闇堕ち騎士と呪われた魔術師

さうす

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15.雪の森

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 雪の森は吐く息が白くなるほど冷えていた。

「防寒具を買って正解だったな」
「上着を着ていても寒いな……」

 マーリンはそう言って、俺に擦り寄ってくる。

「お前、俺にくっつきたいだけだろ」
「そうだが?」
「開き直るな」
「指先が凍りつきそうだ」

 マーリンが俺の手をぎゅっと握り、指を絡めてくる。手を繋ぐなんて、甘酸っぱい青春の象徴みたいだと思って、俺は嫌悪感を露わにした。

「離せ。魔術師と騎士が手を繋いで歩いてるなんて、異様だろ」
「人目を気にしているのか。安心しろ、この森はほとんど人が通らない」

 そう言うマーリンの声には、有無を言わせない威圧感があった。仕方ないので、俺は大人しく手を繋がれていた。
 森の中は静かだった。静かすぎて、かえって嫌な予感がした。

「マーリン。ひとつ気になることがあるんだが」
「なんだ」
「この森に、魔物が大量発生しているらしいって話だったが、ほとんど人通りのない森に魔物が大量発生するなんて、おかしくないか? 魔物は人が放つ闇の気に誘われるんだろ?」
「それもそうだな。……もしかすると、魔王が俺たちをここで足止めするために、魔物たちを差し向けているのかもしれない」
「じゃあ、魔王は俺たちの動向を完全に把握してるってことか?」
「そうだろうな。『薔薇の魔術師』は俺たちが馬車に乗って移動していることを知っていて攻撃してきた。俺たちの動きは読まれていると見て間違いないだろう」
「……やっぱり呑気に手を繋いで歩いてる場合じゃねえんじゃねえの?」
「大丈夫だ。俺は手を繋いでいても周囲への警戒を怠らない」
「本当かよ」

 俺が半信半疑で呟くと、マーリンは突然、

「ランスロット、下がれ!」

と俺を突き飛ばした。
 そのとき、俺たちの前に魔物が現れた。魔物は人のように二足で立っているが、頭はツノの生えた黒い牛の姿で、肉体は黒く、筋骨隆々という感じの見た目をしている。
 魔物はマーリンの腹を殴りつけた。マーリンはものすごい勢いでぶっ飛ばされて木を何本か薙ぎ倒し、遠くの木に叩きつけられた。

「嘘だろ……!?」

 俺はマーリンの方に駆け寄ろうとしたが、魔物が俺に飛びかかってきた。俺は慌ててかわし、魔物に剣を振り下ろした。しかし、魔物の胸板は金属でも入っているのかと思うくらいに固く、表面にうっすら傷がついただけだった。胴体を狙っても無駄だ。そう判断した俺は、魔物の口の中に剣を突き刺した。そして、魔物がよろめいた瞬間に、一撃で首を吹っ飛ばした。
 魔物が倒れると、その臭いに誘われるかのように、魔物たちが集まってきた。倒した魔物と同じ牛頭の魔物、コウモリのような羽の生えた魔物、スライム状の魔物……どいつも魔王軍の印が刻まれている。数が多く、俺ひとりで捌き切れる自信はなかった。だが、マーリンはまだ木に打ちつけられた衝撃でうずくまっている。

「俺がどうにかするしかねえ……」

 突進してくる牛頭の魔物をかわし、バサバサと視界を遮ろうとするコウモリ型の魔物の目玉を剣で貫き、コウモリ型の魔物が突き刺さったたままの剣で牛の首を刎ね飛ばす。スライム状の魔物が形を変えて俺の身体に絡みつこうとするのを剣で掬い取るようにして投げ飛ばし、空中で突き刺す。
 さらに魔物たちが襲いかかってくる。固い身体の魔物は首を斬り、空を飛ぶ魔物は狙いを定めて銛を突くように刺し、素早い魔物の攻撃はかわしつつ隙を突いてぶった斬る。
 種類も大きさもさまざまな魔物を殺しまくり、気がつくと、100体ほどの魔物の死骸が転がっていた。
 魔物の襲来がようやく収まり、俺は息を吐いた。

「さすがに数が多すぎるだろ……」

 俺は息を切らしつつ、マーリンのもとに急いだ。マーリンは俺を安心させるためなのか、俺の顔を見ると笑ってみせた。

「華麗な剣さばきだったな、ランスロット。俺は主人としてお前を誇りに思う」
「そりゃ、どうも」

 俺はすっとマーリンに手を差し伸べた。
 マーリンは俺の手を取って立ち上がろうとした。しかし、マーリンの方が圧倒的に力が強く、逆に俺がマーリンに引っ張られてしまった。バランスを崩し、俺はマーリンに倒れかかった。マーリンが俺を抱き止める。俺はすぐに立ち上がろうとしたが、マーリンは俺の身体を抱き寄せ、上着の中に手を突っ込んできた。

「おい、外で何して……ひゃっ!!」

 マーリンのひんやりとした手が、布越しに触れて、俺は思わず声を漏らしてしまった。

「お前のような強くて男前な騎士から、そんな可愛らしい声が聞けるなんてな」
「うるせえ! 離れろバカ!!」

 俺はマーリンを突き飛ばして立ち上がった。

「そろそろ行くぞ。俺に手を出す元気があるなら、もう大丈夫だろ」
「ああ」

 俺たちは魔物の屍を越えて先に進もうとした。そこに、ちらちらと雪が降ってきた。

「へえ、さすがだね、伝説の騎士ランスロット」

 声が聞こえ、見上げると、木の上に美少年が腰掛けていた。雪の結晶の飾りがついたとんがり帽子を被り、ローブを着ている。

「僕は『氷雪の魔術師』。魔王軍の裏切り者、『宵闇の魔術師』マーリンを殺しにきたんだ」
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