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サバゲーの頂点に立ちたいでしょう?

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「いきなり熱いお湯が出ることがあるからな。気をつけろ」

 隣から手を伸ばして来たフー。熱いお湯よりも、大理石のように白い肌のフーの腕の方が、音羽には危険な気がした。

 シャワーヘッドを掴んで、お湯を出して確かめるフー。前かがみになって覗き込まれれば、薄い肩や細い首筋がどうしても目に付く。

「ん……。ちょうどいいか? どうだ?」

 ぱっちりと大きな瞳が、上目遣いに音羽を見つめながら、シャワーのお湯をつま先にかけた。

「うひゃあ!?」

「すまない! 熱かったか?」

 ぱっと離して、温度調節を始めるフー。彼女の体を見ていたせいで、シャワーに気付かなかった、とは言えない。

「これでどうだ?」

 何度か確かめて、それからまた音羽のつま先にかけた。

「あ、その。はい、だいじょうぶです」

「そうか」

 そしてシャワーヘッドを音羽に渡し、自分のシャワーの調節を始める。

「ありがとう、ございます」

「アウトは、バディだ」

 シャワーで軽く体を流しながら、本当に小さな声でつぶやいた。音羽以外は、誰も聞こえなかっただろう。

 一瞬小首を傾げた音羽。それから嬉しさがこみ上げてきた。

 ――仲間、なんだ……――

 どこか孤独な雰囲気を漂わせるフー。

 元より友達がいない、人付き合いの苦手な音羽。

 じんと胸が熱くなって、自分に友達がいるという事が、嬉しくなった。

「えへへ……」

 顔が自然とにやけてしまう。慌ててシャワーで体を流す。

「あ、背中、洗います」

 隣りでスポンジで泡を立てているフーが気になり、音羽は近づいた。一瞬断られるかと思ったが、フーは横目で一瞬だけ見て、ふっと背中を向けてきた。

「たのむ」

「はい!」

 急いでシャワーを止め、彼女の後ろに移動して、膝立ちになる。

 そうするとフーは半身をひねって、泡立てたスポンジを渡してきた。

「あまり力は入れないでくれ」

「わかりました!」

 意気揚々と手を伸ばして、はたと気づいた。今フーの左肩を触ろうとしている。

 お湯が水滴になっている白い肌。見るからにハリがあって、キメの細かい素肌だ。それに触れていいのか。そんな事が頭をよぎり、そして今自分もほぼ全裸という事実に、急に頭が沸騰しかけた。

「どうした?」

「あ、や、今やります!」

 意を決して、フーの肩に手を置き、細心の注意を払って背中を撫でるようにスポンジを当てる。

「ん……」

 吐息が漏れた。驚いて手が止まる。

「どうした?」

「あ、いえ、その……。すみません……」

 もう一度、背中の筋をなぞるように、スポンジを動かす。

「ふ……、ん」

 なぜか怪しく聞こえるフーの吐息。頬が熱くなっている気がするが、とりあえず続ける。

 背中の上半分。首筋から肋骨の下まで。念入りになぞって行くと、洗うところがなくなった。

 数瞬手を止めてみたが、もういいというフーの言葉はない。音羽は早鐘になった心臓が壊れないか不安になりながら、震える手でその下へ少しずつおろしていった。

 きゅうと細くなったウエストから、少しずつ広がり、腰のくぼみ。それから柔らかい脂肪の付いた、臀部へ。

 尾てい骨から、左右に分かれる谷間。そこへ触れると、ぴくっと少しだけ震えた。

「そうだな、背中だけじゃなくて、腕も、頼む」

 ふっと右腕を水平に上げた。

「は、はい」

 背中から、肩へ。あんなにも長くて重いライフルを、軽々と構えている腕だとはとても思えないほど細い。

 痩せぎすではなく、細い骨に筋肉が張り、そこへ脂肪がちゃんと付いた、理想的に引き締まった腕。スポンジで肩、脇と撫で、二の腕、肘と先へと移動していく。

 先に行くにつれてやりづらくなる。肩に添えていた左手を、彼女の肘に添えて、その先へ。

 ――スポンジだと、やりにくいや――

 そこへスポンジを置いて、自分の手にボディーソープをつける。よく泡立てて、フーの指に泡のついた自分の指を絡ませた。

 両手でしっかりもみ洗いして、左腕へ移動。スポンジを使おうかと思ったが、なめらかで触り心地がいいフーの肌を、もう少しだけ触っていたくて、手で左腕を洗うことした。

 素手で触ると、よくわかるフーの身体。しっかりとした弾力の下に、水袋のように柔らかいしなやかな筋肉。その下の細さの割にしっかりとした骨。人工物でもここまで完璧な人体は再現できないだろう。

 順番に撫で、そしてまた手。指を絡ませて、一本一本丹念に洗っていく。

「フーせんぱい……」

 見上げてみると、彼女の顔はほんのりと上気して、白い肌と相まって桜のような薄ピンクになっていた。 そして大きな瞳はわずかに潤み、いつものけだるい雰囲気はなく、奥に迷うような、あやしい疼きのような色が混じっていた。

「そうだな、じゃあ……」
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