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わたし、狼になります!

第41話 「分かってるんだけど、でも、その、あの、ああああ好き好き好きだああ我慢できない」

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「えええ……? あ、あの、ちょっと……その、みなさんの前で、そんな突然に、何を」
 シェリーはわずかに焦って、あたふたと回りを見回した。
「あ、あの、皆さんご覧になってますけど……?」

「シェリー、好きだ。どうしよう、二日も三日もシェリーに逢えなくてホント辛かった。何でこんなにシェリーのこと、好きで好きでたまんないんだろう。こういう時、何て言えばいいんだ? どう言えば俺の気持ちが伝わるんだ? ああ、もう、マジ好きすぎてたまんねえよ、シェリーが好きだーー遠吠えしたいーー!」

 ほぼ手加減無しに力いっぱい、抱きしめられる。

「う、うん、そんなに、強く……されたら……苦しい、です……」
 ルロイは我慢できない様子でシェリーに何度もキスし、唇をほっそりとした首筋に当てて、荒々しく吐息をついた。

「そんな声出すなよ……可愛すぎて、ああ、シェリー……俺、やべえ、マジ……あっ……どうしよう……ヤバイ、ヤバイぞ。またこんなとこで発情したら、お、おい、誰か、止めてくれ」

 ルロイの手が、餓えたように腰をまさぐり始める。

「あっ、あの……ルロイさん、だめです、待って、いけません、あの、みんな見てますから……」
 あやうく巻きスカートをめくり上げられそうになって、焦ってルロイの手を押さえる。

「う、うん。分かってる。分かってるんだけど、でも、その、あの、ああああ好き好き好きだああ我慢できない」
「あぁん……もう、いけませんってば……だめですって……」

「いい加減にしろ、ルロイ」
 仲間のバルバロがあわてて駆け寄ってきた。ルロイの襟首を掴んで、シェリーとの間に割って入り、二人を引き離す。

「この馬鹿狼。何で当たり前みたいに腰振ってんだ。ここは天下の往来であってお前の巣穴じゃないんだぞ」
「何だと常識狼ぶりやがって。んなこと言いながらグリーズ、おまえ、今、説教ついでにシェリーに触っただろ」
「触ってねーよ。っていうかその情けない体勢でえらそうに反論するな」
「だって好きなんだから仕方ねえだろ。それよりシェリーのお尻触った分の肌の感触を返せ。俺だけのシェリーだぞ」
「……馬鹿すぎて話にならないな」

「もう」
 シェリーは赤くなった顔をくしゃくしゃにして、ルロイの肘をつかんだ。

「何言ってるんですか、ルロイさん。そんな訳の分からないこと言って、みなさんにご迷惑をかけないでください。ほら、一緒に謝りましょ? みなさまお楽しみのところを私事にてお騒がせいたしまして、誠に申し訳ございません」

「うう、まことにもうしわけございません」
 シェリーに背中を押され、ルロイはしょんぼりと肩を落とした。尻尾を巻き込む。

「シェリーちゃんに謝ってもらうことじゃない。悪いのはこいつだ」

 グリーズが苦々しい表情で手を振り、さえぎった。ルロイよりも頭一つ背が高い。野性的な容貌の多いバルバロには珍しく痩せぎすな体躯で、青灰色の髪をこざっぱりと短く刈り、鼻眼鏡を乗せている。

「そうだそうだ」
 皆が一斉にうんうんとうなずく。

「ルロイが悪いんだぞ」
「満月でもないのに盛りやがってこのエロ狼」
「さては違うところにばかり血が行って脳みそに血が回ってないんじゃないかアホ狼」
「満月と新月の違いぐらい気付けよ発情狼」

 やいのやいのと全員で責め立てられ、さすがのルロイもたじたじとなる。

「うるせー何が発情狼だ。てめえらだって一皮剥けばおんなじだろうが。こんな時だけ声を揃えやがって。俺は悪くないぞ」
「よく言うよ。ヨメが来てから毎日盛りっぱなしのくせに。水ぶっかけてやろうか」
「誰がだ。いくらなんでもそんなに年がら年中発情してるわけ……あっ」

 ルロイは、ばつの悪そうな顔をした。
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