'寄宿学校シリーズ──5つの恋短編集

だって、これも愛なの。

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完璧な僕を乱すのは、君

第二章 「完璧な僕を乱す存在」

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 午後の鐘が鳴り響くころ。
 僕は大理石の回廊を歩いていた。
 鏡面のように磨かれた床に、自分の姿が映る。
 姿勢、歩幅、呼吸――どれも欠けるところがない。

 「オスカー!」

 突如、全力疾走で駆け寄ってくる影。
 その勢いで彼女――アンナは僕の腕を掴んだ。

 「ちょっと手、貸して!」
 「な、何を――」

 言い終える前に、彼女は僕を引っ張って走り出す。
 裾が翻り、周囲の生徒たちが驚きの声をあげる。

 「やめろ! 僕の髪が乱れるだろう!」
 「細かいこと気にしない! ほら、早く!」

 乱れる? “細かいこと”?
 この僕の完璧な外見にとって、整った髪や姿勢がどれほど重要か、彼女は理解していないのか。

 辿り着いたのは屋上だった。
 「見てみろよ!」
 彼女が指差す先――眼下に広がる寄宿学校の庭園と湖。
 夕陽に照らされ、まるで宝石のように輝いていた。

 「すごいだろ? ここから見下ろす景色、最高なんだ」

 僕は言葉を失った。
 確かに、美しい。
 けれどそれ以上に――息を切らしながら笑う彼女の顔に、視線を奪われてしまう。

 「お前は……どうしてそんなに」
 「ん?」
 「どうしてそんなに、乱れているのに輝いて見えるんだ」

 自分でも信じられない言葉が口をついた。
 彼女はただ、にかっと笑った。
 「さあ? 生きてるからじゃない?」

 胸の奥で何かが大きく揺れる。
 完璧なはずの僕を、彼女は簡単に乱していく。
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