バンクエットオブレジェンズ~フルダイブ型eスポーツチームに拉致ッ、スカウトされた廃人ゲーマーのオレはプロリーグの頂点を目指す事に!!~

NEOki

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第三話 バンクエットオブレジェンズ⑦

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ッオ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”!!!!!!


 このモンスターだけにはおのが全てでもってぶつかりたい、そう瞳をギラつかせ前へと傾いたジークの重心。
 しかしその威勢を、再び放たれたヴォルガーンの咆哮が即座に押し返す。

 それは物体を伴わぬ純粋な音波動であるにも関わらず、全身がバラバラに吹き飛んでしまいそうなエネルギーを彼に伝えて来たのだ。
 生物としての格が違う。そう炎の吐息やマグマの鉤爪を見せ付けられる以上の実感を伴い身体を押し潰してくる。

 だが、そのこれ以上ない程分からされた差にも関わらずジークの表情は明るかった。圧に押され引いた重心を好奇心で元に戻し足を一歩前に出す。
 そして臆する事無く、第一撃を叩き込まんと剣を振り上げた。


バッサァァァ!!

 しかし、それで易々攻撃を入れさせて貰えるのならジークの瞳はこれ程輝いてはいない。

 敵の接近を感知した紅蓮竜は素早く畳んでいた大翼を開き、地面の真っ黒に変色した骨を吹き飛ばしながら空中へと離脱。と見せかけ即座に回避から攻撃に転じ、真近で受けた大風圧に煽られ体勢崩れた禿猿へと頭上より襲い掛かった。


ダア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ンッ!!


 とても全長10メートル超えの巨体とは思えぬ電光石火で攻防転じ放たれた一撃。更にその叩き付けられた両前足は容易く地形を変貌へんぼうさせ、巨大なクレーターと四方へ走った亀裂が発生したエネルギーの絶大さを物語る。
 獅子は兎を狩るにも全力を尽くすというが、小動物1匹の駆除にそれどころの話ではない過剰戦力が紅蓮竜ヴォルガーンによって投じられたのだ。

 だがしかしにも拘らず、この直後顔を屈辱に歪める事と成ったのも、その他ならぬ山の王であった。

「如何したオオトカゲ。そんなもんかよ?」

 鉤爪が猿を切り裂くよりも早く、剣が竜の下腹を斬り裂いた。そしてジークはその身を舞い上がった土煙に隠し、挑発の意を込めた音を紅蓮竜へと投げ付けたのである。

 言葉が通じるとは思わない。
 だが先ほど咆哮を受けた自らが何一つ言葉は分からずとも慢侮まんぶという意味は通じたように、奴にもこの意味が通じるという確信があったのだ。


ッブオォォン


 その意に対する返答代わりに、ヴォルガーンは泰然たいぜんの間を一切挟まず翼を羽ばたかせ土煙を吹き飛ばす。そして現れた敵影へと間髪入れず牙を剥き喰らい付いた。

 明らかそれまでより切れ味の上がった竜の攻撃。しかし対するジークは狙い通りとでも言う様にたいを転がし危機を掻い潜ってみせる。
 そして滑らかに動きを繋いで起き上り、一転してヴォルガーンから距離を取る方向へと駆け出した。

 当然その行動を山の王がおとなしく指咥え眺めていてくれる訳がない。
 ヴァンガーンは愚かにも自らへ向けられた背に再び喰らい付き猛牙の錆にせんと大口を開ける。そして一羽ばたきで人間の数十歩を詰め、今度はしかとその姿を琥珀色の瞳で射抜きながら急降下。

 だがその牙が獲物の背を穿つ寸前、ジークは何と唐突に歩みへブレーキを掛け身体を敵影迫る方向へと転換させた。


ズガガガガガガガガガガガガガガガッ!!


 まるで巨大なマーカーで一本線を引いた様に、地表ごと敵を丸呑みにせんと急降下して来た紅蓮竜の大口に抉られ竜の巣にスケールの違う傷痕きずあとが刻まれる。

 正しく災害、それ以外の表現が見つからない規格外の力。しかもそれが唯の一生命体へ向けて放たれたのである。
 それは言い換えれば、山の王がこの小さな禿猿を敵として認めた証でもあった。

「……良いねッ、ヒリヒリしてきた」

 生存は絶望的、そう百人が見て百人が首を縦に振る一撃が過ぎ去ったにも関わらず、その他ならぬ標的であった筈の男は土埃の中ニヤリと笑う。

 彼の心臓が現在動いている場所、其処は地に引かれた直線の始点よりたった50センチしか離れてはいなかった。
 ジークはこれまで戦ってきた強敵達との記憶で知っていたのである、空中より攻撃してくる敵から逃れる時その影の反対方向へ走っては成らないという事を。しっかりと物理計算が行われているゲームであれば、前へは出来ても後ろにいきなり降下地点をズラす事は出来ないという事を。

 それを身体で覚えていたジークはその経験の元ヴォルガーンをある程度引き付け、突如進路を反転し敵の下を擦り抜けた。
 しかもその拍子に剣を振るい刃の通る首へと斬撃まで叩き込んだのである。


ッブボォン!!

 この瞬間、間違いなく優位を取っていたのはジークの方。
 そしてそれは向こうも分かっているのか、直後強烈な殺意の匂いを纏った火球が紅蓮竜より放たれる。

 先ほど彼に死の確信までさせた炎による攻撃。
 しかしその威力にジークは小首を傾げる事となった。竜が振り返りざま放ったその火球は着弾と同時に火柱を上げるが、明らかその規模が記憶と比べて小さかったのだ。

 その上軌道も単純と来ればもうジークに当たる道理は無い。
 放たれたと同時に進路を予測した彼は、易々足を動かすのみで破壊範囲より逃れてみせる。


ッブボオン!! ッブボォン!! ッブボォン!! ッブボォン!! ッブボォォン!!


 だがしかし、嫌やはりと言うべきか。あの山の王が目で見て避けられる程度の生優しい攻撃で終わる筈が無かった。

 爆音の残響いまだ残る中更に連続で火球が飛来。加えてそれらは明らか回避を先読みしており、厭らしい所へ着弾し立ち昇った炎で道を塞いでくる。
 その切れ目なく大気を爆轟が揺らす様は、宛ら海戦での艦砲射撃が如く。

 それでも、ジークの精神を揺るがすには足りない。

 彼は寧ろホームグラウンドへ帰ってきたかの様にイキイキと轟音の中神経を研ぎ澄ます。そして炎に囲まれぬ方向を見抜き、火の切れ目を縫う様にして背後へと下がっていった。
 それにより更に距離が生まれ着弾までのタイムリミットが増加、後は一発一発冷静に火球を躱していくだけである。


スゥゥ………ッボオ”オ”オ″オ″ン!!  
バサァァァ、バサァァァ、バサァァァ!!


 唯火球一発でも生半可なプレイヤー相手であれば容易く決定打と成り得る攻撃。しかしそれを一つ残らず平然と回避してみせたジークへと攻撃は更に苛烈を極めてゆく。
 
 次は紅蓮竜ヴォルガーンの方が互いの間に生まれた距離を生かす番。
 それまでの間隔を開けずに放っていた小火球から打って変わり、一瞬深く大気を吸い込んだかと思えば次の瞬間一際大きな火球を山の王は産み落とした。
 そしてそれを己から余り離れていない地点へ着弾させ、立ち昇った巨大な火柱を翼で力強く煽ったのだ。

 その途端、火柱は形を変え炎の川と成る。
 そして熱風を露払いとし凄まじい範囲を焼きながらジークを呑み込まんと迫り来た。

(これ、どう避けんだよ………………ッ)

 その映る範囲全てが煌々とした赤色に染まる視界を前に、ジークは回避でこの炎より逃れる事は不可能であると悟る。
 しかしそこで匙を投げないのが彼の持つ大きな強みであった。

 とは言っても、この時点でジークの脳内にはまだ目前へ迫る赤光より自らが生き延びる術はない。
 それ故彼がゼロよりその術を編み出さんと急速に頭を回転させると、無意識に取り込んでいた周辺地形のとある一点がパッと浮かび上がってきた。
 確証はない。だがそれ以上の物を練る猶予もない。無い物だらけだが、しかし即行動する事のみが唯一彼に有る選択肢であった。

 ジークはしなった若竹が跳ね戻るような勢いで背後を向き、その一点目掛け駆け出したのである。


ォォォオオオオ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”!!!!


 炎が迫っているのを肌で、耳で、そして細く色濃く成っていく影で感じた。
 全身を包む息の詰まる様な熱気。しかしそんな中でも背中には死の寒気が依然張り付いたまま。

 そして耳の直ぐ後ろに火の爆ぜる音を聞いたのを合図に、ジークは一か八かに掛け身体をその場所へ向け放り出したのであった。


ゴオ″オ″オ″オ″オ″オ″オ″オ″オ″オ″オ″オ″オ″オ″ッ


 まるでジェットエンジンの中に居る様な、遂に到達した炎と熱風がもう焦がす物さえ無くなった大地の上を吹き抜けていく音を聞いていた。

 ジークは、ギリギリの所でその場所へと逃げ込む事に成功したのである。
 彼が現在背を預けているのは大岩と見間違えてしまいそうな程巨大な生物の骨。その存在を何故か思い出したジークは、地表に露出しているだけでも2.5メートル程の高さで聳えるそれを防火壁として利用したのだ。


オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オオオォォォ………


 炎熱が過ぎ去るまで果たして保つだろうか、そう不安もあったが巨骨は見事に熱風を弾き炎を受け流してくれた。次第に辺りを包む熱も音も光も遠退いていくのを感じる。
 ジークは又もや天災をおのれ一人に差し向けられながら運と実力で生き残ってみせたのだ。

 そして今度は自分に攻撃するターンが回ってくる、などと思考停止し足止める者をこのゲームは容赦なく突き放す。


ガシッ!!  ジュゥゥゥミシミシミシッ


 正しく命の恩人と呼ぶべき巨骨が、竜の鉤爪より伝わる異次元の高熱に悲鳴を上げ、砕けた。
 あれ程の大規模攻撃を放った後なのだがら多少なりとも次撃まで猶予がある、そう希望的観測をしたジークの愚かさを笑う様に紅蓮竜ヴォルガーンは彼を頭上より見下ろしていたのだ。

 そしてその必殺の間合いまで接近した山の王より、あの音が漏れ始める。


コォォォォォォ…………………


 偉大なる竜王は敵と認めたその存在を焼き殺す為、辺り一帯を塵すら残さぬ最大火力で焼き払う事をその眼光でもって伝える。
 それはもう決着と呼んで差し支えない距離とエネルギーであった。ジークは逃げる事も立ち向かう事もせず、唯その大口が開かれ自らへと業火が解き放たれるのを待つ以外無かったのである。
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