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男装メガネっ子元帥、敵(女たらし含む)の襲撃を受ける
「友を護るのは騎士として当然の行為だ」 「はぃ? 人を楯にしておいてよくもまあぬけぬけと」
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「チェシーさん、あいたた」
ニコルはチェシーを支えようとして支えきれず、うずくまった。地面に突っ伏して足を抱え込み、うんうんと苦痛の唸り声をひり出す。
「いたたた、動けない」
チェシーは、身を投げ出すようにして、仰向けに倒れた。
「同じく。恥ずかしながら私もしばらくは起き上がれそうにないな」
ニコルは地面に転がったまま、首をねじってチェシーを見た。
「大丈夫ですか、チェシーさん。マジでボロボロじゃないですか」
「そういう君こそ、まずは鏡を見てからものを言いたまえ。どこからどう見ても君の方がゾンビだ」
「チェシーさんのほうがよっぽどボッコボコですよ」
チェシーは、冷や汗に濡れた額をかすかに光らせながら、ニコルを見返した。それから、ようやく、いつもの憎々しい笑みを頬にのぼらせる。
「案ずるな。私なら大事ない。君が、身を挺してかばってくれたおかげだ」
「無理やり矢面に立たされたとも言いますけどね」
「この野郎、減らず口を叩きやがって」
死力を振り絞ったあと、精も根も尽き果てて。双方ともに動くに動けない状態ながら憎まれ口を叩きあう。そんな愚にもつかぬ応酬をしているうちに、ニコルはなぜか、安堵のあまり目が熱くにじむのを感じた。あわてて目をこする。
「でも、チェシーさんが無事でよかった」
心底、心からの思いを吐露する。チェシーもどうやら同じ気持ちらしかった。かすれた声で力なく笑う。
「何を言う。この私を見くびってもらっては困るな。友を護るのは騎士として当然の行為だ」
「はぃ? 人を楯にしておいてよくもまあぬけぬけと」
「男が細かいことを気にするな。さて」
チェシーはふかぶかと息をつくと、身を起こした。
「とりあえず休める場所を探そう。いつまでも森にいるのは危険だ。歩けるか」
「ええ、何とか」
ニコルはうなずいた。支えられて、立ち上がる。歩き出そうとしたとき、ニコルは額の奥がくらりとめまいを起こすのを感じた。自分自身の気を紛らわせるために、何度も眼をつぶってごまかす。
「どうした」
先に歩き出していたチェシーが前方で立ち止まった。いぶかしげな視線を注ぐ。
「いえ、なんでもないです」
ニコルは、からりと明るく笑って目をそらした。と、視線の隅に迷彩柄のまん丸い物体が映った。木の枝にぶら下がっている。
何度も見返して確認する。なんだかとっても思い当たるフシのある膨らみ方。どう見てもぱんぱんになったリュックだ。
「あれ、もしかしたら僕のリュックかもしれません。すみませんチェシーさん、ちょっと待っててください。取ってきます」
「おい、馬鹿。待て、勝手に道をはずれるな」
チェシーが制止するのも聞かず、ニコルは道端の草を踏みしだいて森の中へと分け入った。見ると、迷彩柄のリュックの蓋がほんのすこし開いていた。ピンクのしましま模様が、ちょろりと横にはみ出している。
ニコルはおずおずと手を伸ばした。肩ベルトに結び付けた認識票を裏返す。刻まれているのは胸壁を模した第五師団の隊章。
「確かに僕のだけど」
だが、馬の鞍に引っ掛けていたはずのリュックが、いったいぜんたい、どうしてこんなところに?
ニコルはチェシーを支えようとして支えきれず、うずくまった。地面に突っ伏して足を抱え込み、うんうんと苦痛の唸り声をひり出す。
「いたたた、動けない」
チェシーは、身を投げ出すようにして、仰向けに倒れた。
「同じく。恥ずかしながら私もしばらくは起き上がれそうにないな」
ニコルは地面に転がったまま、首をねじってチェシーを見た。
「大丈夫ですか、チェシーさん。マジでボロボロじゃないですか」
「そういう君こそ、まずは鏡を見てからものを言いたまえ。どこからどう見ても君の方がゾンビだ」
「チェシーさんのほうがよっぽどボッコボコですよ」
チェシーは、冷や汗に濡れた額をかすかに光らせながら、ニコルを見返した。それから、ようやく、いつもの憎々しい笑みを頬にのぼらせる。
「案ずるな。私なら大事ない。君が、身を挺してかばってくれたおかげだ」
「無理やり矢面に立たされたとも言いますけどね」
「この野郎、減らず口を叩きやがって」
死力を振り絞ったあと、精も根も尽き果てて。双方ともに動くに動けない状態ながら憎まれ口を叩きあう。そんな愚にもつかぬ応酬をしているうちに、ニコルはなぜか、安堵のあまり目が熱くにじむのを感じた。あわてて目をこする。
「でも、チェシーさんが無事でよかった」
心底、心からの思いを吐露する。チェシーもどうやら同じ気持ちらしかった。かすれた声で力なく笑う。
「何を言う。この私を見くびってもらっては困るな。友を護るのは騎士として当然の行為だ」
「はぃ? 人を楯にしておいてよくもまあぬけぬけと」
「男が細かいことを気にするな。さて」
チェシーはふかぶかと息をつくと、身を起こした。
「とりあえず休める場所を探そう。いつまでも森にいるのは危険だ。歩けるか」
「ええ、何とか」
ニコルはうなずいた。支えられて、立ち上がる。歩き出そうとしたとき、ニコルは額の奥がくらりとめまいを起こすのを感じた。自分自身の気を紛らわせるために、何度も眼をつぶってごまかす。
「どうした」
先に歩き出していたチェシーが前方で立ち止まった。いぶかしげな視線を注ぐ。
「いえ、なんでもないです」
ニコルは、からりと明るく笑って目をそらした。と、視線の隅に迷彩柄のまん丸い物体が映った。木の枝にぶら下がっている。
何度も見返して確認する。なんだかとっても思い当たるフシのある膨らみ方。どう見てもぱんぱんになったリュックだ。
「あれ、もしかしたら僕のリュックかもしれません。すみませんチェシーさん、ちょっと待っててください。取ってきます」
「おい、馬鹿。待て、勝手に道をはずれるな」
チェシーが制止するのも聞かず、ニコルは道端の草を踏みしだいて森の中へと分け入った。見ると、迷彩柄のリュックの蓋がほんのすこし開いていた。ピンクのしましま模様が、ちょろりと横にはみ出している。
ニコルはおずおずと手を伸ばした。肩ベルトに結び付けた認識票を裏返す。刻まれているのは胸壁を模した第五師団の隊章。
「確かに僕のだけど」
だが、馬の鞍に引っ掛けていたはずのリュックが、いったいぜんたい、どうしてこんなところに?
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