クイズを売買する男

紫 李鳥

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12話

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【14】②烏(部首がれんが)
・―・―・―・―・



「あ、ハイハイ!」

手を挙げたのは、常連の初老の男だった。

「おう。お馴染みさん、ありがとさん」

「たまにゃ、挑戦してみっかな。じゃ、Bコースで」

「OK牧場!じゃ、これでもいってみっか、よっか、いつか」

クイズ男はメモ用紙を捲って、適当なのをチョイスすると、別のメモ用紙と鉛筆を渡した。


【15】次の四字熟語の○に入る漢数字の合計を答えよ。
※すべての四字熟語に〈千〉が含まれている。



○載○遇

○変○化

○差○別

○騎当○

○日○秋

海○山○



「ゲッ!一番苦手な四字熟語に当たっちまった。その上、算数までおまけ付きだ」

「どうする、やめとくか?」

「今更ジロ~ごめんとジロ~言わないわよっよ~♪」

ハハハ……。へたくそな歌に周りが笑った。

「じゃ、いくよ?」

「はいな。いくよ、くる○」

「どっかで聞いたフレーズだな。……アッ!チューリップハットのおばあちゃんのセリフだ。俺より有名になっちまってら。ぼちぼちスタートいくよ」

「はいな。いくよ、く○よ」

「5・4・3・2・1、スタート」

クイズ男がスタートを告げた。

「うむ……。すべてに〈千〉があるってことは、最低でも6千以上だな。〈一〉とか〈二〉とか付いてるかも知れないから、一桁まで正確に当てるのは無理だ……」

「ペチャクチャ喋ってると、時間が来ちまうよ」

「えーい。どうせ考えても分からんから、勘でいくか」

「勘も実力のうちだ」

「うむ……何にするかな。生年月日、電話番号、名前の語呂合わせ……」

「残り、20秒!」

「よし!じゃ、俺の名前が船尾だから……」

「残り10秒。9・8・7・6・5」

「ふなおおっさんで、○○○○○だ!」

「!……ありかよ?当たっちまった」

「エーッ!……マジで?」

まさか当たるとは思わなかったのか、正解した当人が目を丸くしていた。

「山勘、空き缶、第六感で、当てられちまった――」

「やったー!ツナ缶にせんでよかった」

アッハッハッハッ!周りが笑った。

「はいよ」

クイズ男が千円札を手渡した。

「サンキュー。マッ○でカプチーノしよう」

「カプチーノでも、アルパチー○でもしてくれ」

「じゃーにー」

船尾と名乗る男は手を振ると、鼻歌まじりでスキップしながら帰っていった。

「クイズマン、たまには愛嬌だ」

常連客の一人が慰めた。

「だな。……たまにゃ、こんな時もあるわな。さて、気分を変えてっと。次はいないかな?」

「あの、……いいですか?」

手を挙げたのは、OL風の30代の美人だった。

「おう、別嬪さん、いらっしゃい」

「売りですが」

「売り、大歓迎でっせ。“瓜売りが瓜売りに来て瓜売り残し売り売り帰る瓜売りの声”ってね。で、どんなクイズかな?」

「なぞなぞで」

女が紙切れを手渡した。

「なぞなぞ、大好きッス」
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