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舞踏会の夜、紅の暴風 動く
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ケーキを優雅に味わっていたロゼリスは、ふと我に返った。
(いけませんわ! 呑気にケーキを食べている場合ではありませんわ!!
“愛の告白シーン”を見逃してしまいますわ!!)
学院の庭で誓いのキスを交わしたカップルは、永遠に結ばれる。
それは、舞踏会イベントのラストを飾る伝説。
(ルチア様とシルビア様……尊きラストスチルが始まってしまいますの!!)
ロゼリスはドレスの裾をたくし上げ、ケーキ皿を置く間もなく全力疾走した。
観客の間を抜け、階段を駆け下り、風を切って
(今夜も吹き荒れる、紅の暴風!!)
学院の庭に到着したロゼリスは、月明かりの木陰に潜む。
手にしていた植木を両手に持ち、完璧なカモフラージュを決めた。
「……よし、完璧な擬態ですわね」
木々の向こう、ベンチにはルチアとシルビアの姿。
静かに言葉を交わし、二人の間にやわらかな空気が流れる。
(ひゃぁ……! 聞こえますわ、尊き会話が……!
シルビア様が……ルチア様の手を取って……っ!)
ロゼリスは震える手で口を押さえる。
(か、可愛すぎますわルチア様!! そして殿下の眼差しが真剣すぎて……っ!)
やがて。
シルビアがルチアの手の甲に唇を寄せ、静かに愛を告げた。
ルチアが頬を赤らめ、微笑みを返す。
月光に照らされたその瞬間、二人の距離が縮まり、“永遠”を誓うキスが結ばれた。
「っっっ、き、き、きましたわぁぁぁぁぁぁ!!!」
ロゼリスの鼻先が真っ赤に染まり、勢いよくハンカチを構える。
「ダ、ダメですわっ!! 尊さが……溢れますわっ……!!」
鼻血寸前の彼女の背後から、呆れた声がした。
「……お前は何をしてるんだ。片手に木なんか持って。変態か?」
「し、失礼ですわアーロン殿下!!
淑女に向かって“変態”などと! 今は神聖な儀式の真っ最中ですのよ!」
木陰から顔を出し、真剣な瞳で言い返すロゼリス。
「儀式って……見守り方が狂ってんだよ、お前」
「静かにしてくださいまし! 尊き瞬間が台無しになりますわ!」
アーロンは呆れながらも、その横顔から目を離せなかった。
彼女の瞳は、まるで星のように輝いていた。
「……ずっと思ってたけどさ。お前、あの二人を見てる時が一番幸せそうだな」
「当たり前ですわ! あのお二人の尊さに勝てるものなど、何もありませんもの!」
胸を張って断言するロゼリス。
アーロンは小さく笑い、首を振った。
そのうち、ルチアとシルビアは手を取り合い、月下の庭を去っていった。
静寂が戻り、ロゼリスは満ち足りた息を吐く。
「……はぁ、今日も最高に尊かったですわ……」
ーが、隣で立つアーロンの表情が、どこか真剣だった。
「お前はさ……いつまでそんな風に、俺以外ばっかり見てるつもりだ?」
「……え?」
「俺がルチア様を誘った時、焦ってたよな。
本当は俺と踊りたかったからだろ? なぁ、ロゼリス。お前、俺のこと好きなんだろ?」
ロゼリスはぽかんとした顔で瞬きをする。
「だ、だから言いましたでしょう!?
ルチア様の隣はシルビア様のものですの! 私はただ、それを守っただけですわ!!
それに、殿下のことなんて……ちょこっとしか好きじゃありませんもの!!」
「ちょこっと、な?」
アーロンの目が細くなり、ほんの僅かに笑う。
「じゃあ、どうしたら俺を見てくれる?」
「そ、それは……ご自分でお考えくださいまし!」
その瞬間、アーロンは彼女の手を取り、ぐいと引き寄せた。
距離が近い。心臓が跳ねる。
ロゼリスの黄金の瞳が、大きく見開かれる。
「っ、ち、近すぎますわっ!」
アーロンは小さく笑い、彼女の頬に手を添えた。
そして――そっと額に、短いキスを落とす。
驚きで固まるロゼリス。
「……キスの意味、教えてやるよ。
今度は、お前の方から俺を見たくなるようにな」
「な、なななっ……なにをするんですの殿下ぁっ!!!」
顔を真っ赤にし、ロゼリスはその場を逃げ出した。
走り去る紅のドレスが、月光に揺れる。
残されたアーロンは小さく笑い、呟いた。
「……お前の俺への“ちょこっと”を、ちゃんと本物にしてやる」
その声は、秋の夜風に溶けていった。
(いけませんわ! 呑気にケーキを食べている場合ではありませんわ!!
“愛の告白シーン”を見逃してしまいますわ!!)
学院の庭で誓いのキスを交わしたカップルは、永遠に結ばれる。
それは、舞踏会イベントのラストを飾る伝説。
(ルチア様とシルビア様……尊きラストスチルが始まってしまいますの!!)
ロゼリスはドレスの裾をたくし上げ、ケーキ皿を置く間もなく全力疾走した。
観客の間を抜け、階段を駆け下り、風を切って
(今夜も吹き荒れる、紅の暴風!!)
学院の庭に到着したロゼリスは、月明かりの木陰に潜む。
手にしていた植木を両手に持ち、完璧なカモフラージュを決めた。
「……よし、完璧な擬態ですわね」
木々の向こう、ベンチにはルチアとシルビアの姿。
静かに言葉を交わし、二人の間にやわらかな空気が流れる。
(ひゃぁ……! 聞こえますわ、尊き会話が……!
シルビア様が……ルチア様の手を取って……っ!)
ロゼリスは震える手で口を押さえる。
(か、可愛すぎますわルチア様!! そして殿下の眼差しが真剣すぎて……っ!)
やがて。
シルビアがルチアの手の甲に唇を寄せ、静かに愛を告げた。
ルチアが頬を赤らめ、微笑みを返す。
月光に照らされたその瞬間、二人の距離が縮まり、“永遠”を誓うキスが結ばれた。
「っっっ、き、き、きましたわぁぁぁぁぁぁ!!!」
ロゼリスの鼻先が真っ赤に染まり、勢いよくハンカチを構える。
「ダ、ダメですわっ!! 尊さが……溢れますわっ……!!」
鼻血寸前の彼女の背後から、呆れた声がした。
「……お前は何をしてるんだ。片手に木なんか持って。変態か?」
「し、失礼ですわアーロン殿下!!
淑女に向かって“変態”などと! 今は神聖な儀式の真っ最中ですのよ!」
木陰から顔を出し、真剣な瞳で言い返すロゼリス。
「儀式って……見守り方が狂ってんだよ、お前」
「静かにしてくださいまし! 尊き瞬間が台無しになりますわ!」
アーロンは呆れながらも、その横顔から目を離せなかった。
彼女の瞳は、まるで星のように輝いていた。
「……ずっと思ってたけどさ。お前、あの二人を見てる時が一番幸せそうだな」
「当たり前ですわ! あのお二人の尊さに勝てるものなど、何もありませんもの!」
胸を張って断言するロゼリス。
アーロンは小さく笑い、首を振った。
そのうち、ルチアとシルビアは手を取り合い、月下の庭を去っていった。
静寂が戻り、ロゼリスは満ち足りた息を吐く。
「……はぁ、今日も最高に尊かったですわ……」
ーが、隣で立つアーロンの表情が、どこか真剣だった。
「お前はさ……いつまでそんな風に、俺以外ばっかり見てるつもりだ?」
「……え?」
「俺がルチア様を誘った時、焦ってたよな。
本当は俺と踊りたかったからだろ? なぁ、ロゼリス。お前、俺のこと好きなんだろ?」
ロゼリスはぽかんとした顔で瞬きをする。
「だ、だから言いましたでしょう!?
ルチア様の隣はシルビア様のものですの! 私はただ、それを守っただけですわ!!
それに、殿下のことなんて……ちょこっとしか好きじゃありませんもの!!」
「ちょこっと、な?」
アーロンの目が細くなり、ほんの僅かに笑う。
「じゃあ、どうしたら俺を見てくれる?」
「そ、それは……ご自分でお考えくださいまし!」
その瞬間、アーロンは彼女の手を取り、ぐいと引き寄せた。
距離が近い。心臓が跳ねる。
ロゼリスの黄金の瞳が、大きく見開かれる。
「っ、ち、近すぎますわっ!」
アーロンは小さく笑い、彼女の頬に手を添えた。
そして――そっと額に、短いキスを落とす。
驚きで固まるロゼリス。
「……キスの意味、教えてやるよ。
今度は、お前の方から俺を見たくなるようにな」
「な、なななっ……なにをするんですの殿下ぁっ!!!」
顔を真っ赤にし、ロゼリスはその場を逃げ出した。
走り去る紅のドレスが、月光に揺れる。
残されたアーロンは小さく笑い、呟いた。
「……お前の俺への“ちょこっと”を、ちゃんと本物にしてやる」
その声は、秋の夜風に溶けていった。
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