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第八話 愛の力⑧
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唐突に飛び出して来た、凪咲も一緒にこのチームハウスで生活すれば良いという提案。
その予想外の方向から飛んできた新たな案に固まる妹の代わりに、兄は言葉の真意を理解できないままでも海斗へと質問を行う。
「す、住めば良いって海斗お前ッ、そんな簡単に言って良いのか? 他人がお前の家に居候してくるんだぞ??」
「うん。部屋はまだまだ残ってるし何も問題は無い、食卓は囲む人が多ければ多い程良いからね。それに、チームメンバーの妹って事は実質僕の妹でもある。他人じゃ無いッ」
「いや、お前の妹ではなッ…」
「是非ッお願いします″”!!!! 疾風と同じ屋根の下で寝られるならどんな小さな部屋でも構わないので!! お願いですッ、私も此処に住まわせて下さいッ!!!!」
取り敢えず質問してみたものの依然混乱の只中に居る疾風とは対象的に、凪咲は言葉の意味を理解した瞬間躊躇なくその提案に飛び付いた。
此処で自分も引っ越す事が出来れば、少なくとも引き続き兄と一緒に居る事が出来る。それ以外の事など彼女にとっては考慮に入れる必要すら無かったのだ。
「おッ、おい凪咲、女の子が他人の家に住む何てそんな簡単にッ……」
「疾風、良いよね”ッ」
「うぅっ………………………」
余りにも軽率に引っ越しを決めようとする妹を疾風は踏み留まらせようとするが、凄まじい目と声の圧をぶつけられ黙るしかなかった。
海斗の提案は折衷な様で、妹を自由にしてあげたいという疾風の願いは一切組み込まれていない。
恐らく、やっと手に入れたエースを逃がさない、その目的のため凪咲を住まわせるのが最も手っ取り早く確実だと彼は判断したのであろう。
疾風を手元に置いておく為なら妹だろうが弟だろうが住まわせる、そう海斗は目で語っていた。
自分と相手の利益は矛盾していない。そう察した海斗と凪咲は直ぐさま手を組み、疾風を抜きにしてさっさと話を纏めに掛かる。
「それじゃあ今日は一先ず帰って、後日引っ越して来ると良い。こっちもそれまでに部屋の掃除とか諸々の準備をしておくからさ」
「そうさせて貰います。私の仕事が休みの日…いきなり来週末に越して来ても大丈夫ですか?」
「全然こっちは大丈夫だよ。引っ越し業者は頼む? 何ならウチから大きめの車出せるし、人手もそこそこ集められるけど」
「本当ですかッ! 助かります、じゃあお言葉に甘えて……」
余りの急展開に理解が追い付かない疾風を置き去りに、海斗と凪咲はどんどんと引越しの段取りを決めていった。先程の険悪な雰囲気は何処へ行ったのだろうか。
そうして疾風の出る幕なく殆ど話が纏まり、今日は一旦帰宅という運びと成ったのである。
「じゃあそろそろ。外に車を待たせてあるので、また兄を連れ出直させて貰いますね」
「うん。じゃあ詳しい日程が決まったら教えてね」
「はい、直ぐ送らせて貰います。其れじゃあ疾風、帰るよッ」
「うえッ!? あ、あぁ……」
目を白黒させて棒立ちと成っていた疾風の手を凪咲が掴み、外へと引っ張る。
「それじゃあ又後日ねー、疾風もバイバ~イ!!」
そして閉っていく扉の隙間から海斗の手を振る姿を見て、声を聞き、扉が閉る。
来た時も目が回る様な慌ただしさであったが、帰りも混乱しっぱなしのまま、電撃の様にこのチームハウスを離れる事と成ったのであった。
スタ………スタ………スタ………スタ……ガチャッ
そしてチームハウスを出た二人は、少し離れた所で待っていたマネージャーの車に乗り込む。
しかし話が纏まっても、チームハウスを出ても、車が発車しても、凪咲はずっと兄の右手を握って離さず不機嫌なままであった。
「……許してないからね、私を捨てようとした事」
車が動き出して数分、凪咲がそう耳元で言った。
「ごめんって、そんなに怒んないでくれよ。オレもお前の幸せを思って」
「そういう話もう聞きたくない。私は今充分幸せだもん」
「……分かった、もう言わない。じゃあ如何やったら許してくれる?」
「今日は一緒に寝て貰うから、マッサージもする。一晩掛けて疾風には私が必要だって事を教え込んで上げるわッ」
そう言って凪咲は疾風に腕を絡め、身体を密着させた。
(………………はぁ、今日は眠れなさそうだな)
疾風はそう内心で溜息と共に呟き、急に重く感じ始めた頭を抱える。
彼としては早く兄離れをして彼女だけの幸せを見付けて欲しいのだが、両親を失ったトラウマのせいか、凪咲は中々絡めた腕を放そうとはしてくれない。
この先に待つ環境の変化で少しでもこの子にプラスの影響が有れば良いな、そんな事を思いながら疾風は流れゆく夜景を窓から眺めた。
たった一日の間に、世界は随分と様変わりしてしまった様に感じる。
全くの偶然でレッドバロンと対戦してから、いやヘルズクライシスがサービス終了してから、世界が七転八倒している気がした。二年間も同じ事を繰り返し続けた日々との落差に、目眩を覚える。
あの安定して時計の針が止まっていた時間が恋しい。
だが同時に、疾風はまるで止まっていた時を取り戻すかの如く急激に変化し始めた世界へ対し、微かな期待も抱いていたのである。
何はともあれ、今日この日群雲疾風はeスポーツチーム『ラージボルテックス』と接触し、彼をずっと待っていた電子世界の戦場へと大きな一歩を踏み出したのであった。
その予想外の方向から飛んできた新たな案に固まる妹の代わりに、兄は言葉の真意を理解できないままでも海斗へと質問を行う。
「す、住めば良いって海斗お前ッ、そんな簡単に言って良いのか? 他人がお前の家に居候してくるんだぞ??」
「うん。部屋はまだまだ残ってるし何も問題は無い、食卓は囲む人が多ければ多い程良いからね。それに、チームメンバーの妹って事は実質僕の妹でもある。他人じゃ無いッ」
「いや、お前の妹ではなッ…」
「是非ッお願いします″”!!!! 疾風と同じ屋根の下で寝られるならどんな小さな部屋でも構わないので!! お願いですッ、私も此処に住まわせて下さいッ!!!!」
取り敢えず質問してみたものの依然混乱の只中に居る疾風とは対象的に、凪咲は言葉の意味を理解した瞬間躊躇なくその提案に飛び付いた。
此処で自分も引っ越す事が出来れば、少なくとも引き続き兄と一緒に居る事が出来る。それ以外の事など彼女にとっては考慮に入れる必要すら無かったのだ。
「おッ、おい凪咲、女の子が他人の家に住む何てそんな簡単にッ……」
「疾風、良いよね”ッ」
「うぅっ………………………」
余りにも軽率に引っ越しを決めようとする妹を疾風は踏み留まらせようとするが、凄まじい目と声の圧をぶつけられ黙るしかなかった。
海斗の提案は折衷な様で、妹を自由にしてあげたいという疾風の願いは一切組み込まれていない。
恐らく、やっと手に入れたエースを逃がさない、その目的のため凪咲を住まわせるのが最も手っ取り早く確実だと彼は判断したのであろう。
疾風を手元に置いておく為なら妹だろうが弟だろうが住まわせる、そう海斗は目で語っていた。
自分と相手の利益は矛盾していない。そう察した海斗と凪咲は直ぐさま手を組み、疾風を抜きにしてさっさと話を纏めに掛かる。
「それじゃあ今日は一先ず帰って、後日引っ越して来ると良い。こっちもそれまでに部屋の掃除とか諸々の準備をしておくからさ」
「そうさせて貰います。私の仕事が休みの日…いきなり来週末に越して来ても大丈夫ですか?」
「全然こっちは大丈夫だよ。引っ越し業者は頼む? 何ならウチから大きめの車出せるし、人手もそこそこ集められるけど」
「本当ですかッ! 助かります、じゃあお言葉に甘えて……」
余りの急展開に理解が追い付かない疾風を置き去りに、海斗と凪咲はどんどんと引越しの段取りを決めていった。先程の険悪な雰囲気は何処へ行ったのだろうか。
そうして疾風の出る幕なく殆ど話が纏まり、今日は一旦帰宅という運びと成ったのである。
「じゃあそろそろ。外に車を待たせてあるので、また兄を連れ出直させて貰いますね」
「うん。じゃあ詳しい日程が決まったら教えてね」
「はい、直ぐ送らせて貰います。其れじゃあ疾風、帰るよッ」
「うえッ!? あ、あぁ……」
目を白黒させて棒立ちと成っていた疾風の手を凪咲が掴み、外へと引っ張る。
「それじゃあ又後日ねー、疾風もバイバ~イ!!」
そして閉っていく扉の隙間から海斗の手を振る姿を見て、声を聞き、扉が閉る。
来た時も目が回る様な慌ただしさであったが、帰りも混乱しっぱなしのまま、電撃の様にこのチームハウスを離れる事と成ったのであった。
スタ………スタ………スタ………スタ……ガチャッ
そしてチームハウスを出た二人は、少し離れた所で待っていたマネージャーの車に乗り込む。
しかし話が纏まっても、チームハウスを出ても、車が発車しても、凪咲はずっと兄の右手を握って離さず不機嫌なままであった。
「……許してないからね、私を捨てようとした事」
車が動き出して数分、凪咲がそう耳元で言った。
「ごめんって、そんなに怒んないでくれよ。オレもお前の幸せを思って」
「そういう話もう聞きたくない。私は今充分幸せだもん」
「……分かった、もう言わない。じゃあ如何やったら許してくれる?」
「今日は一緒に寝て貰うから、マッサージもする。一晩掛けて疾風には私が必要だって事を教え込んで上げるわッ」
そう言って凪咲は疾風に腕を絡め、身体を密着させた。
(………………はぁ、今日は眠れなさそうだな)
疾風はそう内心で溜息と共に呟き、急に重く感じ始めた頭を抱える。
彼としては早く兄離れをして彼女だけの幸せを見付けて欲しいのだが、両親を失ったトラウマのせいか、凪咲は中々絡めた腕を放そうとはしてくれない。
この先に待つ環境の変化で少しでもこの子にプラスの影響が有れば良いな、そんな事を思いながら疾風は流れゆく夜景を窓から眺めた。
たった一日の間に、世界は随分と様変わりしてしまった様に感じる。
全くの偶然でレッドバロンと対戦してから、いやヘルズクライシスがサービス終了してから、世界が七転八倒している気がした。二年間も同じ事を繰り返し続けた日々との落差に、目眩を覚える。
あの安定して時計の針が止まっていた時間が恋しい。
だが同時に、疾風はまるで止まっていた時を取り戻すかの如く急激に変化し始めた世界へ対し、微かな期待も抱いていたのである。
何はともあれ、今日この日群雲疾風はeスポーツチーム『ラージボルテックス』と接触し、彼をずっと待っていた電子世界の戦場へと大きな一歩を踏み出したのであった。
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