『君にだけ、“おいしい”をあげたい』 ─ 初恋はキッチンの隣から

だって、これも愛なの。

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番外編 ヒロト視点「花のように笑う」

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 料理をしているときだけは、余計なことを考えずに済む。
 火の音と包丁のリズムに耳を澄ませていると、心の奥の寂しさが少しだけ薄れる気がする。

 でも――あの日。川辺で、見られていたとは思わなかった。
 しかも翌日、あの子は真っ直ぐに俺を見上げて言った。

『昨日のバーベキューのレシピが知りたい!』

 あんなふうに求められるのは初めてだった。
 大げさじゃなく、本当に心の奥がじんわり温かくなった。
 “繋がっていいんだ”って、無防備に思ってしまった。

 それから毎日のように店に顔を出す彼女。
 ぎこちない包丁さばき、失敗しても必死にごまかす笑顔。
 そして――ときどき見せる、真剣で凛とした横顔。

 気づけば、その全部が目に焼きついて離れなくなっていた。

 俺は寂しがり屋だ。
 でも、人にそれを悟られるのは格好悪くて、ずっと隠してきた。
 “料理なら、誰も傷つけずに自分を表現できる”――そう思ってやってきた。

 なのに、彼女は平気で心に踏み込んでくる。
 『美味しい!』と笑う顔が、胸の奥をやさしく撫でてくる。
 『ヒロトさんの料理、大好き』って言葉が、ずっと耳から離れない。

 ……ほんとは、怖いんだ。
 この笑顔がいつか誰かに奪われてしまうんじゃないかって。

 だから冗談みたいに言ってしまった。
 「俺にだけ最初に食わせろよ」
 本気を隠すために、わざと軽く言った。
 でもあのときの俺は、本当に――彼女の特別でありたかった。

 フェスの夜、やっと言えた。
 『俺は……お前にだけはそばにいてほしい』って。

 震えた声を、彼女はまっすぐ受け止めてくれた。
 『一番は、ヒロトさんに食べてほしいの』
 そう笑ってくれた瞬間、心の奥の寂しさが少し溶けていくのを感じた。

 花のように笑うその顔を、ずっと隣で見ていたい。
 これからもきっと、不安になることはあるだろう。
 けれど、そのたびに料理を作ろう。
 彼女に食べてもらい、彼女に笑ってもらおう。

 ――それが、俺にとっての一番の“未来のレシピ”だから。
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