鳩の縛め〜森の中から家に帰れという課題を与えられて彷徨っていたけど、可愛い男の子を拾ったのでおねしょたハッピーライフを送りたい~

ベンゼン環P

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第三章 口舌り

第三十七話 招集 37 3-11-3/3 114

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「それでも私は鳩の縛めを犯します。キリと会うために。約束を果たすために」
「約束って?」
「うん。立派な鳩になって、素敵な鴦になるんだって」
 つい先日、人の鴦になったばかりのサイへの返答。気持ちは分かるでしょうと片目をつぶって見せた。

 「皆には鳩の縛めを犯す危険性を考えてもらいたいのです。キリに会うことがそんなに危険なことなのかって」
 ふうと息をつく。最低限の経緯を話すことは出来たはずだ。
「七班の縛めにおいて、班の全員が責任を負うことが条件とされています。慎重になるべきです。聞きたいことがあれば聞いてください」
 ここから先は質疑応答の時間だ。
 ユミは対面する鳩達をゆっくりと見渡した。
 
「具体的に何をしたいんだ? キリに会って」
 サイが先陣を切る。
「えっと、その……」
 やりたいことはたくさんある。
「ずっと好きだったよって伝えたい」
「ソラさんの鴛鴦文に書いたんじゃないのか?」
 ギンが茶化すように口を挟んでくる。
「会ったら我慢しないんだったよな? 一体どんなことするつもり?」
「う、うるさい!」
 叱責しては見せたものの、具体的に考えておかなければならないのは事実である。
 でなければ、本当に我慢できなくなってしまう。

「ユミ、大丈夫だ。言わなくてもいい。鴛とやりたいことなんて決まってる。なあ、テコ? 昨晩は――」
「や、止めてよサイ! みんなの前で……」
 悪戯を含んだ笑みをサイが向けると、テコは顔を真っ赤にして見せた。
 
「なっ、テコに先を越されただと……」
「ガハハハッ。まあいいじゃねぇかギン。清い付き合いってことで」
 ギンをなだめるトキは冗談めかした調子だが、すぐに真剣な表情に切り替えユミを見据える。

「ユミ、分かってるな? クイとヤミの例があるんだ」
「はい……。承知してるつもりです」
 6年前キリと過ごし、腹に子が芽生えたと勘違いした際にはかつてない高揚感がこみ上げた。
 しかし考えてみれば、明かすことのできない鴛の子を抱え鳩の職務に従事するなど出来ようはずもない。
 
 鳩の縛めを犯す危険性。それが持つ2つ意味合いについて分けて考えなくてはならない。
 1つは縛めを犯したことが露呈するという危険性であり、もう1つは縛めを犯した結果、イイバの民が傷つけあう機会を生み出すという懸念だ。
 キリと子を成すことは少なくとも前者に該当する。村を渡り歩いたことを示す動かぬ証拠となってしまう。
 そして後者についても明らかに、ユミは関与しようとしているのだ。
 
「ごめん。もう1つやらなくちゃいけないことがあるの。ナガレに行きたい。ソラの父親に、ソラの言葉を伝えるために」
 その場の空気が一瞬で凍り付く。
「ナガレ……、だと?」
「はい、トキ教官はクイさんからある程度お話を聞いているのでしょうか」
「ああ、お前が孵卵の時に立ち入ったことは把握している」
 トキの表情が険しくなっていく。
 
「そこにソラ、私の友人で、ギンの……、鴦になる人の父親がいるのです」
「そうです。オレもちゃんとけじめをつけたいと思ってます。……殴られる覚悟で」
 トキの顔色を伺いながらギンも口を開いた。
 
「それにミズの父親もいます。彼女に代わって、ミズとサラさんの思いを届けないと……。これも、立派な鳩の条件だと思っています」
「そうだな。ミズのことが関わるとなっちゃ私も放っておけないな。もちろんテコにとってもな。私らの義姉さんになるかもしれないんだ」
「ん? ねーちゃん? ミズっておれと同い年じゃなかったっけ?」
「いずれ分かる」
 サイはテコの肩に手を置き、力強く頷いた。

「ユミ」
「はい」
 トキだけは依然として真剣な様子だ。
「ソラとギンのため、ミズとサイとテコのため。誰かの思いを繋ぐ鳩の務めを果たそうとしているのは分かった」
「ありがとうございます」
「だが、それはお前のためになるのか?」
「うっ……」
 突然の問いかけにたじろぐ。
「私のためにならないとダメですか?」
「当たり前だ。七班の縛めは全員が責任を負うことが条件だ。他人のための行動というのは、殊勝な心がけのようで、自身の責任から逃れようと言う意識が働いている。お前自身が自らのために責任を負う覚悟がなければ認められん」
 トキの鋭い眼光がユミに刺さる。
 
「皆のためになることが、私のためになるから……」
「詭弁だな」
 呆気なく一蹴されてしまう。
「お前のためになる理由。何かないのか?」
 
 実際のところ、ユミはその答えに辿り着いていた。
 ユミが気づきつつある真実。ユミがナガレに行く意義。必要なのはユミが認めることだけだった。

「はい……。私のために、なる理由は……、確実に、あります」
 歯を食いしばるように、苦々しく呟く。
「歯切れが悪いな。だが、その言葉に嘘は無いんだろうとは思った」
「そうです。決行の日までには、ちゃんと私の中で受け入れ、ますから……」
 トキとユミの間に沈黙が流れる。
 が、やがてトキは膝をぽんと手で打ち、立ち上がる。
「ガハハハッ! いいだろう。行って来い。ラシノとナガレに。お前らもいいな!」
 雛達――トキにとってはいつまでも雛だった――に向かって呼びかける。
 
「おう!」
「もちろんだ!」
「しっかりな、ねーちゃん!」
 
「皆、ありがとう……」
 一斉に向けられた笑顔が心強い。
 感謝の言葉と共に、決心が固まっていくのをユミは感じていた。
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