バンクエットオブレジェンズ~フルダイブ型eスポーツチームに拉致ッ、スカウトされた廃人ゲーマーのオレはプロリーグの頂点を目指す事に!!~

NEOki

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第五話 最強の敵⑤

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(レッド、バロン)

 ジークは目の前に現われた次なる敵の名を腹の中で唱える。
 しかし当然、彼はその名が持つ重みを一欠片すら理解してはいなかった

(こっちは1人。向こうは3人、しかも内2人はナイトとウィザードか……キツイな)
 
 ジーク達ついさっき出会ったばかりの即席チームは当然と言えば当然であるが、エターナルグローリーによって蹂躙されていた。
 アーチャーとバンディットは余りにも早いタイミングで前線へ上がって来たレッドバロンに剣の錆びとされた。ウィザードは何故か敵側のウィザードに居場所を割り出され、其処へ魔法攻撃を落とされて何も出来ずにキルされている。

(生き残ってる人間がもうオレしか居ない以上一人に時間を掛けてる余裕はねえ。最短最速でコイツを倒してウィザードが上がって来るのを阻止しねえと…なッ!!)

ッダァ”!!

 そうストレートな思考回路で今すべき事を定めたジークは、一先ず他のプレイヤーにも関わる事である為勝負は投げず冷静に目前の敵を排除する事を決定。
 そしてさながら火薬が爆ぜたかの如き濁音で地を蹴り急加速。直線の残像を描きながら敵ナイトへの最短距離をなぞった。

 しかし、その並の相手であれば訳も分からず勝敗が決する程の速度にナイトが反応を示す。

ダッ、ダンッ!!!!

 だがそんな辛うじて前方からの攻撃に対する構えを作った敵を嘲笑うかの如く、ジークはその目前で進路転換をし側面へと回り込んだ。

 上級者とも成ればアサシンの素の速度程度には対応できる人間も居る、それは前回で学習済み。だがしかし理不尽極まる事に、ジークはその正しく人類の上澄みな反応速度を持つ者達を更に容易く振り切れる異次元の反応速度を保持していたのだ。
 グーを見てからパーを出す様な、それはさながら後出しジャンケン。


 この時、ジークは今相対している最強の騎士を取るに足らぬ通過点と見ていた。


 普通であればもっと遊んでから倒すものの、今の他メンバーが全落ちしている状況では一刻すら無駄にしている時間はない。それ故この相手は短刀一振りに倒してしまおう、等と思っていた。
 突進に反応出来ていたのだから恐らくかなりの研鑽を積んできたのだろう。そんな努力を一瞬で踏みにじる様な真似まねをしてしまって申し分け無い、等と思っていた。

 だがしかし、そんな彼の評価はこのまたたき一つも無いやり取りにて覆される事となる。


ズゥオッ…………


 ジークはこの時敵が真正面に警戒したのを見て右に身体の舵を切り、其処から左へ跳ね戻って側面に入った。そして急所の首目掛け短刀を突き出したのである。
 人間・NPC関わらずこれまで一度も反応された事さえない必殺のアクション。

 しかし、その一度突き出されれば決して敵の命を引き裂かず戻って来た試しの無い凶刃が、この時空を斬ったのである。
 これまでで始めて敵が彼の進路転換しんろてんかんにまで反応し、上体を逸らせ攻撃を回避してきたのだ。

「…………ッ!」

 だが、それで攻勢の権が移る事はない。
 ジークはその手に握っていた短刀を素早く宙へ回転する様に放り、それを逆手持さかてもちの形で掴み直す。そして其処から突き出された状態の腕を引き、内を向いた短刀の切っ先で逸らされた敵の首筋を狙う。

ガシッ……!

 それでも、刃は標的に届かなかった。短刀を逆手へ持ち替えた瞬間敵は行動を先読みして動き、右手を掴んで首筋の反対方向へと押し退けられたのだ。
 それは単純な力業ではない、合気道を思わせる技術。奴に掴まれ押し退けられた瞬間から右腕へ満足に力を込められなくなる。

 其処でジークはこの右手へ握った短刀に見切りを付ける。そして敵の押し退ける力に従い回転しながら、左掌の内へアイテム『スロウナイフ』を出現させたのだ。
 前回の試合で敵に使用され、気に成って自分のアイテム所有枠に入れていたのだが思わぬ場面で役に立った。このアイテムは本来投擲する物なのだが、メイン武器を封じられた今敵の不意を突く暗器としてこれ程便利な物はない。

 ジークは身動きが取れない風を装い、身体で左手を隠しながら相手の意識が右腕に向いている隙にナイフを忍び寄らせる。


ドウン”ッ!!


 しかし、敵はその思惑に先手を打って来た。

 アサシン相手にこの間合いは危険だと判断したナイトは、短刀がある程度身から離れたのを確認するや否や掴んでいた手を外し素早く半身を作る。
 そして回転し彼の正面を向いたジークの背中へと、助走が殆どない距離にも関わらず凄まじい威力のタックルを叩き込んだのだ。

(何だッ今の背中の衝撃…!? 吹っ飛ばされるッ)

 目の届かぬ背中にその衝撃を受けた事、そして此処まで密着した状態であれ程のエネルギーを生む方法が検討も付かないという事が彼の頭を一瞬ホワイトアウトさせる。

 だがそれでも接近戦は自分が有利な筈。
 そう押し寄せる情報をシンプル化して混乱を治めたジークは、体勢を立て直し反転して再び敵の懐へ飛び込もうとする。


…ズゥオオオ”ンッ!!!!


 しかし、その一瞬の混乱が彼の命を救った。
 接近戦の邪魔になる為地面に突き刺した長剣、それを引き抜く動きに合わせナイトが放った斬撃がジークの前のめりに成った鼻先を掠めたのである。

 敵は彼が即座に間合いを詰めてくる事に賭け攻撃してきたのだろう。
 あと少し踏み切りが良く真っ二つに両断されていたifの未来が脳裏を過ぎり、ジークは重心を後ろへ引かざるを得なかった。

 その結果、ジークとレッドバロンがまるで示し合わせたかの如く動きを止めた。


(こいつッ………………クソ強えェッ!!!!)
(こいつッ………………本物だッ!!!!)


 そして二人は、同じ穴の狢とはこの事という笑顔を浮かべ互いの強さを認めたのである。


 ジークの瞳にこの男は、嘗て彼と白夜のみが倒せたヘルズクライシスのラスボスを思わせる圧倒的なスケールで映った。今まで戦ってきたプレイヤー達とは一線を画す、自らが勝利しているヴィジョン思い浮かばぬ強敵。正しく彼が求め続けた、全力でぶつかっても壊れる事の無い無限の壁であった。
 レッドバロンの瞳にこの男は、世界を根底から引っ繰り返してしまいそうな輝きを秘めたダイヤの原石に映った。今まで戦ってきたプレイヤー達とは一線を画す、全く別物の技術体系と才能を持った強敵。正しく彼が求め続けた、これから何もかもを巻き込み込み変化させていく流れそのきっかけであった。


 後にこの時を振り返り、何故彼らがこれ程身が打ち震えんばかりな感動を覚えたのかという説明をしようとすれば言葉は尽きなかった。
 だがしかし今この瞬間、二人の頭の中にあったのは非常にシンプルな一つの感情。

((この男に、オレの全てをぶつけてみたい!!))

 そう思うのに理由は要らなかった、そしてそれを実現するのにも理由は要らなかったのである。
 再び互いに示し合わせたかの如く前へ出たのを合図として、どちらか片方が地に伏すまで心臓の高鳴りが止むことの無い戦いのゴングが鳴った。
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