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第四章 巣立ち
第五十二話 歪曲 52 4-13-4/7 168
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「へ、へへ……。お前ら、もう限界かぁ……?」
走りながら首だけを後方に捻り強がって見せるが、さすがに息が切れてきた。何より腹の虫が悲鳴を上げている。
振り向き様にサイを追う烏達の人数を数える。残りは3名。
いっそ真正面からの殴り合いで決着を付けてしまうか。今が頃合いと言えるかもしれない。
「サイ! てめぇあん時サマしやがっただろうが! 妙な賽子持ち込みやがって!」
背後の烏の内の1人が、怒声を飛ばしてくる。
「あぁ……?」
聞き捨てならない言葉にサイはようやく足を止める。そして左足を軸にしてくるりと振り返ってみせた。
先ほど声を荒げたであろう男が、サイを指差し鋭く睨んでくる。
「あ、お前……、私を刺そうとしてきた奴だな?」
「そうだ! 賭場の胴元にお前の不正を訴えたがまるで取り合ってもらえなかった。腹いせに刺そうとして何が悪い!」
男は憎々し気に唇を噛む。
「いいか? イカサマってのはその場を取り押さえないと成立しないんだ。後から文句言われても知らん。胴元にはばれないようにやってたしな」
「お前ほんとにサマしてやがったのか!?」
「……え?」
どうやら鎌をかけられてらしい。
勝負事において駆け引きは重要だが、思わぬ形で不覚を取ったと屈辱感が芽生えだす。
「ふん。なんでお前がここにいるのかは分からんが、てめえの悪運も今日限りのようだな」
男は懐から石包丁を取り出す。
「ここでは人を殺そうが犯そうが――」
「うるせぇ!」
烏のしたり顔に渾身の拳を叩き込む。
男はあっけなく膝から崩れ落ちた。
「喧嘩を売る相手を選べってんだ、バカが! そんなんだからカモにされんだぞ!」
尻もちを付きつつも、まだ睨んでくる男の顔面に蹴りを入れる。それがとどめとなり、男は泡を吹き失神した。
「あと二人か……」
首を固定し瞳だけ左右に動かすと、残る烏がサイを挟む位置に佇んでいるのが分かった。
サイは後方へと飛び、両者から距離をとる。
「どうしたやんのか? 私を倒した報酬はでかいぞぅ?」
挑発するとともに、サイの中で悪戯心が芽生えだす。
いつぞや社会見学という名目で、ウラヤのマイハに立ち寄った折に見た、百舌鳥の立ち振る舞いを思い出す。
サイは左手で自身の襟を掴んで胸元を開き、谷間まで露になった双丘を右腕で下から押し上げる。そして前のめりに腰を折った。
付け焼刃であまりにも安っぽい、魅惑の構えである。
しかし、それを見た2人の烏はごくりと喉を鳴らす。
「なーんてなぁ!」
まずは右側に立つ男を狙う。
大股で一気に距離を詰めると、その鳩尾に向かって真っすぐに右の拳を突き出した。
「ぐっ……」
男はうめくと、頭をがくっと前へ倒す。
サイはその首を右脇に抱え、左手を烏の胸の下へ差し込んだ。
「どりゃぁあ!!」
サイは掛け声とともに男の体を持ち上げる。そしてそのまま後ろへと倒れこんだ。
男の頭と背が地に叩きつけられる。一瞬苦悶の表情を浮かべたかと思うと、そのまま動かなくなった。
一方のサイも、背中に強烈な痛みを感じていた。
「いてててててて……」
地に打ち付けた個所をさすりながらゆっくりと立ち上がる。
「お前バカだろ……」
最後に残された烏が呆れたように呟いた。
「すまねぇな。ぴちぴちの体が傷物になっちまった」
「ふん、構わん」
「こっちが構うんだよダボがぁあああ!!!」
烏もバカだったようだ。サイの飛び膝蹴りが股間を襲う。
視界が真っ白になったのも束の間、すぐに暗転して意識を失った。
「全く、たわいもない野郎どもだ」
その場に転がる3つの体を見下ろし、まだ気持ちの悪い感触が残る右膝を手で払った。
こうしてサイが3人を倒すだけで済んだのも、後方からケンが援護してくれていたためだ。
即ち、残りの10人程の男達をケンが相手したことを意味する。
もし彼らを余すことなく蹴散らしたのならば、ケンがサイに追いついてくると考えるのが自然だ。
「ケンはどこだ?」
額に手をかざし、辺りをきょろきょろと見渡した。しかし、視認できる範囲内には居ないようである。
胸に嫌な予感がよぎる。
「……無事でいてくれよ。あんたにゃまだやってもらわなきゃならないことがあるんだから」
サイは踵を返し、烏達に追われた道のりを走り抜けていく。
走りながら首だけを後方に捻り強がって見せるが、さすがに息が切れてきた。何より腹の虫が悲鳴を上げている。
振り向き様にサイを追う烏達の人数を数える。残りは3名。
いっそ真正面からの殴り合いで決着を付けてしまうか。今が頃合いと言えるかもしれない。
「サイ! てめぇあん時サマしやがっただろうが! 妙な賽子持ち込みやがって!」
背後の烏の内の1人が、怒声を飛ばしてくる。
「あぁ……?」
聞き捨てならない言葉にサイはようやく足を止める。そして左足を軸にしてくるりと振り返ってみせた。
先ほど声を荒げたであろう男が、サイを指差し鋭く睨んでくる。
「あ、お前……、私を刺そうとしてきた奴だな?」
「そうだ! 賭場の胴元にお前の不正を訴えたがまるで取り合ってもらえなかった。腹いせに刺そうとして何が悪い!」
男は憎々し気に唇を噛む。
「いいか? イカサマってのはその場を取り押さえないと成立しないんだ。後から文句言われても知らん。胴元にはばれないようにやってたしな」
「お前ほんとにサマしてやがったのか!?」
「……え?」
どうやら鎌をかけられてらしい。
勝負事において駆け引きは重要だが、思わぬ形で不覚を取ったと屈辱感が芽生えだす。
「ふん。なんでお前がここにいるのかは分からんが、てめえの悪運も今日限りのようだな」
男は懐から石包丁を取り出す。
「ここでは人を殺そうが犯そうが――」
「うるせぇ!」
烏のしたり顔に渾身の拳を叩き込む。
男はあっけなく膝から崩れ落ちた。
「喧嘩を売る相手を選べってんだ、バカが! そんなんだからカモにされんだぞ!」
尻もちを付きつつも、まだ睨んでくる男の顔面に蹴りを入れる。それがとどめとなり、男は泡を吹き失神した。
「あと二人か……」
首を固定し瞳だけ左右に動かすと、残る烏がサイを挟む位置に佇んでいるのが分かった。
サイは後方へと飛び、両者から距離をとる。
「どうしたやんのか? 私を倒した報酬はでかいぞぅ?」
挑発するとともに、サイの中で悪戯心が芽生えだす。
いつぞや社会見学という名目で、ウラヤのマイハに立ち寄った折に見た、百舌鳥の立ち振る舞いを思い出す。
サイは左手で自身の襟を掴んで胸元を開き、谷間まで露になった双丘を右腕で下から押し上げる。そして前のめりに腰を折った。
付け焼刃であまりにも安っぽい、魅惑の構えである。
しかし、それを見た2人の烏はごくりと喉を鳴らす。
「なーんてなぁ!」
まずは右側に立つ男を狙う。
大股で一気に距離を詰めると、その鳩尾に向かって真っすぐに右の拳を突き出した。
「ぐっ……」
男はうめくと、頭をがくっと前へ倒す。
サイはその首を右脇に抱え、左手を烏の胸の下へ差し込んだ。
「どりゃぁあ!!」
サイは掛け声とともに男の体を持ち上げる。そしてそのまま後ろへと倒れこんだ。
男の頭と背が地に叩きつけられる。一瞬苦悶の表情を浮かべたかと思うと、そのまま動かなくなった。
一方のサイも、背中に強烈な痛みを感じていた。
「いてててててて……」
地に打ち付けた個所をさすりながらゆっくりと立ち上がる。
「お前バカだろ……」
最後に残された烏が呆れたように呟いた。
「すまねぇな。ぴちぴちの体が傷物になっちまった」
「ふん、構わん」
「こっちが構うんだよダボがぁあああ!!!」
烏もバカだったようだ。サイの飛び膝蹴りが股間を襲う。
視界が真っ白になったのも束の間、すぐに暗転して意識を失った。
「全く、たわいもない野郎どもだ」
その場に転がる3つの体を見下ろし、まだ気持ちの悪い感触が残る右膝を手で払った。
こうしてサイが3人を倒すだけで済んだのも、後方からケンが援護してくれていたためだ。
即ち、残りの10人程の男達をケンが相手したことを意味する。
もし彼らを余すことなく蹴散らしたのならば、ケンがサイに追いついてくると考えるのが自然だ。
「ケンはどこだ?」
額に手をかざし、辺りをきょろきょろと見渡した。しかし、視認できる範囲内には居ないようである。
胸に嫌な予感がよぎる。
「……無事でいてくれよ。あんたにゃまだやってもらわなきゃならないことがあるんだから」
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