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2-4 沈黙は何よりも雄弁で
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夜の帳が降りると、リラはいつものように店先にランプを掲げた。
小さな炎が揺れて、暗い通りにやわらかな輪を描く。
エリアスは隣に立ち、その灯りを見つめていた。
「……やっぱり、この光が好きだ」
呟く声は、どこか安堵に満ちていた。
「変わらない光ですよ」
リラがそう答えると、エリアスは首を横に振った。
「いや、違う。君と一緒に見るからこそ、変わって見えるんだ」
リラの胸が温かく震えた。
言葉を返そうとしたが、喉の奥で声がほどけてしまう。
風がひとすじ吹き、炎が揺らぐ。
リラが両手で覆おうとすると、エリアスも自然に反対側から手を添えた。
指先が触れ合い、ふたりの影がひとつに重なる。
「……リラ」
彼の低い声に、リラは顔を上げる。
灯火に映る瞳が、自分をまっすぐに見ていた。
「ここにいると、もう旅立ちを急がなくてもいいと思える」
その言葉に、リラの目がわずかに潤む。
「私も……あなたがいてくれると、変わらない日々がいっそう愛しくなるんです」
ふたりの言葉は夜に溶け、炎に溶け、静かに重なっていった。
はっきりと恋だとはまだ言わない。
けれど、その沈黙は何よりも雄弁で、確かな想いを灯していた。
◇
炎を覆っていた手をそっと離すと、ふたりの間にまた静けさが落ちた。
しかしその沈黙は重さではなく、やわらかな余白となって広がっていく。
リラは胸の奥で、自分の鼓動が少し早いことに気づいた。
けれど、不思議と落ち着いてもいた。
隣にいる青年の気配が、風よりも確かにそこにあるから。
エリアスは言葉を探すように唇を開きかけ、そして閉じた。
彼もまた、沈黙を選んだのだろう。
その沈黙がふたりを隔てるのではなく、ひとつの温もりで包んでいた。
小さな羽虫が光に惹かれて舞い、炎の周りをかすかに揺らす。
リラはその軌跡を追いながら、ふと心の中で思う。
──言葉にしなくても伝わる瞬間がある。
それは、旅のどんな景色よりも、日常のどんな繰り返しよりも、確かなものかもしれない。
「……きれいですね」
ようやくリラが絞り出した言葉は、灯火でも星でもなく、目の前にいる彼へと向けられていた。
エリアスは短くうなずき、静かに笑んだ。
その笑みを見た瞬間、リラはもう言葉はいらないと感じた。
夜は深まり、沈黙の中でふたりの想いは静かに寄り添い続けていた。
小さな炎が揺れて、暗い通りにやわらかな輪を描く。
エリアスは隣に立ち、その灯りを見つめていた。
「……やっぱり、この光が好きだ」
呟く声は、どこか安堵に満ちていた。
「変わらない光ですよ」
リラがそう答えると、エリアスは首を横に振った。
「いや、違う。君と一緒に見るからこそ、変わって見えるんだ」
リラの胸が温かく震えた。
言葉を返そうとしたが、喉の奥で声がほどけてしまう。
風がひとすじ吹き、炎が揺らぐ。
リラが両手で覆おうとすると、エリアスも自然に反対側から手を添えた。
指先が触れ合い、ふたりの影がひとつに重なる。
「……リラ」
彼の低い声に、リラは顔を上げる。
灯火に映る瞳が、自分をまっすぐに見ていた。
「ここにいると、もう旅立ちを急がなくてもいいと思える」
その言葉に、リラの目がわずかに潤む。
「私も……あなたがいてくれると、変わらない日々がいっそう愛しくなるんです」
ふたりの言葉は夜に溶け、炎に溶け、静かに重なっていった。
はっきりと恋だとはまだ言わない。
けれど、その沈黙は何よりも雄弁で、確かな想いを灯していた。
◇
炎を覆っていた手をそっと離すと、ふたりの間にまた静けさが落ちた。
しかしその沈黙は重さではなく、やわらかな余白となって広がっていく。
リラは胸の奥で、自分の鼓動が少し早いことに気づいた。
けれど、不思議と落ち着いてもいた。
隣にいる青年の気配が、風よりも確かにそこにあるから。
エリアスは言葉を探すように唇を開きかけ、そして閉じた。
彼もまた、沈黙を選んだのだろう。
その沈黙がふたりを隔てるのではなく、ひとつの温もりで包んでいた。
小さな羽虫が光に惹かれて舞い、炎の周りをかすかに揺らす。
リラはその軌跡を追いながら、ふと心の中で思う。
──言葉にしなくても伝わる瞬間がある。
それは、旅のどんな景色よりも、日常のどんな繰り返しよりも、確かなものかもしれない。
「……きれいですね」
ようやくリラが絞り出した言葉は、灯火でも星でもなく、目の前にいる彼へと向けられていた。
エリアスは短くうなずき、静かに笑んだ。
その笑みを見た瞬間、リラはもう言葉はいらないと感じた。
夜は深まり、沈黙の中でふたりの想いは静かに寄り添い続けていた。
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