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三章
ストーカースキルを発動させてしまった
見つけた。サッと隠れる。ストーカースキル発動。気配を消した。
長い黒髪、存在感がとてもうすい、幽霊みたいな女。昨日の夕方、定食屋「まだい」の前でうろついていたお姉さんだ。
今日は大通りの道をうろついている。というか、まごついている。
入ろうとする店がどこも年末年始休店のお知らせを貼っており、困っているようだった。クリーニング店や、本屋、服飾店、家具屋、フィットネスジムなどの前で立ち止まっては大きくため息をつき、とぼとぼと進む。開いてる店といえば、せいぜいコンビニに薬局、有名どころの飲食チェーンくらい。
当然だ。なにせ今日は十二月三十一日、天下の大みそか。隣街のショッピングモールすら閉まってる。まああそこは、明日からドドンと再開しちゃうんだけど。私たち利用客からすればありがたくないこともないが、従業員からするとブラック以外の何ものでもない。
風が吹いた。寒い。沐美んちから盗んだコートの、一番上のボタンを閉める。
息で両手を温め、下唇をなめる。カンシ対象のお姉さんを眺めた。どう見ても、つい最近ここらに引っ越してきた、世間知らずの若い女性としか思えない。ましてや人類滅亡をたくらむ悪のマッドサイエンティストに加担しているとは、とても。
おかしくはあっても怪しくはない。
知らずに協力させられてるとか? でもあんなの雇うなら、野生の猫たちに小型カメラつけて回った方がゆーいぎな気もする。さすがに言いすぎ?
開店してる薬局を見つけて、背筋をぴーんと跳ねさせるお姉さん。ちょううれしい! という気持ちが、離れた私にもよく伝わってくる。
るんるんるん♪ ってオノマトペが見える。
おもしれー女。
跡を追って薬局に入る。地元民ならなれた場所。テストの問題は答えられなくても、薬局のどこになにが置いてあるかなら答えられるくらいだ。いや、細かな商品名は分からないけども。
お姉さんはしきりにオロオロキョロキョロして、ようやく、上からタレ下がってる区画の案内を見つける。洗剤コーナーに向かったのち、カゴを取りに入り口に戻ってきた。
おっこちょちょい。あれ? おっちょこちょい?
悩んでる間に、お姉さんは買い物を始める。洗濯物用の液体洗剤と柔軟剤を、ボトルで購入。台所用(お徳用スポンジ付き)のも同様。箱ティッシュ、ウェットティッシュ、掃除用ウェットシート、ゴミ袋、固形せっけん、ボディソープ、リンスインシャンプー、歯磨き粉、洗口液。そのほか、テキトーにつまめそうなお菓子を少々。
「おもっ」
とつぶやきながら、会計にカゴを持っていく。
生活用品のまとめ買いにも限度ってものがある。年末にもかかわらず、この薬局は大放出セールなどしていない。いつも通り、広告に書かれた品が安くなってるのみ。あれが「新しく引っ越してきた人」じゃなければ、なんなのか。
尾行がむなしくなってきた。親衛隊のおっちゃんが彼女に怪しさをおぼえたの、反射的にヨソ者への敵対意識を持っちまっただけじゃあなかろうな。せまい村に住む人々が抱きがちなあれ。
店に入ったのに何も買わないのは私のポリシーに反する。チャック付きのグミを買った。出ようとした瞬間、「播磨くんファンクラブ」のメンバー二人が入店してくる。あわてて、コートのエリで顔を隠した。バレなくて済んだらしい。
グミをモグモグ食べつつ、お姉さんを追う。とりあえず、住んでる所までは突き止めておく。
はちきれんばかりのビニール袋を持つカンシ対象が、休み休みでゆっくりと進む道については、非常によく知っていた。通学路でも、買い出しに使う道でもないけど、よく通り、よく研究したルートだった。
「あ」
お姉さんが入っていった建物を見上げる。
それは、播磨くん、および彼の父が住むアパートだった。32号室の扉を開けるお姉さん。耳を側立ててみる。「疲れた~」「なんでみんな閉まってたんだろ」「あ、今日大晦日か~」と独り言が聞こえた。しばらくすると、テレビの音が流れてくる。
これ以上ここにいても無益。そう判断し、32号室の前から離れる。
階段を降りようとして、立ち止まった。
せっかくだし、播磨くんの43号室に寄っとこう。アポなしだけど。門前払いはされないと信じたい。ちょっと優しくしたくらいで調子に乗りやがってとか言われたら死ぬ。
恐る恐る、でもドキドキワクワクしながら、インターホンをポチッと押す。
ピンポーン。
一分待った。反応なし。物音も聞こえない。どこかに出かけてるのかな。
魔がさした。ゴクリと喉を鳴らし、ドアノブに手をかける。キィと鳴き声を上げて、開いた。
電気がついている。
「消し忘れ?」
播磨くんのクツがある。出かけてはいないようだ。吸い寄せられるように入る。廊下を進む。
リビングのドアは開けっぱなしだった。
突然、手がガタガタ震え始める。ズキッと頭に痛みが走った。フラッシュバックする。
自我を無くして襲いかかってきた播磨くんの首を、断ち切った記憶が。
「はぁ、はぁ」
壁に手をつく。前を見た。播磨くんが、テーブルに突っ伏している。寝ているのかな。深呼吸して落ち着いた。彼に近づく。顔をのぞき込んだ。
苦しみに満ちた表情で、意識を失っている。
まだ息はある。急いでスマホを取り出し、119番に電話しようとした。
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