バンクエットオブレジェンズ~フルダイブ型eスポーツチームに拉致ッ、スカウトされた廃人ゲーマーのオレはプロリーグの頂点を目指す事に!!~

NEOki

文字の大きさ
59 / 65

第九話 練習②

しおりを挟む
ブオオオオオオオォッ………ストンッ


 この日の練習メニューは、VIPマッチによる実戦練習。

 凛堂優奈ことプレイヤーネーム『エイナ』が、アイテム『ジェットストリーム』による空中散歩を終えて地上に着地。試合開始と同時に何を差し置いてでも前線へ上がらねば成らないアーチャーのお決まりムーブである。
 そして両足が地面に付いたと同時に走り出し、アーチャーの職場である中立地帯へと一秒のロスも許さぬ様子で向かっていく。

 すると直ぐに、自陣と中立地帯の境界線が迫ってきた。

「中立地帯に到着。レベリングを開始する」

『了解。前線の位置は押し込まれなければそれで良いから、間違ってもエイナがキル取られる事は無い様にね』

「了解」

 そうウィザードへと報告を入れ、自陣でも敵陣でもない中立地帯へとエイナは足を踏み入れる。
 そして即座にレベリングを開始した。

 このゲームでは前線の位置がチーム間の優勢度合いによって決まり、その度合いは更にキル数と中立地帯内で獲得された経験値数が主な比較要因となる。
 そしてキルがそう頻発する物ではない以上、アーチャーの仕事である序盤の前線操作《ぜんせんそうさ》は如何に効率よくレベリング出来るのかという点が重要に成ってくる。


ッヒュン ヒュン  ギリリ……ッビュン!!

【エイナ 460ex獲得】
【レベルアップ レベル3へ到達しました】

(……チッ、やっぱり効率悪いな。1分800exって所か)


 中立地帯にスポーンするモンスター『フォレストタイガー』へと3発矢を放って倒し、漸くレベル3へ到達したエイナは脳内でそう呟く。

 このレベリングとは唯ジャングルに潜ってモンスターを狩る単純作業の様に見えて、実は動作の狂い一つで最終的な経験値獲得量が大きく前後する繊細な行為。
 しかし彼女は、アーチャーでありながら無駄を削り効率を突き詰めてゆく繊細さを持ち合わせていなかったのである。


 経験値獲得効率《けいけんちかくとくこうりつ》だけで見れば、エイナは平均以下のプレイヤーなのだ。


 しかしそれでも、彼らのチーム『ラージボルテックス』が序盤戦で前線を押し込まれる事は殆ど無い。
 そしてその主要因は、彼女の弱点を補って余り有る対人戦闘能力の高さにあった。

ササッ……ッヒュン!!

 聴覚が微かに草葉の掻き分けられる音を捉えた次の瞬間、エイナは目にも留まらぬ早射りでその方角へと矢を放っていた。

ッヒュン!!

 すると攻撃を放った方角からも同様に牽制の矢が飛来、彼女から1メートル程離れた空間の大気を貫き風切り音を残す。
 敵のアーチャーとエンカウントしたのだ。

 この瞬間アーチャーに迫られる選択肢は二つ。互いに要らぬリスクを背負うのを避けて引くか、若しくは自らがキルされるリスクを背負ってでも敵をキルしに攻めるか。
 エイナは迷わず、寧ろ嬉々として後者を選び取った。

タッタッタッタッ………ギリィィ、ッヒュン!!

 アーチャーのジョブスキル『ハンターセンス』により大木を透視して敵影を捕捉。彼女は木々の隙間を駆け抜け、大木の影に隠れた敵へと射線を通し矢を射放った。
 そして敵も同じくハンターセンスを持っておりその攻撃に反応。しかし取った行動はエイナとは真逆で、元居たのとは別の大木の陰へと飛び退き、何とか矢を回避する。

 一瞬にも満たぬ内に行われた遣り取り。しかしその中には、潤沢にエイナというプレイヤーが持つ強みが現れていた。


 アーチャー同士の戦いは、主導権を握った方が勝つと言われている。この主導権とは、先に敵の位置を捕捉し、先に動き出し、先に矢を放った者が一般的に握る場合が多い。

 そしてその敵の位置を複雑な地形のフィールド上で把握する為、アーチャーにはハンターセンスというこれ以上ない程便利なスキルが与えられている。だが実はこのスキル、使用すると二者択一《にしゃたくいつ》的に動きが鈍く成るという奇妙な現象が発生するのだ。
 遮蔽物が透けて見える事で距離感が掴み辛くなり、更に気付かず岩木に衝突せぬよう慎重に動かざるを得なくなるから。


タッタッタッ、ダン″ッ……ギリィィ、ッヒュン!!


 だがしかし、エイナはその範疇には入らない。今この瞬間も風の如く深い森の中を走り、物陰に隠れた敵へと矢を放ってゆく。

 彼女は、バンクエットオブレジェンズのステージを目を瞑ってでも歩ける程正確に脳へ刻み込んでいた。
 そのため視覚情報を脳内に照らし合わせ、狂いなく敵と自らの位置関係を把握する事が可能。遮蔽物が透過された状態でも迷わず動き、自由自在に標的へと射線を通してゆけるのだ。

 つまり、ほぼ確実に敵より先に動き出し、敵より先に矢を放てるのだ。

 このアドバンテージにより、エイナはアーチャーとしては異常としか言いようがない一試合平均キル数0.9という驚異的な数値を保持している。
 プレイヤーキルに特化した、超攻撃的なアーチャー。



(………潔く勝負に見切りをつけたか)

 木々の隙間を縫うように走り、敵の逃れた先へと回りこんで射線を通し、また敵が逃げるという流れを数度繰り返した後。終始主導権を握られ続けた相手が等々耐え切れなくなり、中立地帯内からの離脱を選択した。
 此方へ背を向け、一目散に自陣へと逃げ帰ってゆく。

(まあ、逃さねえけどなッ)

 そして、ハンターセンスで透過した視界の中逃げゆくその敵影を見て、エイナは荒々しく口端を吊り上げた。

 本来であれば、この時点で彼女のアーチャーとして与えられた役割は完遂された。敵のアーチャーを中立地帯外へと追い出せれば経験値を独占でき、確実に前線を敵側へ押し込む事が出来るのだから。
 しかしエイナは、あくまで自らの個人的な目的のためその背を追ったのであった。


「ブースト、起動」

【ブースト アルテミスアロー起動。戦の雌雄、この一矢に定まりたり】


 エイナは中立地帯と敵陣の境界線ギリギリまで敵を追い、そこでブーストを起動させた。
 そしてハンターセンスにより遮蔽物を透かして覗くその背中目掛け、全神経を研ぎ澄まし弦を引き絞る。

 アーチャー同士の戦いで主導権を握った側が勝つと言われている理由、それはこのレベル3で入手出来るにしては余りに強力が過ぎるブーストにあった。

 ブースト『アルテミスアロー』の効果は、一射限りの攻撃力バフとあらゆる遮蔽物を貫通する特殊効果の付与。
 そしてこの特殊効果が最も凶悪に作用するタイミングとは、敵が反撃という選択肢を捨てて逃げ、悠々とその背中へ的を絞る事が出来る状態の時。

 あらゆる遮蔽物を透過するハンターセンスと、あらゆる遮蔽物を貫通するアルテミスアロー。
 この二つが組み合わされば、敵の逃げという選択肢を即死に直結させる事が出来る。

「スゥゥ………………………」
 
ギリリリリリッ……………ッビュウ”ン”!!!!


 息を止め限界まで集中を高めたエイナの弓弦が弾かれ、黄金の矢が解き放たれる。そして幾重もの遮蔽物に遮られていた敵アーチャーの命を、一直線に射貫いた。
 背中から胸へと貫通する巨大な風穴が空き、其処から身体が光の粒と成って崩れゆく。

 アーチャー同士の戦いとは、先に我慢比べに折れ、逃げに回った方が負けるのである。


【キルログ エイナ→トンプソン✖】
【レベルアップ レベル4へと到達しました】


「フゥゥ…………よし、アタシの勝ちだなッ」


 敵が光の粒と成り砕け散った事を知らせる通知が届き、エイナは小さなガッツポーズと共に達成感を噛み締めた。

 正直、今のタイミングで敵を態々《わざわざ》追いかけてキルまで取る必要は無かった。敵を中立地帯より追い出せればそれでアドバンテージは充分だっただろう。
 しかしそれでもリスク承知で彼女がキルを取ったのは、この達成感を味わいたいが為なのである。

 エイナはこう言ってしまうと人聞き悪いが、戦う事が好きなのだ。

 しかし別に暴力で敵を虐げるのが好きという訳ではない。人間と人間が持てる力の全てを振り絞ってぶつかり合う、その決着の瞬間勝っても負けても感じられる他じゃ味わえない特別な感慨。それが大好きなのだ。
 だから今も引くのが最善と分かりつつ自分にブレーキを掛ける事が我慢成らなくて、深追いしてまで決着を求めた。


 その純粋な戦いを楽しむという気持ちこそ彼女の持つ高い戦闘能力の源。そして同時に、エイナの、文字通り致命的な弱点でもある。



【戦術魔法:ヘブンズウォール】

「ッな!? しま”ッ………!!」
ズオ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”″ンッ!!



 敵ウィザードが魔法を発動した通知に慌てて振り返った時には既に手遅れ。彼女の目と鼻の先に巨大な光の壁が降ってきて、無慈悲に自陣への退路を塞いだ。

「…………クソ、やられたッ」

 エイナは味方との繋がりを突如として断たれ、敵陣と壁に挟まれた余りに狭い空間の中で1人孤立する事と成ったのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...