推しカプを愛でるために、悪役令嬢の私は壁姫になろうと思います!

明夏 向日葵

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アーロンの決意

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「……アーロン、これを飲んで」

シルビアが差し出した薬を、アーロンは荒い呼吸のまま飲み下した。
熱で滲む視界の中、シルビアの表情だけがはっきりと見える。

しばらくすると、荒れ狂っていた呼吸が、少しずつ、少しずつ落ち着き、そのまま深い眠りへ落ちていった。

シルビアはほっと息を吐く。

「……よかった。これで少しは持ち直したね」

だが、感傷に浸る暇はない。
ロゼリスの痕跡は一刻ごとに薄れていく。
アーロンの精神も、これ以上持ちそうにない。

シルビアは立ち上がり、書類の山へ向かう。

「さぁ……ここからが本番だね」



シルビアは学院時代の顔
元生徒会長としての“表のコネ”と、
諸事情あって築いた“裏社会のパイプ”を総動員し、ロゼリスの行方を洗い出していく。

残された魔力の痕跡は微々たるもの。
だがシルビアは諦めない。

「……これは“プロの誘拐組織”の匂いがするね」

資料や情報を照らし合わせるうちに、徐々に浮かび上がる名、エルバーノ・リリネ・フォード。

過去のルチアへの嫌がらせ、
学院での事件、ロゼリスが巻き込まれるきっかけとなった不可解な事象。

すべてが細い糸でつながり、ひとつの名前へ収束していく。

「まったく……なんて執念だい、リリネ嬢」

薄く目を伏せ、シルビアは静かに呟く。

「ロゼリス嬢。必ず君を見つけるよ。
そうしないと……アーロンが、本当に壊れてしまうから」



アーロンの夢の中。

暗闇。
雪のように静かな、冷たく閉ざされた空間。

その中央に
赤髪の少女が立っていた。
白い肌、細い肩、儚げな後ろ姿。

誰よりも大切で、恋い焦がれて、恋い焦がれて今にも涙が溢れそうなほど会いたかった人。

「ロゼリス――!」

アーロンは駆け出す。
胸が痛むほど切実に、腕を伸ばし
触れられる、届く、もう少しで抱きしめられる。

その瞬間。

ふっ……と、赤いシルエットが闇に溶けた。

「っ……ロゼリス!!」

叫びながらアーロンは現実へと引き戻された。

目を開けた瞬間、息が荒れ、汗が滲む。

「……くそ……夢、かよ……
会えたと思ったのに……」

朝日が窓を照らし、雪が黄金色に光っていた。
ずいぶん長く眠っていたらしい。

アーロンは勢いよく身を起こした。

不思議と、熱は引いている。
身体の重さも、あの鈍い痛みも、ほとんど消えていた。

「……行かないと」

アーロンは兄の部屋へ向かう。
ドアを開けると、兄は驚いた顔でこちらを見た。

「アーロン? まさかもう起きられるとは――熱は?」

「下がりました」

「念のため測れ。ほら」

兄は呆れながらも体温計を渡し、結果を見て大きく息を吐いた。

「……本当に下がってるな。君の気力は相変わらずだ」

しかし次の瞬間、兄は表情を引き締める。

「アーロン。ロゼリス嬢についての新しい情報だ。
……彼女は“プロの誘拐組織”に囚われている可能性が高い」

アーロンの瞳が鋭く揺れた。

「……それと。今回の件には
リリネ嬢が関与しているらしい」

「…………っ」

アーロンの顔から、さっと感情が消える。
怒りとも悲しみともつかない、凍りつくような無表情。

「……ロゼリスを、探しに行きます」

「そうだな。だが――」

兄が言うより早く、後ろからシルビアが入室した。

「アーロン。捜査は許可するよ。
だけど――体が“完全回復”してからじゃないとダメだ」

鋭く、だが優しい声。

「今の君が無茶をしたら……取り返しがつかないからね」

そう言い残し、シルビアは去っていった。

アーロンは拳を握りしめ、静かに、確かな決意を胸に刻む。

(ロゼリス……必ず、必ず俺が見つけ出す)

その瞳は凍てついた雪の朝よりも鋭く、ただひとりの少女へ向けられていた。
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