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俺を花にするとしたら。
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数日後。
午後の学園を抜け出すようにして、青年はまたあの路地を歩いていた。
「……退屈だからだ」
誰にともなく呟いて、まるで自分に言い聞かせるように。
ほんの偶然立ち寄ったはずの花屋へ、足が勝手に向かっていた。
扉を開けると、鈴の音が鳴る。
カウンターの奥には、また彼女がいた。
「いらっしゃ……あ」
気づいた顔がぱっと明るくなる。
その笑みが、思いのほかまぶしくて――青年は一瞬、視線を逸らした。
「また来てくださったんですね」
「……退屈しのぎだ」
言葉は素っ気なく。けれど、前よりも少しだけ早口だった。
少女はくすりと笑って、瓶を持ち上げる。
「今日は新しいお茶を調合してみたんです。よければ……」
「……くだらない遊びだろう」
「ええ。でも、誰かに飲んでもらえたら嬉しいんです」
差し出されたカップからは、やわらかな花の香りが立ちのぼる。
青年はしばし無言で見つめ、やがてためらいがちに受け取った。
ひと口、口に含む。
「……悪くない」
短い言葉とともに、心のどこかで退屈がほどける音がした。
その感覚に自分でも驚き、思わず口をつぐむ。
「よかった」
彼女の微笑みは、華やかな舞踏会でも見たことのない、素朴であたたかな光だった。
青年はカップを置きながら、無意識に問いをこぼす。
「……俺を花にするとしたら、何だと思う?」
「え?」
不意をつかれた少女が目を瞬く。
自分でもなぜそんなことを聞いたのか分からず、青年はわずかに耳を赤く染めていた。
午後の学園を抜け出すようにして、青年はまたあの路地を歩いていた。
「……退屈だからだ」
誰にともなく呟いて、まるで自分に言い聞かせるように。
ほんの偶然立ち寄ったはずの花屋へ、足が勝手に向かっていた。
扉を開けると、鈴の音が鳴る。
カウンターの奥には、また彼女がいた。
「いらっしゃ……あ」
気づいた顔がぱっと明るくなる。
その笑みが、思いのほかまぶしくて――青年は一瞬、視線を逸らした。
「また来てくださったんですね」
「……退屈しのぎだ」
言葉は素っ気なく。けれど、前よりも少しだけ早口だった。
少女はくすりと笑って、瓶を持ち上げる。
「今日は新しいお茶を調合してみたんです。よければ……」
「……くだらない遊びだろう」
「ええ。でも、誰かに飲んでもらえたら嬉しいんです」
差し出されたカップからは、やわらかな花の香りが立ちのぼる。
青年はしばし無言で見つめ、やがてためらいがちに受け取った。
ひと口、口に含む。
「……悪くない」
短い言葉とともに、心のどこかで退屈がほどける音がした。
その感覚に自分でも驚き、思わず口をつぐむ。
「よかった」
彼女の微笑みは、華やかな舞踏会でも見たことのない、素朴であたたかな光だった。
青年はカップを置きながら、無意識に問いをこぼす。
「……俺を花にするとしたら、何だと思う?」
「え?」
不意をつかれた少女が目を瞬く。
自分でもなぜそんなことを聞いたのか分からず、青年はわずかに耳を赤く染めていた。
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