『まあ!偶然ですわ!』 ―鈍感殿下と恋する令嬢―

だって、これも愛なの。

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第9章:本当の既成事実

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夕暮れの庭園。
噴水の水音が、静かな空気を刻んでいた。

クラリッサは胸の前で両手をぎゅっと握りしめていた。
「……でも、皆が言っていますの。わたくしが殿下のおそばにばかりいるから、迷惑ではないかと」

声は小さく、震えていた。
本当は「好きです」と言いたい。
でも、その一言がどうしても出てこない。

エドガーは静かに首を振った。

「迷惑ではない。むしろ……君がいない方が、俺は落ち着かない」

「え……?」

「偶然だろうが奇跡だろうが――理由はどうでもいい。
俺は、君が隣にいる時間を望んでいる」

クラリッサの瞳が大きく揺れた。

「……でも、わたくし……『気持ち』を言えませんの」

幼いころから刷り込まれてきた言葉が、胸の奥で彼女を縛る。
淑女は待つもの。
愛の言葉は、男性から。

けれどその瞬間、エドガーはまっすぐに告げた。

「ならば俺が言おう。クラリッサ――君が好きだ」

噴水の水音が一層高く響いた気がした。
クラリッサは思わず両手で口を覆い、涙が零れる。

「……ほんとうに?」
「本当だ。君が偶然を装ってまで俺のそばにいたこと、すべて気づいた。
そして……その必死さも、可愛らしさも、俺は嫌ではなかった」

クラリッサの頬を涙がつたう。
次の瞬間、彼女はようやく小さな声でこぼした。

「……偶然なんかじゃ、ありませんの」
「知っている」
「わたくし……ずっとエドガー様が
 好きでしたの」

その告白は、月明かりよりも柔らかく、花々よりも甘やかに響いた。

エドガーはそっと彼女の手をとり、静かに重ねる。

「ならば、これはもう“既成事実”だな」

「……!」

クラリッサは恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑った。
涙の粒を散らしながら。

そして二人を遠くから見ていた学生たちは、ひそひそと囁きあった。

「やっぱり婚約者だったのね……」
「偶然って、奇跡のことだったんだ」

夕暮れの庭園に、やわらかな笑い声が重なり、二人の影が寄り添って伸びていった。
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