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舞踏会はお洒落比べ ― おてんば令嬢編
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カトリーナは由緒ある貴族の娘だったが、誰もが知る「おてんば令嬢」だった。
馬に飛び乗り、剣を振るい、泥だらけで帰ってきては母に叱られる。
「あなたもそろそろ舞踏会に出る年頃なのよ。きちんとした淑女らしさを見せなさい」
そう言われても、カトリーナには自信がなかった。
ドレスに身を包む自分など、想像もできない。
舞踏会の夜。衣装部屋の片隅でため息をつく彼女の前に、ひらりと光る羽音。
「ふふ、君に似合わない服なんてないさ」
いたずら好きの妖精が現れ、一振りの魔法をかける。
次の瞬間、鏡の中に立っていたのは──薔薇の刺繍を纏った淑女。
歩き方まで優雅で、まるで別人のようだった。
「こ、これが私……?」
カトリーナは一歩踏み出す。
会場はざわめき、すぐにひとりの王子を呼び寄せた。
「踊っていただけますか?」
音楽に合わせて舞ううちに、胸は高鳴り、頬は熱を帯びる。
けれど妖精が肩に乗って囁いた。
「鐘が鳴れば、すぐに元通りだよ」
──そして、十二の鐘が響いた。
裾を踏みそうになった瞬間、豪奢な魔法はほどけ、カトリーナはいつものおてんば姿へ。
どよめく会場。
彼女は顔を赤くして叫んだ。
「ごめんなさい! わたし、本当はこんなドレス似合わないの!」
逃げ出そうとする手を、王子が掴む。
「似合わない? 違う」
真剣な瞳が、彼女を見つめていた。
「ドレス姿も美しかった。けれど……僕は、剣を振るう君の凛々しさや、馬に乗るときの笑顔に心を奪われたんだ。
君の“普段の姿”こそ、僕は一番好きだ」
カトリーナは呆気にとられた。
次の瞬間、胸の奥がじんわり温かくなり、照れ隠しの笑みがこぼれる。
妖精は柱の陰でくすくすと笑った。
「やっぱりね。本当の自分でいるときが、いちばんお洒落なんだ」
こうして──おてんば令嬢の舞踏会は、ひとつの恋の始まりとなった。
「いやあ、楽しかったなぁ」
舞踏会の片隅、妖精は葡萄酒の入ったグラスをつまみながらひとりごちる。
「カトリーナは“ドレスなんて似合わない”って顔してたけど、本当は胸の奥で憧れていたんだ。
だからちょっと背中を押してあげただけさ」
彼女の照れくさそうな笑顔を思い出すと、羽がふるふる震える。
「でも、王子があそこまで言うとは思わなかったな。
……ふふ、恋の魔法ってやつは、わたしの魔法より強力みたいだ」
庭園の薔薇が風に揺れた。
妖精は花びらをひとつ摘んで、ひらりと夜空に放る。
「次は誰にイタズラしてやろうかな?」
小さな笑い声が、舞踏会の余韻に溶けていった。
馬に飛び乗り、剣を振るい、泥だらけで帰ってきては母に叱られる。
「あなたもそろそろ舞踏会に出る年頃なのよ。きちんとした淑女らしさを見せなさい」
そう言われても、カトリーナには自信がなかった。
ドレスに身を包む自分など、想像もできない。
舞踏会の夜。衣装部屋の片隅でため息をつく彼女の前に、ひらりと光る羽音。
「ふふ、君に似合わない服なんてないさ」
いたずら好きの妖精が現れ、一振りの魔法をかける。
次の瞬間、鏡の中に立っていたのは──薔薇の刺繍を纏った淑女。
歩き方まで優雅で、まるで別人のようだった。
「こ、これが私……?」
カトリーナは一歩踏み出す。
会場はざわめき、すぐにひとりの王子を呼び寄せた。
「踊っていただけますか?」
音楽に合わせて舞ううちに、胸は高鳴り、頬は熱を帯びる。
けれど妖精が肩に乗って囁いた。
「鐘が鳴れば、すぐに元通りだよ」
──そして、十二の鐘が響いた。
裾を踏みそうになった瞬間、豪奢な魔法はほどけ、カトリーナはいつものおてんば姿へ。
どよめく会場。
彼女は顔を赤くして叫んだ。
「ごめんなさい! わたし、本当はこんなドレス似合わないの!」
逃げ出そうとする手を、王子が掴む。
「似合わない? 違う」
真剣な瞳が、彼女を見つめていた。
「ドレス姿も美しかった。けれど……僕は、剣を振るう君の凛々しさや、馬に乗るときの笑顔に心を奪われたんだ。
君の“普段の姿”こそ、僕は一番好きだ」
カトリーナは呆気にとられた。
次の瞬間、胸の奥がじんわり温かくなり、照れ隠しの笑みがこぼれる。
妖精は柱の陰でくすくすと笑った。
「やっぱりね。本当の自分でいるときが、いちばんお洒落なんだ」
こうして──おてんば令嬢の舞踏会は、ひとつの恋の始まりとなった。
「いやあ、楽しかったなぁ」
舞踏会の片隅、妖精は葡萄酒の入ったグラスをつまみながらひとりごちる。
「カトリーナは“ドレスなんて似合わない”って顔してたけど、本当は胸の奥で憧れていたんだ。
だからちょっと背中を押してあげただけさ」
彼女の照れくさそうな笑顔を思い出すと、羽がふるふる震える。
「でも、王子があそこまで言うとは思わなかったな。
……ふふ、恋の魔法ってやつは、わたしの魔法より強力みたいだ」
庭園の薔薇が風に揺れた。
妖精は花びらをひとつ摘んで、ひらりと夜空に放る。
「次は誰にイタズラしてやろうかな?」
小さな笑い声が、舞踏会の余韻に溶けていった。
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