冴えていた男

紫 李鳥

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冴えていた男

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 万年平社員の冴えない男は、会社から帰ると、いつものようにコンビニ弁当を食べながらテレビを観ていた。

「えー、この番組は視聴者参加型のクイズ番組です。ゲストの皆さんと一緒にクイズに答えていただき、全10問正解すると、抽選で10名様にプレゼントが当たります。どんなプレゼントかは、届いてからのお楽しみということで。さあ、リモコンのdボタンで参加してください。クイズに解答して、素敵なプレゼントをゲットしよう!第1問はコマーシャルのあと」

 おう、視聴者も参加できるのか。やってみるか。

 クイズには自信があった男は割り箸を置くと、リモコンを手にした。


 常識クイズが多く、9問目までは難なくクリアした。ところが、

「さて、最後の問題です。“いわく付き”のいわくは、次のどれ?」

 【曰く 日く 臼く 白く】

 違いが分からない問題が出た。目を細めてみたが、曰くと日くがハッキリしなかった。

 エーッ!見えない。どっちだよっ?

 男は焦った。老眼が始まっていたことを忘れていたのだ。

 ……そう言えば、先日、Tシャツを買いに行った時、10000円の値札にビックリしたことがあった。店員に確認したら、「1000円ですが」と言って蔑視された。ああ……老眼鏡を買っておくべきだった。しょうがない、運を天に任せるか。

 ポチッ。

 男は勘でボタンを押した。


 その後、仕事にも支障をきたすようになり、結局、老眼鏡を買ったが、メガネをしても同僚にさえ気づかれなかった。

 ……そんなに影が薄いのかなぁ、俺。

 男は、冴えない自分に落胆した。それからも何の変哲もない、いつもの日常が続いた。それは、賞品のことなど忘れていた頃だった。1通の封書が郵便受けにあった。差出人を見ると、あのクイズ番組からだった。

 エーッ!全問正解の上に、賞品まで当たったのかな?

 男は興奮しながら開封した。そこには、温泉宿泊ギフト券が入っていた。

 ヤッターッ!

 男は小躍りして喜んだ。

 彼女一人いない哀れな男に同情して、優しい神様がプレゼントしてくれたのかな?もしかして、旅先で素敵な出会いがあるかも……。


 そんな冴えない男だが、勘だけは冴えていた。





   終
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