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はじめてその男を見たとき、その体躯の大きさに慄きそして目に入ってきたのは闇を閉じ込めた様な漆黒の瞳と炎のような赤毛だった。
「あなたが、リリスか?」
リリスは思った。目の前の男から自分の名前が出てくるとは…
自分の名前を呼ぶ者は久しくいなかったので、その呼びかけに応じるのにしばしの間があった。
「…はい…リリスと申します」
リリスは、帝国式の挨拶をしつつ、自国の名前を語ったほうがよかっただろうか、しかしそれは必要なのか、ただの人質で今は人質にさえならないかもしれないのにとか今までの生活よりはましだろうかとそんなことをただただ考えていた。
男は微動だにせずただじっとリリスを見つめていた。
その漆黒の眼の中の激情をリリスは知る由もなかった。
時はテセラ歴194年
ワスラーン帝国は大陸の覇権を争う大国になっていった。
次々と近隣の国に戦争を仕掛けその国土を増やしていった。
その功績は一人の騎士団長の名と共に帝国の脅威を近隣の国に知らしめていった。
”赤毛の獅子 オズワルド”
一振りで10人をなぎ倒しうる力を持ち、策を弄し国々を脅かした。
仕掛けた戦争の事後の処理は、彼は自分ないし信頼のおける部下にしか任せなかった。
”いつの時代も、巻き込まれるのは民だ”
そう言ったのが事実かどうかはわからないが、彼の戦後処理の手腕は実に見事であった。
民は別に誰が上でも構わない。その日その日が無事であればいい。
帝国は近隣の国々の内から瓦解させ、国として機能しないようになって陥れた。
それが広まるころにはワスラーン帝国にひれ伏して、国土の一部となった後のことだった。
その中にリリスの故郷でもあるイスマルは含まれていなかった。
彼女の国は取り立てて産業があるわけではなく、自然と共にいきる国だった。
その国は一領主のような国土しかもっておらず、外敵から自分たちを守る術がなかったゆえに、帝国であるワスラーンへ庇護を求めた。
ワスラーンはこれを了承し、同盟の条件に王家の一人を帝国へ差し出すようにと条件を提示してきた。
ようはこの条件に当てはまったのが、かつて第二王女であったリリスであった。
リリスはただ王女としてその地位を甘受していたわけではない。
自然と共に生き、自然と共に死ぬイスマルの教え通り、彼女もまた自然と共に生きてきた。
自分はその生活を続けられると思っていたが、それが叶わないと現実を突き付けられたのが少女のころであった。
リリス14歳。
ワスラーン帝国へ入国し、皇帝の第10番目の側妃として召し上げられることとなった。
「あなたが、リリスか?」
リリスは思った。目の前の男から自分の名前が出てくるとは…
自分の名前を呼ぶ者は久しくいなかったので、その呼びかけに応じるのにしばしの間があった。
「…はい…リリスと申します」
リリスは、帝国式の挨拶をしつつ、自国の名前を語ったほうがよかっただろうか、しかしそれは必要なのか、ただの人質で今は人質にさえならないかもしれないのにとか今までの生活よりはましだろうかとそんなことをただただ考えていた。
男は微動だにせずただじっとリリスを見つめていた。
その漆黒の眼の中の激情をリリスは知る由もなかった。
時はテセラ歴194年
ワスラーン帝国は大陸の覇権を争う大国になっていった。
次々と近隣の国に戦争を仕掛けその国土を増やしていった。
その功績は一人の騎士団長の名と共に帝国の脅威を近隣の国に知らしめていった。
”赤毛の獅子 オズワルド”
一振りで10人をなぎ倒しうる力を持ち、策を弄し国々を脅かした。
仕掛けた戦争の事後の処理は、彼は自分ないし信頼のおける部下にしか任せなかった。
”いつの時代も、巻き込まれるのは民だ”
そう言ったのが事実かどうかはわからないが、彼の戦後処理の手腕は実に見事であった。
民は別に誰が上でも構わない。その日その日が無事であればいい。
帝国は近隣の国々の内から瓦解させ、国として機能しないようになって陥れた。
それが広まるころにはワスラーン帝国にひれ伏して、国土の一部となった後のことだった。
その中にリリスの故郷でもあるイスマルは含まれていなかった。
彼女の国は取り立てて産業があるわけではなく、自然と共にいきる国だった。
その国は一領主のような国土しかもっておらず、外敵から自分たちを守る術がなかったゆえに、帝国であるワスラーンへ庇護を求めた。
ワスラーンはこれを了承し、同盟の条件に王家の一人を帝国へ差し出すようにと条件を提示してきた。
ようはこの条件に当てはまったのが、かつて第二王女であったリリスであった。
リリスはただ王女としてその地位を甘受していたわけではない。
自然と共に生き、自然と共に死ぬイスマルの教え通り、彼女もまた自然と共に生きてきた。
自分はその生活を続けられると思っていたが、それが叶わないと現実を突き付けられたのが少女のころであった。
リリス14歳。
ワスラーン帝国へ入国し、皇帝の第10番目の側妃として召し上げられることとなった。
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