死ぬまでの暇つぶし夢と絶望

クズk

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始まりの歌

絶望の中もう2度ともどらない過去を男が思い、絶望の淵に立つ

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俺にも夢はあったさ。誰にむけた言葉だろう。暗い部屋のなか唯一安心できる場所、布団の中で一人つぶやいた。男は愛されていた。父と母、優しい祖父と祖母、頼りになる兄そしていつも遊んでいた犬。一般的には絵に書いたような家族だろうか。だがどこの家でもあるようにこの家族にも裏があった父の母にたいする暴力、内緒の多額の借金。何も知らずに苦労なく育っていた。男は友達も多く武道をやっていたこともあり、腕っぷしも強くわりと正義感も強く信頼され、将来は警察官になることを夢みていた。やがて何不自由無く育っていた男の人生に最初の暗転がまっていた。父の借金が発覚したのだ。母は強い人だった。子供のために父の暴力にたえ、子供を守ることに必死に生きていた。だが借金のことはよほど応えたのだろう。男の前でも悲しみを堪えることが次第に出来なくなっていた。初めてみる母の弱い部分に男は耐えられなかった。心のなかでは心配しつつ、何もなかったかのように母と少しずつ距離をおいた。中、高と進むなかで少しづつ自分の理想と現実が離れていき、自分が1番不幸であるかのように考えはじめていた。どうして俺は日向にでれないんだ、どうして俺には光が差さないんだ。そればかりかんがえていた。のちに訪れる闇に比べればささいなことだが。あれほど打ち込んだ部活でも日は当たらず、好きな子が友達と付き合うようになるのを陰でみていた。この頃から少しづつ闇に魅入られていった。警察官になりたいという夢も忘れ去られ、遠い記憶になりつつあった。やがて何ももたらさなかった高校が終わりまだ働きたくないという理由だけで男は専門学校を選んだ。卒業式、そんな息子のことを知ってか知らずか母はそんな息子を誇らしげに見ていた。やがて専門学校に進んだ男にはまた新たな暗転がまっていた。世の中の若い男がそうであるように遊びにはまったのだ。ほどなくして学校にもいかなくなり毎日パチンコに入り浸る日々だった。何の目的もなく学校に行く悪い見本のようだった。バイトして使い果たし、金を借りても遊びたい。そんな生活だった。
やがて金がかえせなくなった男は犯罪を犯すようになる窃盗である。捕まりそうで捕まらない、男は何度も繰り返して行為を行った。だんだん手口も悪質になっていった。盗んでは使い果たし、使い果たしては盗むの日々だった。だがそんな日も当然のように終わりを迎える。いつものように金を盗みパチスロに行き帰るところを数人の警察官に囲まれていた。
生まれて初めてパトカーに乗った。皮肉なことにかつて憧れ夢見た警察官としてではなく一人の犯罪者として。
捕まって初めて両親とあった母が泣いていた。あの強い母が。初めて泣くのを見た、母はただ真面目に罪を償えといった。いろいろとあっただろう、実家も大変だっただろう。だがこんな息子の心配をしていた。留置所の暗いオリのなかで男はいつ以来だっただろう泣いた。声を殺しただ静かに涙を流した。こんな場所にいる自分をそして母を家族を傷つけた自分を酷く憎んだ。ここを出たら太陽の下を堂々と歩ける人間になろうと誓った。
初犯であったこと反省していることが考慮され男は不起訴となり二週間ぶりに暗い鉄格子の中からでた。
空はこんなにまぶしかったんだ俺にも太陽の光は降り注ぐんだ。やり直そうまだ人生おわったわけじゃない。
いつ以来だろうか、少しだけ前向きなきもちになれたのは。
しかし男には何もわかっていなかった。これから始まる身を燃やされるようなさらなる絶望の始まりに過ぎなかったことを。更なる困難がまちうけていることを。この青空が眩しかったことが最後だったこと。更なる暗闇に迷い込みはじめていたことを。
何もわかっていなかった。
何も知らなかった。
何も、何も、何も。
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