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サバゲー大会初日!
06
しおりを挟むポイントの指示を受けていないのなら、独断でいけということだ。
フーに連れられて、センターフラッグ、フォックストロット3のある、巨大な砦に回り込む。
正面に砦を捉える位置にある、壊されたような形のプレハブ小屋に飛び込み、ちらりと外を伺うフー。その間に音羽は周囲の音をよく聞き集めた。
「いい設計だ。守りにも、攻めにも絶妙なバランスが取れている」
心なしか嬉しそうだ。ちらりと見ると、よどみなくカービンを構えている。
「アウト。敵の位置がわかるか?」
「はい」
「よし。なら、フーの目になれ」
「え?」
いきなりのことに驚く。彼女はいつだって、千里眼でもあるのではないのかと思う精度で狙撃してきた。なのに突然そんなことを言われれば、当然驚く。
「さしものフーだって、ここまで完全に引き篭りされたらわからない。アウト。お前が頼りだ」
少しだけ悔しそうな呟きにも似た言葉。音羽は頷いて、全力で耳だけに集中した。
「正面、あの壁です」
音は、センターフラッグの中。建物の中、二階部分。丸い小窓がある。音羽たちの真正面だ。
「わかった。他は?」
「右の、下。あの出入り口の右側です」
「よし、じゃあ次だ」
そうして全部六つのポイントを割り出して、他のチームに伝えた。今のブラボーの位置からでは狙えない位置は、チャーリーに頼んだ。
「全班へ。ブラボーとチャーリーが敵を炙る。その間に奇襲だ」
『了解!』
『Yes Me'em』
「アウト、敵の隠れている場所に、フルオートを浴びせろ」
「え? でも……」
「敵の注意を引ければいい。行くぞ」
「はい!」
すうと、流れるような動作で、フーは遮蔽物から上体をさらして、撃った。
ガスブローバック式特有の豪快な動作音。そして重たいBB弾が着弾する派手な音。続けざまに十発。フーの速射だと一秒もかからない。それでいて慎重に一発ずつ撃つのと、大差のない精度で中てていく。
ガツンガツンという着弾音に続き、音羽も別の敵へ受けて攻撃。
決して当たることはない。ただ自分が隠れている場所に、叩きつける攻撃。そこに隠れている、動けば中てるという脅迫。
中らない。しかし着実に精神はすり減る。
「撃ってきてるよ!」
「ちゃんと隠れて! 中らないから!」
「でも!?」
「大丈夫!」
「背中!? 場所分かってるよ!」
音羽の耳には聞こえる敵の悲鳴。
――ごめんなさい。でも、勝たないと、いけないから――
その声の主に、壁越しにBB弾を当てる。
「ひっ!?」
「う、撃ち返そう!」
「まって!」
立ち上がる布と樹脂の擦れる音。チャンスだ。
「敵、動きます!」
「よくやった。場所を変える」
敵が窓から顔を出した。それを見計らって移動。
敵が撃ち始める。完全な盲撃ち。狙いもなにもない、ただの恐慌状態での乱射。
「釣れたぞ。アルファ、餌の時間だ」
『がお』
どこかに隠れていたアルファが飛び出し、一瞬にしてセンターフラッグに突入。
「敵!? こっち!」
「でも、こっちからも」
「ヒット!」
「ヒット!」
瞬く間に、二階部分を占拠したアルファ。そしてそれに続いたデルタが一階を掃討。
『ゲーム終了! チームRED_GIRL'S全滅により、チームG4&Gsの勝利!』
拡声器によるアナウンス。ほっと一息ついて、音羽はエアソフトの安全装置をかけた。
ぞろぞろと憔悴した敵チームのメンバーが、やぐらから出てくる。
「あんな子にやられたんだ……」
視線が音羽とフーに集まる。当然といえば当然だ。
その中のひとりがてててと音羽のもとへ駆けて来て、疲れながらも笑みを浮かべた。
「強いなぁ。かなわないよ」
右手を差し出してきた。装備を外していないため、特徴はよくわからないが、少なくとも音羽やフーよりかは背が高い。音羽は両手で彼女の手を握り返した。
「その、ごめんなさい」
「どうかしたの?」
不思議そうに首をかしげる少女。音羽はぎゅうと手を握り、先ほどの恐怖の混じった叫びを思い出した。
「怖かった、と思って。その、ごめんなさい」
しどろもどろになりながら、なんとか説明しようとして、どんどん言葉に詰まっていく。そして、相手はなぜか笑った。
「あはは。そんな事気にしてたの? 真面目だなぁ」
快活な笑み。そして、ぽんぽんと音羽の肩をたたいた。
「これはサバゲー。強い敵と戦うのが楽しいじゃん? またやろうね!」
じゃねーと笑って、少女は先に行ってしまった仲間たちに合流するために走って行った。
「前にも言っただろう? サバゲーは殺し合いじゃない」
横合いからフーがつぶやいた。
「アウト。ゲームを楽しめ。知略を巡らせ、相手の裏をかき、決定打を撃ち込む一瞬を狙う。それがサバゲーだ」
凛としたフーは、ぽんぽんと音羽の背中を撫でて、歩きだした。
「さあ、次のゲームが待っている。行こう」
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