キング・オブ・アウト ~半分が裏社会に呑み込まれた世界で法則の力『則』と法則のを超えた力『則獣』を駆使してマフィアの頂点を目指す!!

NEOki

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第108話 怪物から人間へ

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 ゴンザレスが飼われていたファミリーがグレイズファミリーの傘下に当たり、その当時レヴィアスとグレイズは戦争まっただ中であった。

 そして偶々先発隊としてアンベルトの軍勢が街に近づき、其れをチャンスと見た飼い主のクズ男が、無敗の怪物であるゴンザレスを仕向けて手柄を手に得ようとしたのである。



 作戦や戦略など気にしたことも無いゴンザレスは、暗殺を命じられると馬鹿正直にレヴィアスが野営している場所へ正面から突入する。

 無数の弾丸が浴びせかけられ、幾度も爆炎がその身を包んだがどれも彼の身体を傷つける事は出来なかった。正に鋼の肉体、しかし其れを誇ろうとは思えない。

 一人で完全武装した数十人を蹴散らすたび、砲弾の直撃を無傷で耐え忍ぶたび、そんな自分へ恐怖と侮蔑が籠もった瞳を向けられるたび、彼は自分が人間では無いと強く感じてしまうのだ。

 自分で自分の事を心から怪物であると思っていた。



(僕は何なんだろう……何の為に人の命を奪っている? この血塗られた道の先に何があるんだ??)



 ゴンザレスは無数の弾丸を掻い潜って敵に迫り、その頭蓋骨を粉砕しながら考えた。

 もしも自分がこの人間達と同じ人間ならば、こんな意味も無く同族達を鏖殺できる筈が無いのだ。

 たったの拳一振りで命を消し飛ばし、何の罪悪感も無く何の利益も無いにも関わらず人間を殺せて良い訳が無いのだ。



(だとすると、僕はやっぱり怪物なんだろうな……)



 自分が救い用の無い怪物であり、決して人間からの愛を受けるに値しない存在であると実感する度に孤独感は強く成っていった。

 周囲は声に満ちているのに、何処まで行っても一人ボッチ……



 ゴンザレスは何の達成感も罪悪感も無く分厚い警備を突破し、虚しさだけを抱えて暗殺のターゲットであるアンベルトの元へ到達した。



(最悪の気分だ……早く終わらせよう、一刻も早く眠りについて全て忘れてしまおう)



 そう思いながらゴンザレスは何時も通り、感情の消滅した目でターゲットを見た。

 しかし自分が今正に殺そうとしている相手の目を見た瞬間、全身がブルルッと震える程の何かが伝わってきたのだ。



 その男、アンベルト・バラガーの目に映っていたのは見慣れた恐怖や侮蔑の色では無く、全く自分に対する恐怖が含まれていない真っ直ぐで力強い目だった。



(ぼッ僕を値踏みしているのか……!?)



 根拠は無いけれど、何故かそう思った。

 ゴンザレスは血のにおいが身体に染みついていて、目からの常に冷たい光が漏れ出続けている。

 その為その目を真っ直ぐに見詰められた事は一度も無かった、誰もが目線を向けるとまるで見てはいけない物でも見たかの様に目を逸らすのだ。

 しかし目の前の男、アンベルトは目を逸らさなかった。

 それどころか圧迫感を感じているのは自分の方で、逆に目を逸らして逃げ出したいと感じる程の力をその目から感じたのである。



「気に食わなねえなッ」



 アンベルトは開口一番そう言葉を発した。

 唐突過ぎて何の事を言っているのかサッパリ分からなかったが、ゴンザレスは黙って次に続くであろう言葉を身じろき一つせずに待つ。

 その空間では明らかにゴンザレスが弱者であり、目の前の男が強者であった。



「その肉体、その闘気、その才能ッ全ては一級品だ。其れなのに何故、お前はその様な死体と瓜二つの目をしている? 何故強さを誇らねえ、他人を圧倒して自らの武を叩き付ける悦楽に酔っていない?」



「強さを……誇る?」



 ゴンザレスにはアンベルトの発言を理解出来なかった。

 彼にとって強さとは自分に不幸を引き摺り込んで来た呪いに等しく、その屈強な右腕は見る物に恐怖を覚えさせ、壁の様な胸板は見る物に圧迫感を与え、その眼光は人を遠ざける。

 人を一瞬で骸に変えるこの力を誇れる訳が無い、強さこそ自らが怪物である証明であった。

 其れを目の前の男は何故誇らないのかと聞いてきている……

 少し、苛ついた。



「良いね、やる気かッ」



 アンベルトは殺意が籠もって火花が散り始める目と、臨戦態勢に入り膨張して唸りを上げる筋肉を見て腰掛けていた椅子から立ち上がった。

 ゴンザレスは理由の分からない殺意に包まれていたのだ、何故かその言葉を聞いて自らの人生全てが馬鹿にされた様な気分になったのである。



「良いぞ、掛って来い。お前の全てで俺をねじ伏せてみろ……研磨されていない名刀が何処まで切れるのか、確かめてみるのも一興だな」



 アンベルトが右腕を真っ直ぐ前に向けた構えを作り、その言葉を呟いたのが開戦のゴングとなった。

 ゴンザレスはその声が途切れた瞬間爆発の様な音を発して地面を蹴り込み、其れから一直線に暗殺対象目掛けて突進する。そして迷い無く右腕を撃ち放ったのだ。

 しかしその腕が物体を捉える事は無かった。

 確実に命中すると思い撃ち放った一撃は、アンベルトの瞬間移動とも思える身の熟しによって空を切った。

 そして体勢の崩れたゴンアレスの背後でドンッという衝撃が弾け、バランスを崩され前のめりに倒れる。こんな事は初めてであった。



「ふん……どうやら威圧するだけで動けなく成る小物だけを狙ってきたらしい。人は避けるし殴り返してくるって事も知らない様だッ」



 嘲笑の混じったアンベルトの声が背後から聞こえる。

 その発言を受けて更に苛立ちは増したが、其れを否定できないムズ痒さも感じた。

 今までゴンザレスはここまで完璧に攻撃を回避された事など無く、更に背後を取られて蹴りを入れられるなど考えた事も無かったのだ。



(こ、攻撃をッ躱された!? しかも背後まで取られて……嘘だろッ、まさか僕よりも強いのか?)



 自分と相手の実力差を図るにはこの数秒間のやり取りで充分だった。

 少なくとも今の一瞬で相手はゴンザレスの命を容易に刈り取り、身体を血の通った生命から唯の肉片に変える事ができたのだ。

 しかし相手は其れをやらなかった、何故なら自分を何時でも葬れる虫ケラだと思っているから。



(強いッ間違い無く強い……ッ!! でも、何だ……この気持ちは?)



 ゴンザレスは初めて感じた死の気配に全身が総毛立っていくのを感じた。

 これが恐怖、今まで彼が追い詰め惨殺してきた者達が感じていた物。

 確かに糞尿を漏らし泣きながら後退るのもう頷ける。しかしゴンザレスが感じていたのはその感情だけでは無かった、微かではあるが喜びもあったのだ。



 自分と同じ怪物の匂いのする人物と出会ったのは初めてだった。

 初めて出会った自分の孤独を理解してくれるかも知れない相手、そして始めで自分の全力を引き出してくれるかも知れない相手。

 その事に気が付いた瞬間、腹の中で飼っている怪物が暴れ始める。

 初めて感じた明確な死の気配から小便を撒き散らかして逃げる事よりも、命を捨てても良いから一度だけ怪物としての暴走本能を爆発させたいと思ってしまった。



 ゴンザレスは生まれて初めて、心からクシャクシャな笑顔を浮かべた。

 自分の生命が光輝き歓喜の声を上げているのを感じながら、知らず知らずに内に掛けていたリミッターを解放する。

 そして次の瞬間、弾かれた様に立ち上がりアンベルトでさえも回避出来ない速度の裏拳を叩き込んで吹飛ばしたのだった。
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