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新たな出発が必ずしも祝福されているとは限らない
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自分たちが馬車に乗らないのを見て、荷物の積み込みをしていた寺田谷は何もしないで商人と話している自分たちを見て思いっきり顔をしかめた。
「なんでお前らは何もしないで喋ってんだよ!」
露骨に声を荒げる寺田谷だが、すぐにリリィが睨みを利かせて押し黙らせた。
「用事があるので、自分たちはここで失礼します」
「はあ!? ならせめて手伝って行けよ。礼儀のない奴だな!」
「急いでいますので。それでは」
「まあ、これでお前らのお守りともおさらばだな! じゃあな!」
そう言ってのける寺田谷。こちらの心労も知らずにいい身分だ。
適当に聞き流して自分たちは馬車を離れた。
商人には、本当に悪い事をしてしまったと思っている。
だがあの契約を結ばれてしまった彼を、助ける手段がない。かといって共倒れするわけにもいかない。もしまた出会う事があった、精一杯謝罪の意味を込めて稼げるように協力したいと思う。
寺田谷は荷物の積み込みが終わると、彼と行動を共にするらしい女性と一緒に、商人の馬車に乗り込んだ。
これでとりあえず直近の危険は過ぎ去った。
ひとまずは安心だ。
「折角ですから、もう少しこの街に居ましょうか。あのペースだし、下手をすると追いついてしまうかもしれませんし」
「そうですね。たまにはゆっくりしましょう」
にっこりとはにかんだ彼女は、どこか嬉しそうだ。
その笑顔を見ると、こちらまで嬉しくなる。
来た道を引き返した。
まだ朝食すら食べていないので、空腹感を感じていた。
この街もやはり朝は早く、商人が露店を出し活気にあふれた朝市を開催していた。
さすがに王都に近づいて来ているだけある、賑わいを見せている。
「すごい、沢山お店がありますね。今日はお祭りですか?」
興奮気味の彼女が左右に視線を彷徨わせながら聞いてくる。繋いだ手が楽しそうに揺れているのが、本当に愛らしい。
一通り見て回ると、やはり好奇心旺盛なリリィは目を輝かせていた。
「コウさん! 見てください! 変わった色です」
「コウさん! これすごいですよ!」
「コウさん!」
普段の物腰やわらかでおとなしい印象とは変わり、年相応にはしゃぐ姿は心の底から嬉しくなる。
生活基盤を根こそぎ失い、突然始まった無理行軍の旅。何とか続けているが、やはり疲労もストレスも生半可じゃない。
こういう娯楽が、たまには必要だ。
「すごいですね。本当にたくさん、いろんな物があります」
通信がないこの世界では、自分の住む地域以外の物はそうそう見る事なんてない。彼女のいた村は国境すぐ近くの貧しい土地だったがゆえに、娯楽品よりも生活必需品の需要が高かった。娯楽品はほぼ入ってくることがなかった。
貴金属や服飾など、15歳の少女が気になる物は、ほとんど入ってこなかった。
何か買ってプレゼントしようか。
「あ、欲しい訳じゃないですよ? わたしにはこれがありますから!」
そういって以前買った髪留めを見せて来た。
すべてお見通しらしい。
「今は節約をしないとですから。絶対必要なもの以外はあまり買ったらダメですよ」
「は、はい……」
「はい。それにわたしは、こうしてコウさんと一緒にお店を見るだけで充分楽しいんですから」
しっかり釘を刺されてしまった。
本当に彼女といると毎日発見だらけだ。こうしてぶらぶらするだけで、ウインドーショッピングだけでも十分に楽しいなんて、故郷に居た頃は知らなかった。
ありふれた日常が、一番恋しいし、楽しい。何もない事がこんなに充実したものなんて知りもしなかった。
「なんでお前らは何もしないで喋ってんだよ!」
露骨に声を荒げる寺田谷だが、すぐにリリィが睨みを利かせて押し黙らせた。
「用事があるので、自分たちはここで失礼します」
「はあ!? ならせめて手伝って行けよ。礼儀のない奴だな!」
「急いでいますので。それでは」
「まあ、これでお前らのお守りともおさらばだな! じゃあな!」
そう言ってのける寺田谷。こちらの心労も知らずにいい身分だ。
適当に聞き流して自分たちは馬車を離れた。
商人には、本当に悪い事をしてしまったと思っている。
だがあの契約を結ばれてしまった彼を、助ける手段がない。かといって共倒れするわけにもいかない。もしまた出会う事があった、精一杯謝罪の意味を込めて稼げるように協力したいと思う。
寺田谷は荷物の積み込みが終わると、彼と行動を共にするらしい女性と一緒に、商人の馬車に乗り込んだ。
これでとりあえず直近の危険は過ぎ去った。
ひとまずは安心だ。
「折角ですから、もう少しこの街に居ましょうか。あのペースだし、下手をすると追いついてしまうかもしれませんし」
「そうですね。たまにはゆっくりしましょう」
にっこりとはにかんだ彼女は、どこか嬉しそうだ。
その笑顔を見ると、こちらまで嬉しくなる。
来た道を引き返した。
まだ朝食すら食べていないので、空腹感を感じていた。
この街もやはり朝は早く、商人が露店を出し活気にあふれた朝市を開催していた。
さすがに王都に近づいて来ているだけある、賑わいを見せている。
「すごい、沢山お店がありますね。今日はお祭りですか?」
興奮気味の彼女が左右に視線を彷徨わせながら聞いてくる。繋いだ手が楽しそうに揺れているのが、本当に愛らしい。
一通り見て回ると、やはり好奇心旺盛なリリィは目を輝かせていた。
「コウさん! 見てください! 変わった色です」
「コウさん! これすごいですよ!」
「コウさん!」
普段の物腰やわらかでおとなしい印象とは変わり、年相応にはしゃぐ姿は心の底から嬉しくなる。
生活基盤を根こそぎ失い、突然始まった無理行軍の旅。何とか続けているが、やはり疲労もストレスも生半可じゃない。
こういう娯楽が、たまには必要だ。
「すごいですね。本当にたくさん、いろんな物があります」
通信がないこの世界では、自分の住む地域以外の物はそうそう見る事なんてない。彼女のいた村は国境すぐ近くの貧しい土地だったがゆえに、娯楽品よりも生活必需品の需要が高かった。娯楽品はほぼ入ってくることがなかった。
貴金属や服飾など、15歳の少女が気になる物は、ほとんど入ってこなかった。
何か買ってプレゼントしようか。
「あ、欲しい訳じゃないですよ? わたしにはこれがありますから!」
そういって以前買った髪留めを見せて来た。
すべてお見通しらしい。
「今は節約をしないとですから。絶対必要なもの以外はあまり買ったらダメですよ」
「は、はい……」
「はい。それにわたしは、こうしてコウさんと一緒にお店を見るだけで充分楽しいんですから」
しっかり釘を刺されてしまった。
本当に彼女といると毎日発見だらけだ。こうしてぶらぶらするだけで、ウインドーショッピングだけでも十分に楽しいなんて、故郷に居た頃は知らなかった。
ありふれた日常が、一番恋しいし、楽しい。何もない事がこんなに充実したものなんて知りもしなかった。
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やっと物語が動き出したかな? この先が楽しみです。
楽しく読ませてもらってます!自分もオッサンなんで物語がしっくりきますね☺️
また誤字脱字報告です。
⑧ 太陽が登った頃、リリィが返(帰)ってきた。
そういって彼女の凶(今日)の収穫を指さした。
これは自分がやりたいから勝手にい(や)るだけだ。