仮想家族 もりもり村

紫 李鳥

文字の大きさ
1 / 1

仮想家族 もりもり村

しおりを挟む
 


 あるところに、人間と動物が共に暮らす、“もりもり村”という、自然が豊かな小さな村がありました。

 森や里には四季折々の草花が咲き乱れ、それはそれは美しい村です。

 そんな、もりもり村のお話です。

 その森の番人は、おせんという女の人です。

 お仙さんは毎日毎日夜なべをして、息子のちゃんちゃんこを縫っていました。

「早く帰ってこぉ……」

 お仙さんは独り言を呟きながら、息子の帰る日を今か今かと待ちわびていました。



 やがて雪も解け、春がやって来ました。

 耳を澄ますと、足音が……。ここで、“春の足音が”と繋げたいとこですが、予想外なのです。


 ブッシャブッシャブッシャブッシャ……

 変な足音です。

 ガタガタッ

 お仙さんが恐る恐る戸を開けると、そこにいたのは、

「お~、息子や」

 小さなクマでした。お仙さんは子熊を抱きしめました。

「……おっかちゃん、て呼んでもいい?」

「ああ、いいとも。笑ってもいいとも」

「……ハハハハ」

「息子、息子。さあさあ、お入り。抱っこしてあげよう」

 お仙さんは子熊を抱っこすると、家に入りました。

 囲炉裏の鍋からは、湯気が立ち上っています。

「腹が減ってるじゃろ? おまえの好きな鮭が入った鍋じゃ。うまいぞ~」

「うん、いただきま~す」

 子熊は、うまそうに食べました。

「ムシャムシャ……ん、おいし~」

「そうかいそうかい、よかったよかった」

 お仙さんは嬉しくて、目頭を熱くしました。



 お仙さんは、心を込めて縫った青いちゃんちゃんこを子熊に着せてやりました。

「暖ったかい」

「そうかいそうかい、よかったよかった。よく似合うよ。今日からおまえの名前は熊太郎だ。いいかい?」

「うん、いい」

「おまえの本当のおっかちゃんは、……目が覚めんかった。……ごめんよ、助けてやれんで」

「おっかちゃんのせいじゃないよ。ホントのおっかちゃんが死んだのは、……鉄砲で撃たれたせいだよ。ボク、知ってるもん」

「……知ってたのかい。わしとおまえとは見た目は違うが、おんなじ哺乳類だ。家族だと思っておくれ」

「……おっかちゃん」 

「熊太郎……」

 お仙さんと熊太郎は、飽きることなく語らいました。〔見た目の違いと哺乳類について〕



 翌朝、熊太郎が森へ行くと、たくさんの友達が温かく迎えてくれました。

 ウサギにサルにキツネにリス。

「クマく~ん、おかえり~」 

 みんなが大歓迎です。

「うん。ただいま~」

 みんなは輪になって、青いちゃんちゃんこを着た熊太郎を囲みました。



♪輪になって遊ぼ~
 ぴょんぴょん
 きぃーきぃー
 コンコン
 スールスル

 ねぇ、ねぇ、ぼくも仲間に入れて~

 小鳥のぴーぴも仲間入り~


 輪になって遊ぼ~
 ぴょんぴょん
 きぃーきぃー
 コンコン
 スールスル
 ぴーぴ

 輪になって遊ぼ~
 みんなみんな~
 ともだち~



「みんな~、おやつの時間ですよ~」

 お仙さんが、バスケットを提げてやって来ました。

「わ~い、わ~い」

 みんな、大喜びです。

「は~い、キャラメルですよ。“おせんにキャラメル”な~んちゃって」

「…………」

 お仙さんのおやじギャグは、みんなには通じなかったようです。

 見た目の違いとジェネレーションギャップを痛感しながらも、お仙さんは、みんなが仲良く、元気でいてくれることが何よりも嬉しかったのです。

「クチャクチャ……おいし~」

 みんな、笑顔です。

 お仙さんは幸せだと思いました。

 実の母親を亡くした熊太郎が、私のことを“おっかちゃん”と呼んでくれたことが、……何よりも一番。

 どうか、人間と動物が共に暮らせますように……





 そんな願いを込めた、“もりもり村”のお話でした。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ほっぺの赤は夕日のいろ

紫 李鳥
児童書・童話
  さやかは今日も海に来ました。 夕日に染まる海が好きでした。

ゆまちゃんとヤン丸の12ヶ月

万揮/マキちん
絵本
まん丸な子犬のヤン丸とゆまちゃんという女の子の一年間の物語です。

ふしぎなかばん

こぐまじゅんこ
児童書・童話
おかあさんがぬってくれたかばん。 あんずちゃんのおきにいりです。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

雪の降る山荘で

主道 学
児童書・童話
正体は秘密です。 表紙画像はフリー素材をお借りしました。 ぱくたそ様。素敵な表紙をありがとうございました。

パンティージャムジャムおじさん

KOU/Vami
児童書・童話
夜の街に、歌いながら歩く奇妙なおじさんが現れる。 口癖は「パラダイス~☆♪♡」――名乗る名は「パンティージャムジャムおじさん」。 子供たちは笑いながら彼の後についていき、歌を真似し、踊り、列は少しずつ長くなる。 そして翌朝、街は初めて気づく。昨夜の歌が、ただの遊びではなかったことに。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

処理中です...