『群青の瞳に灯る、愛の余白』知識しか信じなかった彼が、令嬢の微笑みに心を学ぶまで

だって、これも愛なの。

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エピローグ:本には載っていない愛

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 婚約解消の話は立ち消えとなり、季節はゆるやかに流れた。
 侯爵家の書庫には今日も紙の香りが漂っている。

 その机には二つのカップが並んでいた。
 片方はアシュレイの前に、もう片方はリリアナの前に。
 静かな午後、ふたりは本をめくりながら肩を並べていた。

「……ここに“愛とは神々の祝福”と書かれている」
 アシュレイが真面目な声で読み上げる。

「また難しく考えてるのね」
 リリアナは笑い、カップを口に運んだ。
「わたしは、もっと単純でいいと思うわ。――隣にいると安心する、とか」

 アシュレイは返事をせず、本を閉じた。
 そして小さく、けれど確かに彼女を見つめて言った。

「……ありがとう」

 リリアナは驚いたように瞬きをした。
 けれどすぐに頬を染めて、柔らかく微笑んだ。

 書庫の窓から差し込む光が二人を包む。
 本には書かれていない、けれど確かに存在する温もり。
 知識で満たされた彼の世界に、ようやく「人の心」という新しい頁が開かれていく。

 ――それは、未来へと続く物語の第一章にすぎなかった。
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