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二章:聖女の非日常に組み込まれてしまった
正体が判明してしまった
しおりを挟む新しい方のクウィンが、無表情で起き上がる。前門の虎、後門も虎。二人のクウィンに挟まれた。いくらバカな私であっても、この状況が明らかに異常であることはなんとなく分かる。
神に反逆したがゆえに、この「時の回廊」に閉じ込められた。
彼の主張だが、少なくともこれはウソ。紅のウソ。
「ナニモンよあんたたち」
「さあな。ただの双子かもしれないぜ。双子で仲良く神に叛逆し、仲良く牢獄に閉じ込められたというシナリオも考えられる」
「言い訳として都合良すぎ。ちょっと信じられない。だってあんたたち、双子というより『コピー』に見えるもん。カンだけど」
「おやおや」「おやおや」
二人のクウィンは、まったく同じ仕草で驚いてみせた。ただでさえ汚い水で濡れてるのに、さらに、妙にベタつく冷や汗も、余計な水分として付け足される。
引きつる唇で、私は続けた。
「ひょっとしてだけど。『少年クウィン』という存在は、この結界に元々設置されてた、いわゆるギミックなんじゃないの? 探せば他にも、ロケットペンダントがあるんじゃないの?」「ふふ」「ふふふ」
不気味に笑う。ハッと、さらにふみ込んだ可能性に気づいた。今の私は冴えている。頭いいキャラになったみたい。定食屋の跡継ぎとして恥ずかしくないよう、経営入門の本を読んだからかな?
一応、「おバカな中学生女子の妄想にすぎないかもしれないけど」と前置きして、言ってみる。
「森の旧型怪物たちはフェイクで、森の至るところに隠されたクウィンたちが、『時の回廊』の真の守護者だったり?」
「ご明察」「単純バカな子と思ってたけれど、意外と頭が回るらしい」
「危機が迫って初めて覚醒するタイプなのかも」
「そういうタイプ、絶滅したかと思ってたよ」
拍手された。うれしさなんてカケラも湧き上がらない。姿勢を低くした。
尋ねる。
「人間ってのもウソだよね。あのずんぐりした怪物たちと同じ、キカイセーメータイってヤツ?」「そうそう」「当たり当たり」
「『時間の神』麾下、最新型の知性兵。最新型なんだぜ。かっこよくない?」
「と言っても、まだ試作品なんだけどねぇ」「ケタケタ」
なんてこったい。くそっ、と心で悪態をつき、コメカミを押さえる。これじゃあホントに守り損じゃない。
むしろ、メロウの背中を押してやるべきだったのでは。
両手をヒラヒラ上げる。
「それで。本当のことを知ってしまった私をどうするの? 殺すの? もし殺した場合、心底恨みながら死んでいきます。化けて出るかもしれません。うらめしや~って」
ヒュードロドロ~、と口から効果音を出す。妖怪相手に中華料理屋を営業するのも悪くないかもしれない。「裏、飯屋」。ただの宣伝である。
「いや別に」「殺したりなんかしない」「え?」
「だって」「「君を殺せとは言われてないし」」
二人のクウィンが、揃ってそう言った。
拍子抜けする。黒いヒビから現れた怪物――メロウ曰く「時間の神」が自分のために創造した汎用型の歩兵――は、私の同級生をためらいなく殺した。この結界内の怪物たちも、私を視界に捉えるや否や襲いかかってきたのだ。
クウィンもあれと同類じゃないの?
「あんなロボットと一緒にしないでくれよ」
「俺たちは、知性ある人形だ」「神の命令を絶対遵守する」
「命令から逸脱したことはしない」
「命令……?」
息ぴったり、矢継ぎ早に言葉をつむぐ二人のクウィンたちに対して、問いかける。彼らは同時に答えた。
「「俺たちに下された命令は。この時代にとっての害悪……」」
セリフの途中で轟音が鳴り響く。木々が吹き飛ばされ、土煙が舞った。ヒュパッと散らされる。
クレーターのど真ん中に、黒頭巾を被った女がいた。
クウィンたちを睨みつける。彼らもまた、メロウを睨み返す。
「「シスター・メロウの足止めだ」」
「見た目が一緒。なるほど。そういうことでしたか」
納得したように、彼女はうんうんと頷く。獰猛に笑った。真相を察したのだろう。私でも気づいたのだから。
二人のうち片方が指パッチンした。見える範囲で、土が三カ所、ボコリと盛り上がる。ヌッと人が出てきた。正確には機械生命体なのだろうけど。
全員、クウィンとまったく同じ顔、まったく同じ背格好。
「足止めなんて。ファンキーじゃないですねえ」
勇敢なる一人のクウィンが駆け出す。腰に手をやり、大きな胸をドンと張ってるメロウに向かって。
間合いに入った瞬間、クウィンAはいとも簡単に弾き飛ばされた。地面に叩きつけられ、ぐちゃりと潰れる。赤い花が咲いていた。どうやら血は流れてるらしい。
美声が辺りに鳴りわたる。
「組み伏せ犯しぶっ殺すくらい言いなさい。そうですね。聖書『禁断の愛』の章が主人公、ネトゥーリみたく」
フンスと鼻を鳴らす自称聖女。邪教の聖書こわ。
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