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第4章 すこしだけ、やきもち
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その日、ひなは学校でクラスメイトと一緒に調理実習をしていた。
出来上がったクッキーを机に並べると、友達が「美味しい!」と笑顔で頬張ってくれる。
みんなに褒められて、ひなもつい嬉しくなった。
「まだ余ってるから、よかったら食べてみて!」
帰り際、同じクラスの男子にも自然に渡してしまった。
――そのことを、後日うっかり厨房で口にしてしまったのだ。
「……へぇ」
ヒロトの手が一瞬止まる。フライパンの中で炒めていた具材が、じゅっと音を立てた。
「な、なに?」
「いや……そいつら、喜んだだろ」
「うん! 『意外と美味しい』って言われて」
「……ふーん」
口調は軽いけれど、目元がほんの少しだけ不機嫌そうに見える。
ひなは首をかしげて、小さな声で尋ねた。
「……ヒロトさんも、食べる?」
差し出されたラップ包みを受け取り、ひと口かじる。
ほんのり甘くて、まだ不揃いな焼き加減。
けれど、誰よりも真剣に作った痕跡が残っていて、胸に響く味だった。
「……俺にも最初に食わせろよ」
「え?」
「友達より先に、俺に持ってこいって言ってんの」
冗談みたいに笑いながらそう告げる。
でも、その声の奥にほんの少しの本気が混じっていることを、ひなは気づかなかった。
ヒロトは唇をゆるめ、軽く肩をすくめてみせる。
「……まあ、うまかったからいいけどな」
そう言いつつ、どこか安心したように目を細める。
ひなは「やっぱり優しい人だ」と思った。
けれど本当は――
「俺だけの特別であってほしい」という彼の気持ちが、そっと芽吹いていた。
出来上がったクッキーを机に並べると、友達が「美味しい!」と笑顔で頬張ってくれる。
みんなに褒められて、ひなもつい嬉しくなった。
「まだ余ってるから、よかったら食べてみて!」
帰り際、同じクラスの男子にも自然に渡してしまった。
――そのことを、後日うっかり厨房で口にしてしまったのだ。
「……へぇ」
ヒロトの手が一瞬止まる。フライパンの中で炒めていた具材が、じゅっと音を立てた。
「な、なに?」
「いや……そいつら、喜んだだろ」
「うん! 『意外と美味しい』って言われて」
「……ふーん」
口調は軽いけれど、目元がほんの少しだけ不機嫌そうに見える。
ひなは首をかしげて、小さな声で尋ねた。
「……ヒロトさんも、食べる?」
差し出されたラップ包みを受け取り、ひと口かじる。
ほんのり甘くて、まだ不揃いな焼き加減。
けれど、誰よりも真剣に作った痕跡が残っていて、胸に響く味だった。
「……俺にも最初に食わせろよ」
「え?」
「友達より先に、俺に持ってこいって言ってんの」
冗談みたいに笑いながらそう告げる。
でも、その声の奥にほんの少しの本気が混じっていることを、ひなは気づかなかった。
ヒロトは唇をゆるめ、軽く肩をすくめてみせる。
「……まあ、うまかったからいいけどな」
そう言いつつ、どこか安心したように目を細める。
ひなは「やっぱり優しい人だ」と思った。
けれど本当は――
「俺だけの特別であってほしい」という彼の気持ちが、そっと芽吹いていた。
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