男装メガネっ子元帥、超女ったらし亡命者に逆尋問を受ける exile

上原

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男装メガネっ子元帥、敵(女たらし含む)の襲撃を受ける

「無理しないほうがいい。しばらく動くな。顔色が良くない」

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 毒々しい赤紫の輝きを放つルーンが瞬いている。

 その姿が黒い腐乱の風に呑み込まれ、闇に食い荒らされ、溶け落ち、骨と化した――と見えたとき。
 ゆらめく赤い鏡の幻影が浮かび上がった。ニコルの攻撃をまともにくらったと思われたものは、単に鏡に映り込んだ鏡像にすぎない。チェシーが、はっと息を呑んだ。

 鏡に映る姿が、奇妙にぼやけ、形を変えてゆく。ぼやけた鏡像は、ふいに解像度を増して鮮明な映像を結んだ。

 そこに映り込んでいたのは。

 鏡に囚われていたのは。

 自らの攻撃を、食い入るようにして見返しているニコル自身だった。

 喜悦に満ちた笑いが響き渡った。
「何で……」

 鏡の中のニコルの目が、恐怖に見開かれる。視界いっぱいに迫り、魂まで奪ってゆこうとする邪悪な力が、全身に黒々と絡みつく。

 何が起こったのか理解できなかった。

 攻撃を仕掛けたのは自分のはずだ。なのに、その攻撃を受けているのは、敵のレディ・ブランウェンではなく。

 世界ごと折れ砕けるような、ガラスの割れる音響がつんざいた。悲鳴が聞こえる。それが自分のあげた悲鳴かどうかも、ニコルには分からなかった。

 とっさにチェシーがニコルを頭ごなしに抱きかかえて横っ飛びに転がった。

 今までいた空間を、巨大な闇の手が地面ごと殺ぎ取った。

 枝が、葉が、めきめきと音を立てて握りつぶされる。腐り果てた汚泥が四散した。森が放射状に根こそぎ押し倒されてゆく。

「《死の嵐テンペスツ・レ・ラ・モルティス》が、はね返され……」

 ニコルは焦点の定まらない眼を見開いてつぶやいた。チェシーにかばわれていたことも、しばらく気付かない。恐ろしいほど、全身の感覚がなかった。

 チェシーはニコルの顔、手、すでに血に汚れた下半身へと目線を走らせた。傷の状態を確かめたあと、ニコルからは見えないところで顔をゆがめる。

「無理しないほうがいい。しばらく動くな。顔色が良くない」

 チェシーはニコルを腕に抱き、かばう形で伏せながら総毛立つ声をこわばらせた。

「ブランが持っているのは、《逆襲のエイフワズ》だ」

 《逆襲のエイフワズ》。

 目には目を。歯には歯を。自らの身に受けた攻撃と同じだけの損傷を相手にも確実に跳ね返して負わせる、血讐と報復のルーン。

 血なまぐさい臭いに吐き気をもよおす。チェシーは、顔色が悪い、などと言ったが、おそらく、そんな生易しいものでは済まされないはずだ。
 手を持ち上げ、見えない眼をこらして、闇に透かす。爪の先まで青黒く変色している。死斑すら浮かんでいるように見えた。もし、ルーンの防御結界が攻撃を中和し、浄化してくれなければ今頃は……だ。鳥肌がぞわりと背中を這った。

「もう、君の虎の子の闇属性は使えない。今の一撃で、奴も間違いなく相当な傷を負ったろうが、君の方がよほど消耗がひどい。次にまた逆襲カウンターを食らったら、お互い良くて相打ち。やつと奴の手下どもは全滅させられるかもしれないが、君はノーラスの司令官だ。司令官を失ってしまえば、南部、君らのいう北部ノーラス戦線そのものが崩壊する。どう考えても、この戦闘で我々に勝ち目はない」

「そんな、いったい、じゃあ、どうしたら」

 強力すぎる《カード》の魔力どうしが正面衝突する極大魔法戦闘においては、通常の集団戦とはまったく違う戦法を取らざるを得ない。たとえ何百、何千と兵力を揃えて突撃したところで、大火力の前にあっさり薙ぎ払われるのは目に見えている。通常の兵では、敵将に近づくことすらできないのだ。

 つまり、この場において、身を守るルーンも《カード》も持たぬチェシーは何の役にもたたない。どれほど卓越した妙技をもってしても、無力。

 ニコルは歯を食いしばった。立ち上がろうにも、死にかけの芋虫のように、蠕動ぜんどうしながらぶざまに身をよじることしかできない。だが、まだだ。

 まだ、動ける。
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