推しカプを愛でるために、悪役令嬢の私は壁姫になろうと思います!

明夏 向日葵

文字の大きさ
33 / 69

シルビア殿下、誕生祭イベント開幕!

しおりを挟む
アーバートン邸の夜。
窓の外では月が静かに輝き、ロゼリスの部屋にはペンを走らせる音だけが響いていた。

「さて……次なるリリネ嬢の反撃作戦は――っと。」
机の上に広げたノートには、びっしりと書き込まれたメモと矢印、そして赤ペンで囲まれた大きな文字。

『ケーキ崩壊事件』

「そう、次はこれですわ!」
ロゼリスは目を輝かせ、立ち上がった。

(ルチア様が三日三晩徹夜して作った、シルビア殿下のための“愛のケーキ”。
それをリリネ嬢がわざと転倒したフリをして、ぶち壊すなんて……!)

拳をぎゅっと握りしめ、鼻息が荒くなる。

「この誕生祭イベントは、私にとって最重要イベントですのよ!!!」

机の上のペンがガタガタ震えるほどの熱意。

(だって……このイベントで、シルビア様がルチア様に婚約指輪を渡すんですもの!!
婚約を申し込む伝説の“神シーン”!!)

頬を両手で押さえ、夢見るように天井を見上げるロゼリス。
「はぁぁ……尊いですわ……っ!! 鼻血、噴出ものですわ!!」

興奮で転げ回りながらも、すぐに真顔に戻る。
(ですが、ここでケーキが壊れてしまったら婚約イベントが延期になってしまう……!)
「絶対に阻止してみせますの!」

その決意を胸に、翌朝。

王都の中心――王宮の白い塔が見えてきた。
ロゼリスはリュックを抱えながら、アーロンの隣を歩く。

「それにしても……聞いてませんでしたわよ……」
「何がだ?」とアーロンが振り返る。

「アーロン殿下との不仲説が国王陛下の耳に届いたため、婚約者としての距離を縮めるようにというお達しですわ!」
「……ああ、それか。」アーロンが小さくため息をついた。

(まさか、その結果が“殿下の私室での一ヶ月同居”だなんて誰が想像しましたの!?)

ロゼリスは顔を真っ赤にしながら叫ぶように言った。
「予想外でしたわ!!!」

「俺だって驚いたさ。」
アーロンは苦笑いを浮かべながら、ロゼリスの肩に手を置く。
「でもまぁ、いい機会だろ? 一ヶ月も一緒にいれば、俺のことをもっと知れる。」
「そ、そんなこと言われても……! 準備のためだけですわ!」

(だって、アーロン殿下の部屋って……寝室も書斎も一緒なんですのよ!?
無理無理無理無理! 乙女的危機ですわ!!)

ロゼリスの脳内では、ありとあらゆる乙女ゲームイベント(※年齢制限なし)が高速再生されていた。

一方のアーロンはというと、
(……この状況、悪くないな)
と内心ニヤリと笑っていた。

***

昼下がりの王宮。
陽光が磨き上げられた大理石の床を柔らかく照らし、静かな空気が満ちていた。

アーロン殿下の私室では、机の上に積み重ねられた書簡と、香り高いインクの匂いが漂っている。
ロゼリスは、真っ白な封筒に金の封蝋を押しながら、貴賓への招待状を一枚ずつ丁寧にしたためていた。
その隣では、アーロン殿下が会場配置や誕生祭の段取り、そして当日のスピーチを考えながら、眉間に皺を寄せている。

(……ふふっ。やっぱり、真剣に何かに取り組むアーロン殿下は素敵ですわね。)
彼の横顔は、まるで絵画のように整っていて、ただ見ているだけで胸が温かくなる。

しばらくして、ペンを置いたロゼリスは、そっと立ち上がり、机の端にミルク入りのコーヒーを置いた。
「よければ、少し休憩いたしませんか? 殿下。」

アーロンは手を止め、ふっと優しい笑みを浮かべる。
「ありがとな。……お前も疲れただろ? 一緒に座れ。」

彼はロゼリスが座っていたソファの隣に腰を下ろす。
距離が、近い。
香水でも香りでもなく、アーロン自身の体温がすぐそばにある。

「貴族への招待状まで任せてしまって悪いな。」
「いえ、これも第二王妃候補としての務めを果たしているだけですわ。……それより、その……そんなに私を見つめないでくださいまし。照れてしまいますわ……。」

アーロンは、彼女の言葉に小さく息を漏らすと、ゆっくりとロゼリスの腰へと手を添えた。
そのまま、ぐっと引き寄せる。

「……もっと、お前を見つめていたい。
俺のそばから、離れないようにな。」

「そ、そそそそそんな、心臓が……持ちませんわ!!」
ロゼリスの頰は薔薇よりも赤く染まり、手に持っていたカップを落としそうになる。

アーロンはその手をそっと包み込み、指を絡めてから、その甲に軽く唇を落とした。

「……っ!?!?」
ロゼリスの脳内で何かが爆発した。

(ア、アーロン殿下!?!? え!? 私のこと嫌っていたはずでは!?!? な、なぜそんな激甘モードに!? 心の準備が……っ!!)

そんなロゼリスの混乱をよそに、アーロンはくすりと笑う。
「お前は本当に、いつ見ても可愛いな。……お前といると退屈しねぇ。」

ロゼリスの心臓は、もはや打楽器のように鳴り響いていた。

夜。

風呂から上がったアーロンが部屋に戻ると、ソファに寝転がるロゼリスの姿があった。
淡いレースのナイトドレス。
毛布は蹴飛ばされ、肩紐は片方ずり落ち、長い睫毛の下から穏やかな寝息が聞こえる。

「……はぁ。男と同居してんだから、もう少し危機感というものを持て。」
呆れつつも、その寝顔があまりにも安らかで、思わず口元が緩む。

寝返りを打ち、ソファから落ちそうになったロゼリスを、慌てて抱き留めたアーロンは、
「……まったく、お前は。」と小さく呟きながら、彼女をそっとベッドに寝かせた。

(ロゼリスは“婚前に同じ床で寝るのはよろしくありませんわ!”とか言って、ずっとソファに寝てたんだよな……。
俺としては、隣にいた方が安心できるんだが。)

毛布を掛け、彼女の頭を優しく撫でる。
寝息の合間に、ほんのりと「……尊いですわ……眼福です……」という寝言が聞こえて、思わず吹き出しそうになる。

「……ほんとに、変な女だな。」
そう言いながら、アーロンはそのままロゼリスを抱き寄せ、彼女の髪に顔をうずめた。

(……ロゼリスが、そばにいるとほんと落ち着くな。)
そう思いながら、ゆっくりと目を閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵将を捕虜にしたら夫になって、気づけば家族までできていました

蜂蜜あやね
恋愛
戦場で幾度も刃を交えてきた二人―― “赤い鷲”の女将軍イサナと、 “青狼”と恐れられたザンザの将軍ソウガ。 最後の戦いで、ソウガはイサナの軍に捕らえられる。 死を覚悟したその瞬間―― イサナは思わず、矢面に立っていた。 「その者は殺させない。命は……私が引き受けます」 理由などなかった。 ただ、目の前の男を失いたくなかった。 その報告を受けた皇帝エンジュは、 静かに、しかし飄々とした口調で告げる。 「庇いたいというのなら――夫として下げ渡そう」 「ただし、子を成すこと。それが条件だ」 敵国の将を“夫”として迎えるという前代未聞の処置。 拒否権はない。 こうしてソウガは、捕虜でありながら 《イサナの夫》としてアマツキ邸に下げ渡される。 武でも策でも互角に戦ってきた男が、 今は同じ屋根の下にいる。 捕虜として――そして夫として。 反発から始まった奇妙な同居生活。 だが、戦場では知り得なかった互いの素顔と静かな温度が、 じわじわと二人の距離を変えていく

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

さようなら、私を「枯れた花」と呼んだ貴方。~辺境で英雄を救って聖女と呼ばれたので、没落した元婚約者の謝罪は受け付けません~

阿里
恋愛
「お前のような見栄えの悪い女は、俺の隣にふさわしくない」 婚約者アレクに捨てられ、辺境へ追いやられたセレナ。 けれど、彼女が森で拾ったのは、アレクなど足元にも及ばないほど強くて優しい、呪われた英雄ライアンだった。 セレナの薬草が奇跡を起こし、王都を救う特効薬となったとき、かつて自分を捨てた男との再会が訪れる。 「やり直そう」と縋り付くアレクに、セレナは最愛の人と寄り添いながら静かに微笑む。 ――あなたが捨てたのは、ただの影ではなく、あなたの未来そのものだったのですよ。

夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。

光子
恋愛
この世界には、魔力病という、まだ治療法の見つかっていない未知の病が存在する。私の両親も、義理の母親も、その病によって亡くなった。 最後まで私の幸せを祈って死んで行った家族のために、私は絶対、幸せになってみせる。 たとえ、離婚した元夫であるクレオパス子爵が、市民に落ち、幸せに暮らしている私を連れ戻そうとしていても、私は、あんな地獄になんか戻らない。 地獄に連れ戻されそうになった私を救ってくれた、同じ薬師であるフォルク様と一緒に、私はいつか必ず、魔力病を治す薬を作ってみせる。 天国から見守っているお義母様達に、いつか立派な薬師になった姿を見てもらうの。そうしたら、きっと、私のことを褒めてくれるよね。自慢の娘だって、思ってくれるよね―――― 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

呪われた王子さまにおそわれて

茜菫
恋愛
ある夜、王家に仕える魔法使いであるフィオリーナは第三王子フェルディナンドにおそわれた。 容姿端麗、品性高潔と称えられるフェルディナンドの信じられない行動に驚いたフィオリーナだが、彼が呪われてることに気づき、覚悟をきめて受け入れる。 呪いはフィオリーナにまで影響を及ぼし、彼女の体は甘くとろけていく。 それから毎夜、フィオリーナは呪われたフェルディナンドから求められるようになり…… 全36話 12時、18時更新予定 ムーンライトノベルズにも投稿しています。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。 ※後日談を更新中です。

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……

処理中です...