聖女の首を拾ってしまった

オッコー勝森

文字の大きさ
55 / 64
三章

後頭部を殴られてしまった

しおりを挟む

 この街にも大きな神社がある。そりゃあ、春日大社とか出雲大社みたいな有名どころと比べられちゃうとスケール感は小さいのだけど、初もうでするくらいならまったく問題ない。夏には縁日とかもやる。
 その神社に、メロウと二人で向かっている。おひさま傾き、黄色くなってきた空の下、走って。大通りまでやってきた。

「あっ、あの子可愛くておっぱいがデカいですね!」

 トツジョとして足を止めたメロウにぶつかる。ドムンとはね返され、背中から転倒。思わず「ぎゃっ」と叫ぶ。

「痛いっ! でけえんだよシリが! ケバブ式に肉そぎ落としてやろーか!?」
「ごめんなさい。でも成子ちゃんも軽過ぎですよ」

 のばされる手を取った。周りを眺める。老いも若いも、人がそれなりに多い。
 神社の辺りにはもっといるだろう。走ってたらメーワクだ。歩く。

「無宗教国家日本で、最も信仰心に溢れる日はいつだと思いますか?」「ん?」

 問題が出された。テストとか苦手なのに。ちょっと考えてから、答える。

「ちょうど今あたりじゃないの?」
「正解です。そして、大衆の信仰による魔術的なエネルギーはバカに出来ないのです。みんなで祈りを捧げると、良いことがある可能性が上がります」
「歯切れの悪い言い方だね。ゼッタイじゃないんだ」
「術式を書かなければ、せっかくエネルギーがあったとしても、その流れを操り結果を確定させることは出来ませんからねえ。良い目が出るかどうかは偶然が決めます」

 結局は偶然なのか。まあ、祈れば必ず良い目が出るなら、カガクギジュツの発展した現代においても、みんなもっと神様をあがめたてまつってるはずか。
 メロウは続ける。

「ナンシーは悪魔を使って、日本人の行き場なき信仰エネルギーを抽出、利用し、ウイルスを強化する材料にする計画を立てたのでしょう」

 人がどんどん多くなってきた。今日は特に寒いのに。一月一日ってこんなに人来るんだ。ウチは毎年、学校が始まって以降最初の土曜日に初もうでに行くから、知らなかった。日本がむしゅーきょー国家だと信じられなくなりそう。
 手を差し出す。

「手を舐めろってことですか?」
「違うわ。はぐれそうだから手ぇつなご」「はい」

 整備された丘をのぼる。このあと三つの分かれ道があり、真ん中を進めばオオヤシロだ。オオヤシロの前には、かなり急でキツい階段がある。さっき走ったのに。明日は筋肉痛かもしれない。
 メロウがささやいてくる。

「悪魔は、親衛隊の誰かに取り憑いている可能性が高いです」「っ」

 キョロキョロ辺りを見回し、すぐにあきらめた。「成子ちゃん親衛隊」メンバーは、佐伯さんと、ショッピングセンターで会った二人のおっさんしか知らない。人数がいるようだし、知ってる三人のうち誰かに悪魔がとりついてる可能性は高くない、と思う。
 コメカミを押さえる。

「中心メンバーの顔写真とか、見せてもらっとけば良かったかも」

 NRK48の実態ハアクを、ちゃんとしておくべきだったかも。
 と悔やんだのと同時に、メロウの手がスポンと抜けた。

「「え?」」

 後ろを歩いていた集団の足が、急に速くなったのだ。芸能人でもいたのだろうか。逆らえないまま、人波にのまれてく。
 メロウとは別方向に、流されていく。つぶされそう。呼吸するのがせいいっぱい。「あーっ」と叫ぶも、足音にかき消される。

「ちょっとちょっとちょっと!? ラッシュ時の新宿駅!?」

 東京行ったことないけど、毎朝こんな感じなのかな。一分ほどもみくちゃにされたのち、ペイッと吐き出された。ゴロゴロと転がり、小さなオヤシロにぶつかって止まる。フラフラと立ち上がった。ケガはなさそう。さすが私。
 メロウとはぐれてしまった。

「ここ……確か、カグラ殿?」

 小さい頃に一度、みこさんと演奏隊による舞を見にきたことがある。オオヤシロ前にある三本道の、右を行った先にある建物だ。今も、おごそかな音楽が聞こえてくる。
 なつかしい。
 近くにある階段の下をのぞき込んだ。車がいっぱい。駐車場、こんなところにあったのか。いつも徒歩で来るから気づかなかった。ウチは車を持ってない。お母さんはペーパードライバーで、お父さんはそもそも運転免許を持ってない。
 フグの調理師免許は持ってるのに。
 タン、と軽い音がはじけた。奥のセダン車からだ。人が降りてきた。
 ピ、と鍵をかける。

「! あれ……」

 見覚えのある女性だった。親衛隊メンバーの佐伯さん。カグラ殿ではなく、林の方に向かう。スマホの時計を見ると、四時。暗くなるまでまだ時間がある。
 いける。階段を通って、彼女のあとを追いかけた。気配を消す。
 なんのために林に入ったのか。神社の林になにがあるのか。ひょっとすると、悪魔にとりつかれた上での行動かもしれない。
 自分のストーカーをストーキングする。おもしろい構図だった。木の裏から、キョーミシンシンで佐伯さんの背中を眺める。
 その時だった。
 ゴン、と後頭部に強いショーゲキが走る。上手い一撃。クラリとした。倒れる。
 ヤバい。意識が――。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

処理中です...