結婚願望ゼロの悪役令嬢、アホ王子(実は策士)に溺愛されるなんて聞いてません!

明夏 向日葵

文字の大きさ
20 / 55

お祭りと刃の影

しおりを挟む
王宮で正式に“家族”として認められた翌日。
私たちに告げられたのは――

「国王主催の春祭りに、王子として出席せよ」

だった。

とはいえ、表向きは“視察”の名目。
セピア王子とリオに、「民の暮らしを肌で学ばせよ」という陛下の命だ。
そのため、私たちは質素な服に身を包み、王族であることを悟られないようにして街へ出た。

「わぁぁ!すごい人!お店いっぱい!」
リオのアクアマリンの瞳がキラキラと輝く。

「レビリアたん、はやくはやくっ!おいしそうなのいっぱいだよ!」
セピアも、完全に子供のようなテンションでリオに同調している。

「……はぁ。いいですか?これは国王陛下から頼まれた仕事なんですよ?
あまり遊びすぎないでくださいね」

「はーい!わかったよレビリアたん!」
(わかってない声だったけど……)

結局、私たちは焼き菓子や果実水を手に、祭りを楽しんでいた。
……こんな時間が、ずっと続けばいいのに――そう思った瞬間。

「……っ?」
屋台のざわめきを抜け、広場に差し掛かったその時――
空気が一変した。

音もなく、黒い影が数人、私たちを囲む。

(刺客――!?)

「セピア様、リオ!」
私は即座に二人を後ろにかばった。

(まさか、このタイミングで……ガゼル王子の差し金!?)
胸の奥で怒りが燃え上がる。

「……でも――」
私は絶望していなかった。

なぜなら――私は、この物語の“悪役令嬢 レビリア”。
彼女は剣術も、体術も、どちらも貴族令嬢の中では最強クラスだからだ。

「――ッはぁ!!」

一歩、踏み込み。
一人目の刺客を、肩を軸にして華麗に投げ飛ばす。

地に叩きつけられた男の手から剣を奪い――
ひゅん、と音を切り裂いて、敵の急所へと突き込む。

(――驚いた。前世では護身術程度だったのに……身体が勝手に動く。これは“ゲームで鍛えられたスキル”の影響?)

「レビリア様――!」
低く鋭い声。振り返れば、ポアロが疾風のように迫ってくる。
「私も参戦いたします」
その手に握られた短剣が、月光を反射して煌めいた瞬間――シュンッ。
短剣が飛び、敵の腕を正確に撃ち抜く。
悲鳴を上げた刺客が崩れ落ちる。

「――お願いします!」
背中合わせに構えるポアロと私。
わずかな合図で互いに動き、流れるように敵を制圧していく。
――結果、五分後。
広場に立っていた刺客たちは、全員地面に転がっていた。



「わぁぁぁ!レビリアたんもポアロも、かっこいい!!」
セピアが両手をバタバタさせて飛び跳ねる。

「ね!おねえちゃんすごい!めちゃくちゃ強い!」
リオが、誇らしそうににこにこしている。

(……何この二人。刺客を倒したっていうのに、めっちゃピクニックテンションじゃない)

私は剣を払い、深く息を吐いた。

(……でも、思ったよりも早く仕掛けてきた。まさかガゼル殿下がここまで焦っているとはね…。そこまでしてセピアを消したいの…?)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷徹と噂の辺境伯令嬢ですが、幼なじみ騎士の溺愛が重すぎます

藤原遊
恋愛
冷徹と噂される辺境伯令嬢リシェル。 彼女の隣には、幼い頃から護衛として仕えてきた幼なじみの騎士カイがいた。 直系の“身代わり”として鍛えられたはずの彼は、誰よりも彼女を想い、ただ一途に追い続けてきた。 だが政略婚約、旧婚約者の再来、そして魔物の大規模侵攻――。 責務と愛情、嫉妬と罪悪感が交錯する中で、二人の絆は試される。 「縛られるんじゃない。俺が望んでここにいることを選んでいるんだ」 これは、冷徹と呼ばれた令嬢と、影と呼ばれた騎士が、互いを選び抜く物語。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

処理中です...