バンクエットオブレジェンズ~フルダイブ型eスポーツチームに拉致ッ、スカウトされた廃人ゲーマーのオレはプロリーグの頂点を目指す事に!!~

NEOki

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第七話 ラージボルテックス

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『トラブルの発生により、現在勝ち残りタイマンバトルのコーナーは中断されています。再会までもう暫く掛かりますので、申し訳ありませんが少々お待ちください』

 そんなもう何度目か分からぬアナウンスを、疾風はうんざりとした表情と貧乏揺すりで聞いた。

 トラブルというのは、疾風の倒した対戦相手がそのまま意識を失ってしまったのである。
 試合終了から暫く経ってもピクリとすら動かなかった為スタッフがヘッドセットを外すと、彼は白目剥き泡を吹いて気絶していたのだ。

 恐らく最多連勝記録の更新目前で倒されたのが余程ショックだったのだろう。少し、悪い事をしたなと思った。

 彼は直ぐに救急車で運ばれ、コーナーは一端中断。予想外の事態に会場は騒然と成っていた。
 だがその混乱も数分もすれば収まり、会場の他の場所では今も普通にイベントが続けられている。しかし、このコーナーのみが中断したままもう直ぐ一時間の時が流れようとしていた。

 昔のコーラで歯が溶けるや、ゲームで脳が縮む等と言われたのと同じ物で、近年フルダイブVRは脳に悪影響という噂が世間を賑わせている。人とは新しい物を叩かずにはいられないらしい。
 そしてその最中に気絶事件がこんな大きなイベントで起ったのだから、対応に運営は手間取っているのだろう。

 だがそれでも、疾風は一言くらい自分には運営に文句を言う権利があると思った。

 現在このコーナーのステージには疾風一人が取り残されている。そしてゲームはプレイされていない為、只管に彼の顔だけへとカメラが向き全てのモニターに彼の顔が映り続けているのだ。
 これでは良い晒し者。そんな状態で一時間も座らされ続けているオレの気持ちも考えて欲しい、そう疾風は思った。

「……すみません、もうオレの不戦敗で良いので帰って良いですか?」

 オレは四度目のトライとしてステージ脇に控えるスタッフの女性へと訪ねた。
 しかし返ってきたのは何度も聞いた同じ言葉。

「申し訳ありません。あと暫くで再開されると思いますので、もう少々お待ちください」

 そう女性は申し訳なさそうに言って頭を下げた。しかし絶対に席を立つ事は許してくれず、もう少々もう少々と同じ事を繰り返すのみ。
 どうやらこの大企業の社員にとって少々とは1時間の事を指すらしい。きっと労働基準監督署とは仲が良いのだろうな。

 そう疾風は腹の中で毒づき、もう普通の手段でこの場から離れるのは諦めたのだった。一時間も顔面を晒され続けたのだから其れ位の権利は有るだろう。
 そこで数秒考えた疾風は、単純だが恐らく上手く行くであろう方法を思い付いた。

「……すみません、じゃあちょっとだけトイレに行っても良いですか? け、結構前から我慢しててもう限界でッ」

 まるで今にも限界を迎えそうなモジモジとする演技をしながら、疾風はスタッフに尋ねた。女性は一瞬困った様な顔をしたが流石に此処で漏らされる訳にはいかない。
 直ぐに戻って来て下さいねと念押しされた上で、トイレの方向を教えてくれた。

 疾風は頭を下げ、その教えて貰った方向へと小走りで向かう。すると直ぐにトイレの在り方を示す赤と青の表示が見えてきた。

 しかし、彼がそのトイレの中へと入る事は無い。寧ろ中から両手をハンカチで拭きつつ出てきた人々に紛れて身を隠すという行動を取った。
 そしてトイレの前を通り越し、更にその先へと進んでいったのである。

 当然、もう戻る気は無かった。
 これ以上あんな場所で大勢の目に顔面を晒され続けて堪るか。既に一勝したから目的の限定スキンは入手出来た、もうこの場に用は無いのである。

 やはりゲームは家で一人静かにやる物だ。
 久し振りの外出で疲弊ひへいし、速くカビ臭く狭い自室へ戻ってプライバシーを確保しろと叫ぶ全神経の声に従い、疾風の足はその速度を上げていく。
 まるで溺れた人間が酸素を求める様に、彼は今出口と静寂を求めていたのだ。

 そしてその只管前へ先へと向いた彼の意識では、隣を知り合いが擦れ違ったとしても気付く余裕は無かったのである。



「ッん? あれは………群雲疾風ッ!?」

 しかし、その擦れ違った知り合いの方は彼の存在に気が付いた。

 視界の端にチラリと映った横顔で背後を振り返り、そして見えた覚えのある後ろ姿に驚きの音を漏らす。未だステージ上に留まっていると思っていたらまさかこんな所で擦れ違うとはと。
 何が有ったかは知らぬが、こうしては居られない。

 その知り合いは直ぐに疾風の後を追おうとするが、しかし周囲を包む人混みに阻まれ上手く動けない。
 そして何とか方向転換しようと藻搔く間に、彼の姿は何処かへと消えてしまっていた。

 数時間前には諦めた状況。しかし、今その目に宿る執念の色は桁違いに深く成っていたのである。

 彼女はポケットから携帯を取り出し、疾風が消えていった方向へと歩きながら目線を向けずに番号を押す。
 そして相手が出ると妙に落ち着いた声で、しかしマシンガンの如くに用件を伝えた。事は急を要するのである。

「…………アタシだ、至急準備してくれ。…話は後回しでッとにかく乗って貰おう、そうすりゃ如何とでも出来る。ああ、この際手段は選んでらんねえよッ」

 そう言って通話を切り、凛堂優奈は獰猛な肉食獣が如く笑った。
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