「誰もお前の好みなんて聞いてねーよ」
「私もこしあん派です」
「本当ですか?イザナさんとは気が合いますね。ルシフとは違って」
「はあ?お前もこしあん派かよ!」
「ルシフ、ざまあみろです」
「うるせーぞ、ベル!」
不機嫌そうなルシフに対して、ベルは満足そうにコンビニにパンを買いに行った。
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