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王子は姫を守りたい

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 その日若王子 優わかおうじ ゆうは心に誓った。この可愛らしすぎる生き物、姫川 依澄ひめかわ いずみを、絶対に守ると。




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 姫川 依澄と若王子 優はそれぞれその苗字から、こぞって姫と王子と呼ばれていたが、呼ばれる所以は名前だけではなかった。依澄は男性ながら中性的な顔と線の細い体をしていて、守ってあげたくなるような雰囲気をまとっていた。優は反対にさながら王子のような振る舞いが板につき、背はそこまで高くもなかったが、ショートカットの似合う爽やかな女性だった。
 高校に入学し偶然同じクラスになった2人は、その苗字と中身により自然と有名になり、あるきっかけで仲良くもなった。
 優が依澄と仲良くなったきっかけ。それは、体育倉庫に備品を片付けに行った優が、男子に襲われかけていた依澄を助けたことだ。その日以来、優は過保護なまでに依澄を気に掛け、依澄は優にべったり張り付き甘えている。あと学内で、姫と王子を見守る会というとんでもなく大規模なファンクラブが、本人たちの知らないところで出来上がったりもした。



「依澄、今日もお昼一緒に食べる?」
「うん!」
 にっこり笑って返事をする依澄に、優もにっこり笑みを返しその頭を撫でた。
「いつも一緒に食べてるけど、他の友達とは食べなくていいの?気を使わなくていいんだよ?」
「僕、他に仲のいい友達とかいないし、何より優ちゃんと一緒に食べたい!」
そう言った後に、小声でダメ?と首を傾げながら聞かれると、優はダメだとは言えない。
 最初は襲われかけた所を助けたのもあって、自分が側にいて守ってやらねばと、お昼も一緒に食べていたのだが、最近はそろそろお昼の時間くらいは自分から離れても問題無さそうだと思ったのだが……
「わーい!今日は何食べようかなぁ?優ちゃん、何にする?」
毎日この調子なので、優も諦め始めている。
 優としては、依澄のことは守ってやりたいが、常に自分にべったりで他の人間と関わらないのも、友達が出来なくて困るのでは?と心配なのだ。友人というより母のようだが、そんな心配ごとは他にもあった。依澄といると、男女ともに熱い視線が依澄に向けられているのを多々感じる。自分がそばにいるせいで、依澄に話しかけたくても近づきにくくなってしまっているのでは?と優は考えていた。
 もし自分の存在が素敵な出会いの邪魔になっていたら、守るどころか害になっているのではないかとも少し悩んでもいた。何しろ優本人は興味はないが、周りの人達は皆こぞって、恋愛に興味関心を強く持っていたからだ。

「僕ねぇ、Aランチにしたー!」
 呑気に笑いながらお盆を手に持ち振り返る依澄は、文句なしに可愛く、まさしく姫だ。こんなに可愛い姫を、好きにならないやつがいるわけない。優は周りの視線を集める依澄を見て、考えるのをやめた。
 こんなに可愛いんだから、素敵な出会いの相手が現れれば、自分がいても近付こうと声をかけてくるだろう。そう思うことにして、自分もお盆を手に取って昼食を選ぶことにした。



「お、王子!あの、この間はありがとうございました!!これ、お礼です。良かったらっ、これ、あの、買ったものなので、安心してください!」
 昼食を食べていると、小柄な女の子が顔を真っ赤にして小さな箱を差し出してきた。ちなみに昼食のメニューはBランチにした。ホットサンドにスープとサラダが付いている、女の子人気の高いセットだ。依澄の頼んだAランチは、ラーメンに半チャーハンのついたセットだ。依澄は外見によらず、意外と食べる。
「あぁ、この間の。大丈夫だった?」
「はい!王子のお陰で助かりました。本当にありがとうございました!」
 ずっと手に持たせているのも可哀想なので、スッと手を伸ばし小箱を受け取った。
「これ、貰っていいの?悪いね、でもありがとう」
「は、はい!で、では!」
 優しく微笑んだ優の顔を見て、それ以上赤くなるんだと思うくらい顔を朱に染めてその女の子は最後にもう一度頭を下げて去っていった。
「この間って?何かあったの?」
 その様子を黙ってみていた依澄が聞いてきた。
「うん、ちょっとね。困ってたみたいだから、助けてあげたんだ」
「ふぅん?……ねぇ、それ何が入ってるのかなぁ?」
 若干声のトーンが低くなった気もしたが、表情は笑顔のままなので気のせいだと思い、手に持った箱を見た。
「わ!これ私も好きなお店のクッキーだ!美味しいんだよねぇここの」
偶然だろうが、自分の好きなお店のお菓子とわかりテンションが上がる。
「何それ。僕、優ちゃんが好きなお店なんて知らないのに。ズルい」
「あはは、ズルいって何?この辺では有名なんだよ、このお店」
「優ちゃんが好きな味、僕も知りたい!それ、ちょうだい」
 それ、と言って手にある箱を指差す依澄に、少し困った顔をして優は言った。
「ごめんね、これはあの子が私にくれたのだからさ。人にあげたら失礼でしょ?」
「えぇー、でも、僕も気になっちゃったもん。食べたいよ」
引き下がらない依澄に優は困ったが、ふと思い付いた案を言ってみる。
「あ、じゃあコレはだめだけど、お店に一緒に行くのはどう?イートインがあるから、ケーキとかも食べられるよ。お店で買って一緒に食べようか?」
 優の提案に、依澄の顔はパァァとわかりやすく明るく、声も明らかにトーンが上がった。
「それ凄くいい!僕と優ちゃんの初デートだねっ!!楽しみ!いつにする?今日でも良いよ!」
「ふふ、そんなに喜ばれると思わなかったな。でも良かった。今日はバイトがあるからダメなんだけど、明日なら大丈夫だよ。依澄はどう?」
「明日?もちろん大丈夫!優ちゃんとどこか行くのにダメな日なんてないよ!」
 あまりの喜びように、自分まで嬉しくなるのを感じて、笑顔がさらににやけそうだ。こんなに可愛い生き物が、存在して良いのだろうか。男にしては長めの、ハーフアップに結ばれた髪がぴょこぴょこ跳ねるのを見て癒されながら、昼食の続きをとった。
 







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