上 下
26 / 30
第一章

BRAVE_DATA3.【悪心の呪詛】

しおりを挟む



 『悪心の呪詛』とは、勇者フェリシアの先代勇者の誰かが名付けたものである。
 その影響下にある者は如何なる地位や生まれに関わらず、強烈な悪意と殺意に苛まれ他者を憎む様になる。

 以下はフェリシアに向けて残されていた先代勇者からの手記から抜粋した物となる、厳重保管の下──【 】──に記憶させるように。



【────人の心を蝕むこの呪いは遅効性の毒だ。
 私と妻は夫婦勇者で、覚醒した権能は強力な抗呪カウンター対呪能力ディバインを備えた力だった。
 恐らくは魔王と四天王に打ち勝つ為の力だろう。
 私達は世界を救う為に数多の戦いに身を投じながら、魔王の秘密を解こうと研究もしていた。
 我々、勇者が世界を救う為には強力な魔王と矛を交えなければならないのか、それとも他に手立てがあるのか。
 知らなければ成せないことはある。
 そして──知らないからこそ犯す過ちもある。

 私と妻はやがて……激化する戦いと同時に膨れ上がった民衆の手によって隠れ家を暴かれ、そこを四天王に襲われた。
 その段階になって初めて認識できる様になるのだ。
 悪心の呪詛とは、世界を覆う猛毒とは、我々勇者にも影響する最強の呪いだったのだと。

 民衆が我々夫婦の居所を知れたのは妻が旧知の家に助けを求めたからだった、彼女は終わりの見えない戦いと強力過ぎる四天王達を酷く恐れていた。
 妻の心は強かった筈だ。
 私との絆はそれよりもっと──強い人だったのだ。
 だが彼女は私を信じられなくなり、外に助けを求め、あまつさえ私を裏切った。
 私に刃を突き立てたのは彼女だった。
 そうして民衆にさえ火をかけられ、炎に包まれた中で襲って来た四天王達に妻と私は殺された。

 ──死ぬ間際、私は自分と妻だけでなく炎の向こうに見えた民衆の魂に黒い靄が被さっているのが見えた。

 歴代の勇者達がこれに気づけたかは定かではないが、少なくとも私は最後の力を振り絞ってこの事を『君』に教えるべきだと考えた。
 この手記が勇者のいずれか……あるいは『君』に届いたのだとすれば、私と妻が戦った甲斐があったのだろう。
 どうか──急いでくれ。
 人は善性の生き物だ、温かい心と優しい言葉を持った存在の筈なのだ。
 私の妻は……あんなに人を憎む女性ではなかった。
 それを狂わせた。
 勇者の加護があってもあれほど狂わせるのなら、きっと歴代勇者達が魔王に勝てなかった原因がそこにあるのだ。

 これは毒だ。
 時間をかければかける程に人がおかしくなり、その先にはまだ何かしらの『着地点』が存在する。
 魔王が何を思ってこのような呪いを振り撒くのかは謎だが、神と勇者による対抗が失われた後に何が起こるのか? それを思えば予測出来る所にあるのは人類の破滅だ。
 我々勇者はこの悪心の呪詛と向き合いながら、真っ向から戦わねばならない。

 急げ。
 世界を救うには一刻も早く魔王を討つしか無いのだ────】




 以上がその内容となる。
 
 ──『報告』
 勇者フェリシアに渡された手記の頁は殆どが剥ぎ取られていた、原因究明と今代勇者の権能に関しての情報収集に力を注ぐ様にすべし。










しおりを挟む

処理中です...